第72話 NPCとしての仕事
「じゃ、10時間後にはちゃんとご飯食べるから」
「はいはい。こっちはダイブしない代わりに編集作業しておくよ」
「頼んだよ、紗夜」
また月日が巡り、奈月は賃貸契約しているマンション全体の設備を整えてから……運営側として初の『スカベンジャー・ハント』のゲーム内にログインすることにした。並行世界と同時にダイブしていた『記憶回路』はほとんど藍葉に託したままなので、こちらの奈月は把握していない。
それは紗夜も同じなので、交代でVRMMOの機材を装着することで体調管理もきちんとしなくてはいけないのだ。
奈月は『イバラキ』という主人公側のNPCとしてダイブするが、ほとんどのプレイヤーの枠自体が『イバラキ』に組み込まれていることを知れば……β版時代のユニークユーザーたちはどう思っただろうか。
SNSなどでリリース直後の反応も見たが、まずまずといった感じ。
これから『運営』としての仕事をこなすのは、単純な娯楽提供として『クロニクル=バースト』が動いているわけじゃない。
並行世界側では、本格的に世界は滅亡し……地球には誰ひとり存在しない地獄絵図が広がっていた。現実とあの世が混同するような場所だけで、死ぬことが『普通』だと認識される最悪な世界。
世界災害は避けられないが、せめて『楽しく最後まで』をモットーに……『加東奈月』らが動き出したのは、その『最後』を迎えさせないための非常事態などの対策なのだ。
誰だって、簡単に死にたくない。ここで終わりたくない。
若くしてとか、運命に抗ってとか、聞こえはいいかもしれないが地球の循環を止める方法がないのなら、『違う向き』で抗えばいいのだ。
すべては助けられなくても、一部でも残れればと苦肉の策のようなものを作ったのだ。開発費が死ぬほどかかる『コールドスリープ』をNPC担当分用意し、彼らが並行世界を通じて現実側の被害を必要最小限に抑えた功績をつくるため。
実際、提案者を大学の学部長を兼任していた奈月の父親に置いたことで……十年近く、開発に時間はかかったが、被害は最小限で済んだのは現実となった。
(だからこそ、ここからが本番だ)
子孫繫栄のためとは言わずとも。人間やほかの種を完全に消滅させないために、休息時間を娯楽に費やす人間は多くいる。その上での広告リワードや課金システムで、リリースさせたばかりのVRMMOを運営し……寄付金を募るのが『スカベンジャー・ハント』の名の由来に近い。
ガラクタゴミの中に埋もれている、『本物の宝の媒介』を探し出せ。
それをテーマに、NPCとして奈月はダイブしていく。藍葉に託しておいたβ版のキャラデザはそのままにして、『イバラキ』としてゲームプレイを最初からするのであれば。
まずは、『ドクター』の研究所に逃げおおせるところまで、自力で組織の中から逃げ出すところだ。
スタート位置に到着したときに、メール機能のアナウンスがあったので開封すれば……中身は、紗夜からのものだった。
『今日のご飯は、豚バラ肉の肉じゃが』
などと、これから10時間も仕事をするのに、飯テロされてしまった。自分も食べたいからとは言え、パートナーシップ企画でマッチングした彼女は本当に奈月の好みを熟知している。幼馴染み抜きにして、そこは憎いなと思うしかない。
「そんな美味しいもの作ってくれる『恋人』のために……働きますか」
『カプセル異世界』のプロローグが、ストーリーとして流れていく中で奈月は『イバラキ』として地球を模した惑星にダイブしていく。リスタートだが、悪くないスタートダッシュだと思う。
他の惑星で『カプセル異世界』を築いているところはともかく、地球側のリスタートはここからなのだから。
次回は最終回
月曜日〜




