第41話 先祖らにしてやられた
奈月の感覚で、誤差十二年。なのに、実際は崩壊が起きて二ヶ月程度。
この計画が進められていたのは、奈月の祖父より前の世代からなので、最低でも百年以上前。ギリギリまで、奈月の母と父にも計画の全貌を伝えていなかったのもそのせいだろう。
犯罪組織『バースト』とやらを闇バイト組織に仕立てて、実は孫よりも先の世代までの『近親相姦』に近い遺伝病の欠如をするための実験だったが。
あくまで実験と称し、ズレていた『並行世界』の自分たちとも、これで引き離すしかないのだ。
同じ魂を軸に、同じ相対と惹かれ合う展開を無くすために。浮気とか不倫ではなく、『違う生き方』をするとどうしても惹かれる相手が違ってしまう。これは魂が混ざり合い過ぎた代償なのだ。
そのズレを奈月も咲夜のいた世界で見てきた。
こちらの現実世界ではそうじゃないのに、『本気の相手』は向こうだと選ぼうとしていた。あの咲夜はただのホログラフィーではなかったが、選んだ相手は『加東奈月』ではない。
あの身体は、まちゃである『仁王雅博』なのだ。
「……まだ記憶が混在しているのも、『俺』が紗夜と引き離し続けてたせいか」
並行世界では咲夜のように外見を似せてはいたが。
この現実世界では生まれてから、『一度』でも会えたかどうか怪しい距離感にさせられていた。
ひとつの愛を。
確実に成就させるための、言わば『マッチングアプリ』の延長線に等しい。
AIで近い外見を似せて作らせ、地球崩壊の時期が来ても『真実に』受け入れる相手として選ぶか。そんな犯行声明にしては生優しい『生き方』をこれから繋げていくにしても。
実際のところ、現実とあの世の境目すら、『加東奈月』は越えてしまったのだ。最愛の相手に会いに行こうにも、まずはこの現状を整えなければ、会いにいくにも『帰れない』。
『ははは。君の父母君らはすでに会合しているから、そちらは心配しなくていい。むしろ、臓器提供に見せかけて彼女の肉体はしばらく冬眠していただいてたのさ』
「……なら、いいけど。崩壊はどこまで進んでいるの? 映画であるような死体だらけはないようにしたんだよね?」
『出来るだけ、だが。彼らは彼らで『あの世』が案内してくれているさ』
「……ん。『黄泉がえり』の必要がないならいい。誤差二ヶ月って言うと」
ここで、上から何かが飛び降りてくる感覚があったので、慌てて横に避けた。
避けた瓦礫の上には、ホログラムで出来た『大人の奈月』が着地していた。手を振って苦笑いしたあと、こちらの慌て様も気にせずに懐に入ったかと思えば……分解していくかのように、光の粒になって消えた。
そのひと粒を飲み込む呼吸をすれば、腹部と胸部に重い鈍痛のような刺激を与えられた。同時に混雑状況に近い情報がなだれ込んできてしまい、うまく立てずに片膝をついた。
『……すまんな、奈月。お前さんの残していったデバイスを見た連中が頑張り過ぎたんだ』
宗ちゃんのホログラムが言うことはよく分かった。なだれ込んでくる情報の中に、こちらの奈月が意識を保つ『限界値』まで遊んでいたクリエイター活動のそれを無条件に放出すれば……誰だって、そうだ。
「あのゲームとか、コミカライズの動画編集しただけなのに……?」
『それが雅博たちに知られてみろ? 『バースト』を通じて、世界救済策に使われるだろう?』
「……あいつらなら、やりそう」
情報の渦が落ち着くまで、ポッドに身体を預けて息を整えるしかない。これから、どれだけの時間をかけて……アーティスト名『クロニクル=バースト』としての仕事を請け負い、マッチングアプリの続きのような生活を送らなければいけないのか。少し呆れつつも、一旦は大仕事がひとつ終わったのにほっと出来た。
地球にとっては、星としての循環ではあっても。
人間らにとっては、『生死の再生』計画にただ巻き込まれただけなのだから。
次回は金曜日〜




