第49話 次に食べたいのは①
とりあえず、飲み物だけは軽く飲んだ程度なので胃袋が刺激されたのか。奈月は紗夜に何か食べたいか聞けばぺこぺこだと返事がきた。
「服薬必要なくらいに、全然食べてないしね。適当な着替えしようかな? あ、身体見る?」
「や・め・よ・う。色々問題ないにしても、俺だって心の準備欲しい」
「けど、今まともな着替えあるか自信ないよ? 奈月くん、女の子の下着触ったことないでしょう? お父さんとしか生活してなかったってのは聞いてたけど」
「……ごめん。その浴衣着たままで移動できる? 部屋はゆっくり解凍されてるから、下手にエアコンはいじりたくない。爆破するかもで怖いから」
「おうけぃ。いや、二ヶ月あのまま……だったら、ミイラになりかけてたってことか? あー、こっわ」
「俺だって怖い!!」
こんな中学生の会話のようなやり取りでいいのか。少し苦笑い以上に焦りが出てしまうが、お互いの学年とかが間違っていなければ……奈月が手術された年齢を組み込んでも二十二歳を迎えているはず。
虚弱と精神疾患者のどちらも重病者。なのに、ただの患者扱いされない『サイン』『予言』などが、同時期にいくつも重なり合いさえすれば。このように夢想が現実になってもおかしくなかった。
映画などの過剰な演出ではなく、『現実』が実際に大きな氷河期となってしまっているのだ。それは間違えようのない、本気の現実だ。
ひとまず、紗夜が移動しやすいように浴衣の水を絞る作業に入った。水浸し問題はと聞けば、下の階どころかこの建物自体が特別な契約らしく。二階全部が紗夜の持ち家。下はなんと、奈月の持ち家として政府側から契約を受理されているそうなのだ。
「氷河期の前兆が結構あったからね? 九月が異常に暑いとか急に冷えるとか。その予言のような画像を奈月くんの意識でデータ化して広めたから、これだけで済んでるわけ」
「……なんか、依存症になってただけでなく??」
「ああ、スマホとかゲームのやり過ぎで脳に来るってやつ?? それも嘘じゃないけど、私たちは別グループ扱いだったしね」
「……そなんだ。じゃ、絞るね」
「起き抜けに出来そう?」
「お互い様じゃん」
排水管は凍結防止剤が循環するのはあらかじめセッティングされているので、大丈夫だそうだ。出来るだけ力を入れて絞ったが、やはり起き抜けの筋力では限界がすぐに見えた。
ただ、二人で何回か絞ったらぶかぶかにはなったが、さっきよりは見れる感じにまで浴衣の水が抜けている。
「じゃ、適当に探していいよ。食料は多分冷蔵庫はまだ難しいから……カップ麺とかかな? こっちがこれだけ動けるなら、コンロは大丈夫だと思う。それあえてガスコンロ」
「ん、適当に探しとく。お湯入れ替え出来そうなら頼んでいい? 俺も服これだけしかないし……まだ入ってない」
「りょーかい。タオル、なんか無事なのあればいいけど」
「あ、さっきのキャラバスタオル……」
「ああ、あれね? いいよいいよー使いなよ」
これが十二年くらいまともに会話していなかった、男女のやり取りには普通思えないが。緊急事態からの対策を裏で操作していた『数々』を思えば、うまく順応しているのかもしれない。
咲夜の方の記憶があるかあとで聞きたいが、まずはコンロが本当に使えるかノズルを捻ってみた。
次回は水曜日〜




