第3話 並行と始まりの繋がり
終わりの始まり。
始まりが終わり。
その境を見つけたのが、奈月の母で葉月だった。
放っておけば、息子は死ぬ。今の肉体のドナーも完全適合などあり得ない現実。
その現実から逃避したい気持ちで、わずかな睡眠をとっていた間……『繋がり』が向こうからやってきたのだ。
『世界』と『世界』の隙間からの駆け引き。
向こうは企画提案と持ちかけて、時空の隙間から葉月の意識の中へ……息子を生かす方法を提示してくれたが。代わりに、葉月の魂とやらはそちらの時空に行くことが条件だった。
「終わりの始まり。というか、地球の崩落とかで……星の生まれ変わりに、あんたの息子が大いに役立ってくれたんだ」
時間軸がいつだったかわからないが、こちらで葉月の体が死亡しても保障として並行世界で魂は保護されている。臓器移植を終えてから、数年肉体に馴染んでから奈月は動き出してくれると報告があったそうだ。
なら、母として役立てるのであれば……と、葉月は書面にサインしてから臓器移植によって体の機能は停止してしまった。
幽霊のような状態で魂を保護され、並行世界の入り口に到着すれば。夫とは違うが、良く似た青年が笑顔で葉月を迎え入れてくれたのだ。
『しばらく、このカプセルで待機してて? 父さんが迎えに来ると思うから』
「……奈月。あなたは生きているの?」
『さあ。この時間軸ではどーだろ? 俺の身体自体もアンドロイド風に改造されまくっているから。母さんの臓器はあくまで、保険程度だし』
じゃあね、と青年の奈月が離れていくと。葉月は死装束そのままに、木桶のぬるい湯船の中で沈んでいくのだった。魂のはずなのに、生きているかのように藻がいたら……上から誰かが引き上げてくれた。
「大丈夫か、葉月!?」
信じられないと思ったが、そこには壮年以下の年齢である夫が必死の表情で葉月を引き上げてくれた。どういう理屈かはわからないが、あちらで彼も亡くなったのかどうか混乱するばかり。
とりあえず、引き上げてもらってから聞いたのだが。地球は一度リセットするのに、奈月の身体はアンドロイド改造へと提出され。
夫は輸血提供のために、大量の輸血をしたあと……この並行世界に転生したのかどうかもまだわからないそうだ。
代わりに、映像としてこれから息子の活躍を二人で『観る』ことで……地球がどう再生するかを見届ける任務には就いたらしい。気遣いができる優しい息子のおかげだと、ふたりで喜ぶことにしたが。
想像以上に寒いので、服を脱いだ夫と共に……湯船の中で壁がけテレビ風の端末を利用して、並行世界から見守りを始めたのだった。
百二十年分の、息子の頑張りを見守るための再スタートとして。
最初の観客になったのだった。