表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/53

第21話 点と点の離れ


『……ちゃん付け、などと。愛らしい名称を与えたものよ』



 あちらの並行世界では、魂を生け贄に孫を延命する措置への誓約を執り行ったものの。


 そこから、こちらで『過去軸』をゆうに二十年逆巻いてもまだまだ人類史への変革が大きく作用を起こしていない。


 技術者の育成が間に合うどころか、星の滅亡の危機を晒すだけで終わりを迎えようとしていた。実の娘のドナーを使っても、彼女は並行世界の一部へ婿と共に保護したまで。


 どれほどの時間をかけても、創作のように思考は単純なものにできようが、制御と誓約は必要な要素が大き過ぎる。



『……奈月。どこからお前の提案なんだい? 私たち身内からの差し伸べた手なのかも、そろそろわからなくなってきたよ』



 この時間軸ですら、ズレが生じたのはコンマ1秒。


 そこから、時計の指針が動くように差が空いていき、『宗ちゃん』のベースを作った奈月の祖母も意識を覚醒しようとしていた。現実世界では、並行世界からの通達によって冷凍保存されていたのだが。


 奈月がアンドロイド手術にサインを入れた後に、兼ねてより計画を立てていた『シェルター』の中での解凍作業も始まっていた。


 瞬間にせず、ゆっくりと雪解け水が蒸発するかのように。


 蓋は担当を引き継いだ技術者らが開けたが、中身は五十代くらいの女性が死装束にて保管されていた。


 技術者らが、保管庫から出す前にシェルターの温度を微調整しながら高くしていく。


 ある程度、上昇したところでその肉体の上部にホログラムが出てきた。淡い金髪に染めているが、少し愛らしさを残した同年代の女性のそれは。面影が奈月の祖母のままだった。



『さて。この肉体の使い道は聞いているかどうか怪しい。私との契約では『蘇生手術』の実験台にして欲しいと告げたが……どうなっている?』



 ホログラムの彼女が問えば、技術者らは周知していたのか頷く。すぐにシェルター内に機材等が運ばれ、肉体の方にも管などが通されたが……アンドロイド手術の奈月ほどでは無かったのか、思いの外少ない。


 おそらく、ズレのせいでこちらの処置は比較的軽かったのだろう。舌打ちをしたいところだが、またズレであちらへの影響も変わっていることを願うしかなかった。


 ホログラムでは邪魔なのもあるので端へと移動したが、隣に背丈のある白衣の男が近づいてきた。



「心配すんなって。奈月がまだ『あの状態』に気づくのは、ばあちゃんのクリーンナップが終わるまで……時間かかるよ」

『……まちゃ、か。戻れたのかい?』



 奈月がサインした年代より、数年歳を重ねた体格ということは。並行世界とのズレで、それだけの影響が出てしまうということ。


 娘の葉月らとの感覚共有も、このホログラムでは不可能に近い。であれば、『宗ちゃん』に残してきたわずかな繋がりを孫の奈月に届けと。


 雅博に、次の目覚めではよろしくと伝えてから意識を閉ざしたが。夢の中の映像選択の続きのような空間に降りる感触があり、宗ちゃんのステージを選べば……奈月は人形の宗ちゃんを端末にする仕上げに取り掛かっていた。


 技師としての腕前は並程度だが、発想は祖父譲り。


 現実世界では今どうかわからないが、最愛との再会を願うのに今度はもう一度『寝る』ことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ