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第7話 空似でも同じ存在

 アミューズメント施設ではあるが、大掛かりな施設ではなかった。


 日本全国、世界各地とやらに点在する『チェーン店』に等しいそれを見るのは奈月にとっては初めてそのもの。ディスプレイ越しの、無機質なのではないそれは……今の肉体がVRMMOの副産物であれど、きちんと触覚が機能しているので温度や水の質感が伝わってくる。


 最初は、レンタルの水着でも借りようと思ったが。



「入会特典で、お好みのデザインが選べますよ?」



 店員の誘導に釣られてしまったのもあったが、まともに運動していない奈月には歩行以外のリハビリを多く必要としている。


 であれば、水泳出来るまでの前払いにしては安いもの。そう判断して、宗ちゃんにレクチャーしてもらいつつ……施設のビギナーズランクで入会をしてみた。


 ランクが上がれば、特典も増える。水泳以外のレジャー施設もあるらしいから、まずは思うように遊ぼう。出会いとやらは、その合間でもいい……と思ったが。



「お嬢さん、俺と遊ばない?」



 宗ちゃんでも認識できる『女顔』と華奢な体型。さらに、細身の上……専用のパーカーを着てれば胸の平らな女の子の出来上がりだった。



「……俺、男だけど」



 しかし、声だけはきちんと声変わりしているので。変声したそれを聞かせてやれば、ナンパ野郎の細いグラサンが、軽くずり落ちた気がした。



「……わっり。マジで? いくつ??」

「……高二。この辺に編入してきたばっかり」



 本来は十九歳だが、外側のVRではそのように設定してもらっていたため。それ通りに発言すれば、相手はもう一度詫びの言葉を入れてくれた。



「んじゃ、引越ししてきたばっか? 都内なのに?」

「まあ……まだ、なんか用?」



 人生初のナンパはともかく、相手がなかなか居なくならないから少しイラついてしまったが。宗ちゃんがこそっと彼の情報をくれたので、少し意識を切り替えることにした。



《彼は雅博(まさひろ)だよ。君にとって、無二の親友だった彼さ。こちらの外見はいじっているが、魂側の本能として奈月が気になったのだろう》

「……まちゃ?」



 並行世界で、魂は同じでも外見がそうとは限らない。性格も違うことがあれど、本能的な感知能力とやらはそのままの可能性が高い。


 それゆえに、奈月も苛ついたが少し気になったのには納得は出来た。



「暇なら遊ばね? ちなみに、俺も高二」

「……ついで? 詫び?」

「ははは。後者」

「ん。じゃ、よろしく。俺奈月」

「俺は雅博」



 他人の空似にはならず、本能で『気が合う』『惹かれ合う』が発動するのは現実側でも並行のそれでも関係がなかった。よくよく考えてみれば、あちらでの出会いも似たり寄ったり。


 保健室で雅博が仮病していたところに、珍しく登校していた奈月との鉢合わせに近いものだった。あと、女の子に間違えられたのもいっしょだった気がする。



「俺、ちょっとだけリハビリ明けだから……水に慣れる程度だけど」

「んじゃ、俺のこれ見てみるか?」



 IDは見当たらないが、ローラーボードサイズの小さめのサーフィンは精密機器で出来ているようだが。アミューズメント施設だから、もしかしたら擬似的な『サーフボード』かもしれない。


 興味があって頷けば、温水の上にボードを置いた雅博は当たり前のように乗り。そして、軽く水を蹴ったらローラーボードで乗りこなすように、平面に近い波でそれを操っていったのだった。



「……宗ちゃん? あれ未来技術? こっちじゃ、俺のステータス見れるように『普通』?」

《ははは。こちらは『若干』の近未来だと思えばいいさ。磁場の乱れが多いせいで、公共機関等の遅延はしょっちゅうだがな》

「あー、そう」



 磁場の乱れは水の乱れにも通じる。一個前に、ダイブしたあの水の経路がここにも通じるのかと片隅に入れて置き。


 帰宅してから、スタッフにチャットbot形式で報告書を記録しようとしたが。奈月のVRが並行世界で生活しているだけで、それは完了しているのは宗ちゃんに聞けた。


 ならば、ここからは『普通の生活』を出来るように、奈月はこちらの雅博と交流を深めることに決めたのだった。

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