第25話 それは、どの『相手』?
見つけた、と本能がわめくのは仕方がない。
どんな線引きをしたであれ。
どんな引き離し方をしたであれ。
待ち遠しくて、堪らなかった。
やっと、話せた。
やっと……会えた。
この巡り合わせを、彼は片手で数えられるパターンで選び出せた。
なんと言う、豪運。
なんと言う、本能の冴え。
私ですら、百年以上かけて導き出したのに。
『……本能って、こっわ! とか、なっちゃんなら言いそう』
この巡り合わせの『並行世界』を構築するのに、百二十年は掛けた。
引き裂かれも、消滅に近い死も、別と組み合わせられかけた最悪も……全部全部試したのに。
この平穏に近いようで、現実側と差の少ない場を選ぶのはさすがと言えよう。
ここはただの鳥かご。
外見だけが夢見心地でいるだけの、コマ回しの中身と言っていい。
誰も彼もが、『本当に生きている』と錯覚している……ただの。
『この中こそが、【シェルター】なんだよ。奈月くん』
あなたが選んだ、擬似的外見が『私』。
名前は少しいじっているけど、ほとんどそのままなのに。
娘でも誰でもない、私とあなたを引き合わせるためだけのカゴの中。
いくつもの、『SF世界』を模した中で経験してきた『私』を。提案者である『加東奈月』のところへ届けるのが、矮小させた計画でしかないのに。
『……ふふ。『私』も蕩けそう、お義母さんたちも一旦巡り会ったけど。私からは離れそうね?』
あの『月峰咲夜』を形成する親も、これで誰になるかはさっぱりだ。
いくつもの、並行した世界を『異世界』と名付けて……『最初』と『最後』を組み合わせていくかが大事。
ここからが、本番なのだ。戻るべき、現実への旅路そのものが。
『愛人、後家とか色々言われたのも……もう終わりね? 誰の『種』も受ける必要がないなんて』
たったひとりの『女の子』の生活を送れるのなら、この意識は一旦蕩けさせてしまおうか。あの咲夜という少女は気づくだろうか?
どちらが核で、どちらが殻なのか。
気づいた瞬間の、過敏な反動でわかるかもしれない。
だから……今は蕩けてしまって、あの子のAI端末の中に逃げておくことにした。




