第35話 凍りついた各所
『宗ちゃん』を通じて、それぞれの並行世界にまた亀裂のようなズレが起きた。
あの世とこの世、は既に地獄の『炎』と『氷』への被害拡大はとっくに生じているのだが。
あの世でも、天上世界については……地獄からの亡者が逃げ出したかと思うくらい、逃げ惑う住人が多かった。管理者である、神の一端が対処せねば……彼らとて、この氷の在り方は軍事訓練かと思いかけたくらいだ。
「……全く。あの世と現世。それ以外の『魂魄』を整えるのに……我が一族を使うとは」
ふわふわの金髪に白い肌。白装束は天使のそれではなく、軍服と似たような。
帽子を被り直していると、横に黒髪で彼以上に背の高く体格の良い男が警棒を握りながらやってきた。
「……お前の孫の一端か?」
「そのようだ。世代だと三世代くらいか? 僕が女なのか男なのかも、向こうではわからん」
「……想像したくないな。女のお前は」
「骨を砕いて、髄を『ID』にしているんだ。別段、死後の姿を生前に止めておくのも嫌がる輩がいるだろう?」
「……ジェンダー連中のことか」
「混ざっているんだ。稀に産まれる性別がどちらでもない中性体よりも……自分がわからず、苦しい思いをする」
自分もそんな外見でいるので、こちらで妻を得るまでどれほど悩んだことか。両耳に埋まっている、彼女から受け取ったIDのピアスのおかげで……『男』としての今があるのだ。
仕事も恵まれ、かつての盟友である横の男とも再会出来た。だが、こいつの横に立つ女はまだ決まっていない。
此度の、星の変革期と同時に……通常の並行世界とは切り離された、並行世界のどこかからIDを手に戻ってくるかもしれないが。
あの世の裁判が滞るのは仕方がないにしても、警棒を持つ資格の巡査に恋人がいないと色々不十分なことが出てしまう。輪廻転生までの、充分な生活を送るためのフォローする絶対な相手だが。
下手すると、万年単位で共に過ごす可能性がある。それをたった独りで過ごすのには鋼の精神が必要だ。この男は今のところ、表にそれを出していない。
「……しかし、境目がこれだけ凍るのも酷いな」
警棒を軽く振って、風の刃の如く衝撃波を放ったが。凪いだくらいで終わったので、腰のベルトに戻すしかなかった。こちらが同じことを発動しても変わりないからだ。
「……天上と冥府。星と魔。それらが全て、シャッフルされるかもしれんなあ?」
発端者である、孫の記憶が少し流れてきた。
一律して、名前は『加東奈月』にしているが。それはどの時の誰の『孫の名前』にしてあるのか、もう定かではない。
ギリギリ意識を祖父か祖母に設定してはみても、ここまでの技量をものにする『孫』を腕に抱いた記憶もないのだ。
「……とくれば。転生した最初の位置か?」
「僕にも皆目検討つかないよ。今の奥さんともまだ子どもなんていないのに」
その『種』は誰なのか。奈月も誰なのか。
気にはなるが、今の職務は無視出来ないので待機しているしか出来なかった。
次回は金曜日〜




