第26話 まずはお互いを
咲夜とシェルター生活でのパートナーシップを、きちんと話し合いした上で契約は結んだものの。
初対面なのは本当だったので、まずは『お見合い風』のお茶会からスタートとなった。と言っても、ここは義務教育機関なので……一応の登校時間外は敷地内のカフェテラスくらいしか利用出来ない。
それでも、大学機関と隣接しているので学食もバカに出来ない。一部、調理師を目指すアルバイト学生が作るスイーツもピカイチだそうで。
それぞれ適当に買って席についても、お互い口下手なせいか会話がなかなか出てこない。雅博たちは、自分たちのことは〜と投げやりにしてきたので、何も食べずに去って行った。現実側でもああだったか?と思ったが……言われてみれば、なので話し合いを始めるしかない。
「あ、の……な、奈月くんって呼んで……いい?」
「あ、うん。……俺は呼び捨てでいい?」
「! ……いいよ」
「ありがと」
敬称もいいかもしれないが、判断が鈍る時に『ちゃん』や『さん』をつけると口を噛むことがあるかもしれない。それは、あのシミュレーションの時の世界が、こちらでも現実側でも起きておかしくはないからだ。
その時の精神状態が正常に保てる自信など、誰だっていない。奈月とて、それは同じになる可能性はいくらだってある。それに、コミュニケーション能力を養ういい機会だと思うことにもしている。
「……奈月、くんは甘いの、好きなの?」
基本的にな質問だが、お互いの前にケーキがあるし。そんなテンプレくらいからで問題ない。
「そうだね。固いよりはふわっとしたのが好きかな?」
母親が生きてた時は、ゼリー系以外に噛む必要が少ないデザートをよく食べさせてくれていた。その名残りがあってか今回選んだのもティラミス。少しばかり、苦いのも好みなので選んだだけだが。
「! スフレチーズとか好き、かな?」
何か刺さったのか、興味のある内容だったので積極的に質問をしてくれた。これはいいスタートだと、なるべく中断し難いように気をつけて言葉を選ぶことにした。
「そうだね。柔らかいものは好きかな? チーズも好き」
「わ、和菓子は?」
「んー? あんまり食べたことないけど。咲夜は甘いの好きなの?」
「大好きなの! お菓子の調理師免許欲しいくらい、作るのも好き!!」
はっきりと、奈月に告げた時の表情が。まるで花がほころんだように輝いていて……素直に、可愛いと思った。だからか、勝手に手が伸びて彼女の眼鏡を外してしまう。
「……可愛い」
想像以上に、顔が小さくて華奢な美少女。
そんな印象を口に出してしまったが、咲夜はぽかんと間を置いたあとに……すぐに、いちごくらい顔を真っ赤にさせた。そんな表情もさらに可愛く映るだけだったのに、反射ですぐに両手で顔を隠してしまう。
「そ……な、こと!」
「え? 本気だけど」
メメのように美人系も嫌いではないが、可愛いタイプが好きなのも嘘ではない。しかも、ふんわりしているはずが『芯を持つ』様子を見せてくれるのは……正直言って、奈月にはツボった。
おそらく、現実側でも咲夜はいるかもしれない。いつか、のきっかけが何処かであるとしたら……向こうの雅博らが探しているか隠しているか。
どちらにしても、奈月は簡単に咲夜を手放したくないと思ったののだ。結局、眼鏡は伊達メガネだとわかり、あんまり可愛い顔を晒して欲しくない情が出た奈月は、素直に返してあげた。




