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第十八話 師匠、連戦する

遠くの道の方からこちらへ向かって走ってきた男は、俺たちのいる空き地のすぐ手前で勢いよく足を止めたのだが、急に止まったせいで地面の砂がふわりと舞い上がり、その男は肩で大きく息をしながらしばらくその場に立ち尽くしていたため、ここまで全力で走ってきたのだろうということが一目で分かった。


体格は隣に立っているガルドほど極端に大きいわけではないものの、それでも普通の兵士よりは明らかに体格がよく、広い肩幅と太い腕、そして長いマントの下から見える鍛え上げられた身体つきが目立っており、腰には長く使い込まれているらしい剣が下がっていて、顔にはいくつか古い傷が残っているため、いかにも戦場を渡り歩いてきた男といった雰囲気を漂わせていた。


その男の姿を見たガルドが腕を組みながら小さく呟く。


「……ダリウス」


その名前を聞いた瞬間、近くの石の上に腰を下ろしていたフィリアが苦笑しながら肩をすくめた。


「やっぱり来ましたね」


男――ダリウスはまだ呼吸を整えながらゆっくり顔を上げる。

そして、俺を見た。

その瞬間、ダリウスの目が大きく見開かれる。

まるで信じられないものを見たかのような顔だった。


「……え」


小さく声が漏れる。

しばらく沈黙が流れたあと、ダリウスはもう一度俺を見直すようにじっと見つめた。

そして次の瞬間。


「師匠!?」


驚きと信じられない気持ちが混ざったような大きな声が、静かな空き地に思いきり響いた。

俺は頭をかきながら軽く答える。


「久しぶりだな」


ダリウスは一瞬その場で固まっていたが、すぐに慌てた様子でこちらへ駆け寄ってきたため、その足取りの速さからもかなり動揺していることが伝わってきた。


「ちょ、ちょっと待ってください本物ですか?え、なんで師匠が王都にいるんですか!?」


息もまだ整っていないのに、一気にそんなことをまくし立てる。

その様子を見たガルドが呆れた顔をする。


「うるせえな。少し落ち着け」


フィリアも笑いながら言う。


「ダリウスは昔からこうですよね」


ダリウスは深く息を吐きながらようやく呼吸を落ち着かせると、改めて俺の顔をまじまじと見つめた。

そして、ゆっくりと息を吐く。


「いや……本当に師匠だ」


その声にはどこか安心したような響きが混ざっていた。


「噂は聞いていましたけど、まさか本当に王都に来ているとは思いませんでした」


俺は肩をすくめる。


「俺も来るつもりはなかったんだけどな。レオンに呼ばれたんだ」


ダリウスは少し驚いた顔をする。


「騎士団長のレオンに?」

「ああ。なぜだか知らんが王様に紹介するらしい」


その言葉を聞いた瞬間、ダリウスは完全に固まった。


「……王様?」

「らしい」

「師匠が?」

「俺もよく分からん」


ガルドが横で笑う。


「俺もさっき聞いたばっかだ」


フィリアも言う。


「王様、きっとびっくりしますよ」


ダリウスは腕を組みながらしばらく考え込むような顔をしていたが、やがて小さく息を吐いた。


「王様に紹介、ですか……」


そしてゆっくり頷く。


「確かにそれは大事な話ですね」


だが、その直後にダリウスの視線が地面へと向いた。

草が踏み荒らされている。

剣が強く叩きつけられたような跡がある。

深い足跡も残っている。

ついさっきまでここで戦っていたことは誰が見ても分かる状態だった。

ダリウスがゆっくり口を開く。


「ガルド」

「なんだ」

「戦ったのか?」


ガルドはニヤリと笑う。


「ああ。師匠とな」


ダリウスの目が大きくなる。


「マジですか」


そしてすぐに聞く。


「で?どうなった」


ガルドは肩をすくめる。


「負けた」


あまりにもあっさりした答えだった。

フィリアが横から楽しそうに言う。


「二回とも」


ダリウスは数秒ほど黙っていたが、そのあと小さく笑った。


「はは。やっぱり」


ガルドが眉をひそめる。


「なんだその反応」


ダリウスは肩をすくめる。


「いや、だって昔から勝てなかったじゃないですか」

「うるせえ」


ガルドが言う。

ダリウスはそのまま俺の方を見る。

その目には、どこか懐かしそうな色が浮かんでいた。


「師匠」

「なんだ」

「ちょっといいですか」


そう言うと、ダリウスはゆっくりと腰に差していた剣の柄へ手を伸ばし、まるで昔と同じことを思い出すかのような表情でその柄を握った。

金属が擦れる小さな音が静かな空き地に響く。


「……まさか」


ガルドが笑う。


「お前もやるのか?」


ダリウスは口の端を上げてニヤリと笑った。


「当然だろ。久しぶりに師匠に会ったんだぞ」


フィリアが楽しそうに言う。


「また戦うんですか?いいですね」


俺はため息をつく。


「今日はやけに忙しいな」


ダリウスは剣を抜いた。シャッ、と鋭い音が響く。

剣先がゆっくりとこちらへ向けられる。


「師匠」


ダリウスは少し真面目な顔で言った。


「昔、俺は何度も挑みましたけど、一回も勝てませんでした。覚えてますか?」

「ああ」


覚えている。

ダリウスはガルドとは違うタイプの剣士で、力で押す戦い方ではなく、状況を冷静に見て動く戦い方をする男だったため、八傑の中でもかなり戦い方がうまい部類に入る剣士だった。


それでも。

俺には勝てなかった。

ダリウスはゆっくり剣を構える。


「今日こそ」


低い声で言う。


「一本取りたい」


ガルドが横で笑う。


「無理だろ」

「うるせえ」


フィリアがゆっくり手を上げる。

その表情はとても楽しそうだった。


「では」


少し間を置いて言う。


「第二試合ですね」


俺は剣を抜く。

カチリ、と鞘鳴りが静かな空き地に響いた。

ダリウスの目が鋭くなる。空き地に風が吹く。草が揺れる。

フィリアが言う。


「始め!」


その瞬間。

ダリウスが地面を強く蹴った。


そして。


新しい戦いが始まった。

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