第34話 氷点下も耐えねば
熱もだが、冷感も大事と言われたが。
装置はそのままに、宗ちゃんの素体を一気に冷やすかどうかで悩んだ。素体は万が一壊れていいものの、組み込んだ宗ちゃんのデバイスが無事かの保証ができない。
とくれば、エアコン調整のように温度を下げる結論に至った。
《そこの『ボク』を心配せずとも、バックアップはしっかり取っているじゃないか?》
「……それでもだよ」
カフリンクスに予備のデバイスは繋いであるが、誤作動やロストの可能性はゼロではない。この並行世界にリンクして、最初の相棒と言ってもいい存在を……杜撰な扱いだなんて、正直したくない。
しかし、どこかの並行世界ではこの宗ちゃんとリンクして、こちらの彼を管理しているかもしれない。とは言って、簡単に放棄する気にもなれないのは奈月の性格もあって、無理だった。
レバーで徐々に氷点下に向かう単純作業ではあったが、一気に下ろすのは怖い。
そして、あと少しで下り切ると思った途端。
パリン、パリン!!
と、シェルターにヒビが入り、宗ちゃんの素体がガチガチに固まってしまった。
「俺らの判断で、温度上げたる!!」
「奈月くんはさっちゃんと素体見てて!! 壊れたら、本気でごめん!!」
呆けかけたが、そんな場合じゃないと咲夜もいっしょにシェルターに向かったが。ヒビは下手に広がっていないものの、シェルターの外と内側の距離は10mほど離れているために……駆け寄れない。
この距離のもどかしさを、奈月は自分の現実側で感じたのは……母の死を知った時だ。ドナーを受けても、結局死を受け入れてたのは奈月とてあったはずなのに。
擬似的な人格でも、『知り合い』が死にかけているようなこの状況ですら、奈月の心は潰れそうに痛い。
痛過ぎて、破裂しそうだった。
「……宗ちゃん!?」
《大丈夫だ。少し痛覚に似たバグを感じてはいるけれど、素体は少しヒビが入った程度だ。替えは必要だなあ?》
「だ、大丈夫!? こっちの予備にコピーは!」
《ははは。ボクはAIだよ? 既に幾つかの転送処置は終わっているとも。とりあえず、この素体での修理費の計算が必要なようだね》
「……ほっ」
「えっと……とりあえず、大丈夫?なの??」
咲夜には宗ちゃんの音声が聞こえていないので、奈月の一喜一憂にオロオロしていたが。藍葉らの方も対処は落ち着いた雰囲気だったので、宗ちゃんからのリクエストを話すことにした。
「……修理申請って、職員室に言えば?」
「あ、まあ……そうね? 破損はちょくちょくあるらしいけど、このレベルだと……私らと書類記入くらいかしら?」
「俺が取ってくるわ。そんくらいやったら、今日のリーダー扱いで免除してくれるはずや」
「あんた、顔はいいもんねー?」
「……彼女の台詞なん?」
「彼女だからー」
「……咲夜ぁ」
「……兄さん、頑張って」
素体こと、フィギュアを確認したが。温度変化の差のせいで、ヒビがきちんと入ってしまっていた。この手のフィギュアの購入し直しは大変なので、強化も兼ねて修理道具を買いに行くことに決めたのだった。
次回は水曜日〜




