第39話 『奈月』と『雅博』の表裏
雅博の頭に激痛が走った。
メメこと花蓮は近くにいなかったが、居なくて良かったとじわりじわり浸透してくる『情報の渦』のせいで思うくらいだ。
並行世界の己。
相対するパートナー。
シェルターの設置と『星の本懐』。
何故、隣にいきなり越してきた『加東奈月』の友人になれたか。
本来は、いたはずの過去と現在。こちらに居たはずの『彼』は全て捨ててきたのだ、自分の肉体や魂の表面を。
自分の相対であった『咲夜』の核を護るために、自分ごと差し出すのを……ずっと気にかけないように、『彼ら』によって記憶を封じられていた。
「…………バカ野郎。俺とメメの再会を、先にさせるとは言え」
自分たちは後回しに。それと、記憶を徐々に取り戻せるように散り散りにさせたのも彼ら自身。
らし過ぎる対応に、雅博は自分の身体を再確認するように見た。自宅にいたのでメメはいないが、十七歳の肉体にしては成育が整っていた。まだ彼女とまぐわう機会は多く得ていない。
というのは、『奈月』が用意した『最初の夜と朝』対策の一環だ。
どれだけ避妊対策を講じても、万が一の時がある。それが『災害』だ。
天候の予測をコントロール出来たとしても、いざ、その時に『残す遺伝子』を繋ぐ相手は誰なのかを。この並行世界では当然のように選ばせていたのは、誰だったか。
『バースト』の連中が十二年前に対策声明したことから始まったのだが、考えればそれに紐付けたのを『どこかの奈月』が裏で率いていてもおかしくない。
他の世界との誤差をそれくらいにとどめ、技術を導入させ。
「星の崩壊というか、『循環』が終わったあとに……互いにゆっくり寝てたいとか。あいつなら、当たり前だな」
どれだけ望んでも、パートナーが離れ離れになる可能性は絵空事で済んだ理由にはならない。
確実に、これから終生までの人生を共に歩む相手を、あの『奈月』が最初に選びたいのは『咲夜』でしかない。
「……けど、ここにいねぇだろ??」
奈月本人は。咲夜も表面部分を切り離されたのか、もうそこにはいない。
さっきまで、『奈月』と『咲夜』の会話をしていたのは雅博の肉体越しに聞いたホログラフィーなのだから。
ディスプレイは展開したままだが、宗ちゃんだった祖父だという擬似生命体とやらもいなかった。代わりに、厳つい軍服を着た熊を連想させるような男のそれはあったが。
『よーやく、目ぇ覚めたか。雅博』
いやに渋くて良過ぎるボイスではあるが、こちらを知っているのなら話は早い。すがる勢いで近づけば、喉の奥から笑われた。
「笑うな! 変なカッコしてるがよ!!」
『まあ、そうだな? 『奈月』のままだったら』
「……外、どうなってんだ?」
『その情報は与えずか? ここ、使わせてもらうぜ』
ホログラフィーのようなIDでもタップは可能かと後ろで観ていたが、どのディスプレイもこちらの幼少期から見せられ続けてきた『AI作成の災害画像』ばかり。
音声は届いていないが、どこもかしこも逃げ惑う人間の周りは火災と爆破の嵐だった。
「まさか……あの口火切っただけで?」
『奈月本人も、今頃後悔してるはずだ。だが、俺とかがサポートするために『ズレ』を感知した連中が……全員頑張ってんだ。宇宙スペックで安心しろ!』
「……今更だけど、あんた誰?」
『あ? そーか、顔だけじゃ鈍るか』
右目を手で覆いこっちを見た瞬間に、雅博は土下座する勢いで謝罪した。
こっちでのメメの父親の若い頃とそっくりだったので、慌ててクローゼットに向かって着れそうな服を探すのだった。
次回は月曜日〜




