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第53話 その頃③

 記憶がおぼろげになっていたが、とろとろとした夢見心地から起き上がることは出来そうだった。


 先ほどまで、雅博やメメのところを解凍作業していただけのホログラフィー『茂正』ではあったものの。実際は、彼らと同じ大学キャンパスを卒業しただけの社会人の人格を元にしていたらしい。



「……思い出した。政樹(まさき)だったな。俺は」



 メメこと目黒花蓮と縁戚であることは間違いないし、彼女の父親に頼まれていた保護任務のこともきちんと思い出せていた。ただし、役割がある分コールドスリープの機材に入るのはとても早く……意識体と肉体の切り離しに慣れるまでには日常生活の保障をしない代償があった。


 それが所謂『天災』だと気づいたのは、政樹が大学を卒業する少し前。卒業制作の発表時に、雅博の卒業制作が就職内定と同時期に造り出したものだと興味を持ったあとだ。


 彼と接触は多くなかったが、久しぶりに声をかければ雅博は『手伝ってくれ』といきなり言い出したのだ。



『時間がない?』

『俺のダチにとっても、地球にとってもな? 信用ならねぇだろうがあの卒業制作も俺は依頼で造っただけだしよ』

『……本当か?』

『メメの親戚に嘘言うかよ』

『……それだけで?』

『接触が欲しかったにしても、俺に興味があった時点で俺は言うだけ言う。そんくらい、目は肥えてんだよ』

『……そうか』



 たしかに、あの卒業制作を見せられたら多くの企業が雅博をひっぱりだこにするだろう。結果、政樹にも内定が来たところと同じだが、別部署に彼は就職していた。その中で、あのVRMMOなるゲームを利用して、『加東奈月』を人工知能に仕立て上げたのだ。



「えーっと、加東が目覚めているから今俺も……。だめだ、さっき雅博と会話していたはずなのに、うろ覚えだ」



『クロニクル=バースト』としての活動は表向きはクリエイターズの集まりとして。裏では、社員らも並行世界のような時流にダイブして意識をばらばらにしていたのだ。天災である地殻変動は、星の循環を考えればいずれきてしまうもの。


 かつて生存していたはずの歴史の跡地が、いついつまでも発展を繰り返せば『生きてる星』だって抵抗するはずだ。政樹は並行世界と関わってきたVRMMOの中でそれについて酷く納得できていた。


 しかし、天災はあれど発展した技術を実現化する人間の能力もばかには出来ない。拙い宇宙開発技術で、シェルター開発もぼちぼちだが進んでいたのだ。資産運用の出来る人材にそれを試運転させることで、生き残れる人間たちはどうにか保険をやりくりしてコールドスリープにて『寝た』。


 政樹でもスリープに入って、半年くらいだろうか。記憶が混濁しているが、ゆっくり起き上がるしかないと、ポットから這い出るようにして出てみた。



「……うっわ。半年かけて集めたもん。氷漬け?」



 エアコンの起動が始まっていたにしても、ほとんど冷凍化されたままだった。ここから着替えを探そうにもしばらくは病院の浴衣パジャマをきたまま温まっているしかない。外のニュースも端末で確認したいところだったが、まだ機材の解凍も終わってないから止めておくことにした。


 ひとまずは、『生きて』地球に存在できるようになっただけヨシとしておこう。奈月に付いていた茂明の方は今頃恋人と仲良く再会でもしているかと思ったが、こちらはこちらで片想いの女性も誰もいないので……見合いくらいは、いい加減しなくちゃいかんか彼に相談しようとだけは心に決めた。



「……独り、っつーもんは淋しいからな」



 VRMMOも、並行世界でも。垣間見た奈月の号泣した姿は間接的に見ても痛いいがいなかったから。政樹も多数救助したが、自分もそろそろそのような相手が欲しい。今回のが孤独死だったら、茂明に申し訳なくなってしまう。



「どれが、現実でどれが並行か……は、一端終わりだ。ここからが本番だからな?」



 どのパートナーであれ、生き残るために再生するのはこれからだ。と、そろそろエアコンの温度を確認しようとスリープから出たら……なぜか、風呂場に侵入してきた『何か』の音が聞こえてきた。こけないように慌てて向かえば、政樹と同じような格好をした金髪白肌の美女が湯舟で寝ていたのだった。



「……え、この子」



 会社時代では事務でこつこつ頑張っていたOLのひとり。クォーターで可愛いと人気があった彼女が、再生システムで転送されたと理解すれば……自分のパートナーになるかはともかく、起こすのに必死になった。


 おそらく、この転送をやらかしたのは茂明だろうと踏んで。

次回は金曜日〜

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