第22話 『まちゃ』と『メメ』は?
彼女持ちなのに、ナンパするなんざと普通は思うだろうが。
あの少年が、逆に変なチンピラどもに声をかけられてからの方が……まずいと思ったのが、雅博の本音ではあったのだ。
(目が離せられなかった……)
小柄だし、女と間違いやすいくらい薄っぺらい。
けれど、『目の意思』の強さになんとなく惹かれたのは本気だった。だから、ナンパと茶化して接近し、適当に遊ぶことで友人の位置を得た。
自分の目と肌の異質さを伝えても、全く気にしないさっぱりした性格を、本能で感知してたかもしれないが。
(……虚弱だったにしては、世間知らず過ぎね?)
雅博とて、少し体質が弱い方ではあったが。専用の治療を受けて、半分ホテル扱いの借家住まいに仕立ててあるあの建物のことも……奈月は何も知らないでいた。
出入りの多いとこだから、隣室や上下の部屋に入れ替わりが多いのもおかしくはない。にしても、現在の義務教育への知識の欠如が多過ぎだ。
「……おあよー」
今日は共寝だけだったが、夜の運動をせずともメメと寝るのは心地良い。もともと、幼少から昼寝すらいっしょにしてきた仲なので……恋人になっても、雅博の体調を見て発情を抑えるのは大変だったが。
セックスが無くても、共寝で心地よい環境を整えるほど、相性がいいのは自覚していた。だからこそ、ふたりのシェルターは共同開発に近い。
奈月には、まだそれだけの相手がいないことは不思議だったが。
「はよ。適当につくっから、もうちょい横なっとけ」
「助かるぅ。昨夜深夜前に終わったしぃ」
「十七になると、夜間バイトの制限ねぇもんな?」
「好きだからやってるけどねー? まかないも美味しいし」
「今日休みか?」
「ん。けど、学校は行く」
「無理すんなよ?」
「だーって、大学入る前に試運転したいじゃんー?」
星の崩壊はもう大前提なので、その意識を逸らすための楽しみだとしても。
気候の悪化。
地殻の変動。
感染症の確率。
これらを解決するのは不可能なので、人口を一時的に避難するための『宇宙シェルター』への開発が進んでしまうのも無理ない。のんびりと過ごす時間を少しでも擬似的に見せようとしている手段だった……と知ったのは、高校入学以降。
親からの告知で、縁戚が長期旅行と称してシェルター開発に励んでいると聞いたのもその頃だ。
まだ五年の月日で、故障も多々あったそうだが……一応生存は出来ているらしい。それはこれまで失敗を繰り返して、散った過去の技術者たちのお陰だ。
「……俺らんとこ。奈月が相手決まったら、距離近くしね?」
「ほんと気に入ってるよねー? いい子だから、たしかに相手が居たら気になる」
「まだらしいけど」
「あらそう?」
とりあえず、メメのレシピで作ったきのこたっぷりのハヤシルゥをあっためて。それぞれ、パンと米でかっくらってから登校準備をするのだった。




