第20話 臭い消しの方法
素材を無臭にするのは完全には難しいとされている。
無機物と思されている素材とて、苦手とする素材と合わされば腐臭などが出て当然。放置すれば菌が繁殖して使い物にならなくなる。その基礎知識を、奈月は父方の祖父にいくつか教わっていた。
絡繰人形の技師らしい家柄だったと、断片な知識しか持ち合わせていないが。まだ生きてはいるらしいが、奈月に色んな風景と技術を知らせたいなどと言って……オンラインでの授業を自ら買って出てくれた。
その中に、腐臭が軽減させる方法が世界各地で異なることもきちんと教わっていたのだ。
思えば、祖父が旅に出る時点でこの計画は始まっていたかもしれない。下手をすれば、死と隣り合わせになる地域にも平気で赴くから……並行世界との協力が可能となった時点で。
だからこそ、宗ちゃんの導入にも関わっていたかもしれないが……集中するために、一旦祖父の記憶は頭から外すことにする。
「えーっと。ソフビじゃないけど……ゴムの内側、か」
精密機械を入れていくので、木材は却下。
直接入れれば、同一の理由で燃え上がることがなくもないので、買っておいた別の塩ビケースを砕いては固めるしかない。
カフリンクスから、IDのチップは抜き取済み。卵型のケースはプラモコーナーで見つけたので、そこに入れてハンダゴテで接着。
その後に、外側の人形の中の臭い消しを始める。
「基本は重曹とクエン酸混ぜた水で拭き取って。乾燥したら、こいつらを入れる」
人形が素体なので、香料も却下。下手に調香師じゃない者が振りかければ、逆に腐臭の原因になってしまう。木乃伊作りをするわけでもないので、エジプト技術など無理だ。
乾燥には半日以上時間はかかるため、ここで宗ちゃんが簡単にと冷凍食品から準備してくれたご飯を食べつつ打ち合わせだ。
《手間をかけてくれたようだな? おかげで、ボクの存在意義もIDどころではなくなったぞ》
「……どうゆうこと?」
《臭い消しは君の祖父が指導してくれたとあっただろう? こちらでは、現在イギリス辺りに邸宅を構えた祖母が提案した方法だ》
「ばあちゃん? 向こうだと……あれ? 死んでたっけ??」
《既に、誤差は始まっている。君の在り方もな? とは言え、君は基軸ゆえにそこまで影響が判らないように整えられているそうだ》
「……そっか」
であれば、この世界と現実側が隣り合わせにしやすいように整えてくれたのか。
完璧のように見えて、ズラした世界は瞬きの差で変わってしまう。ひょっとしたら、あの極地のシュミレーションもそのひとつかもしれない。
記憶のズレが起きないことは、そういうことなのだろう。泣きたくなる気持ちが湧いたが、全員が死んだわけじゃない。魂の共有がしっかりされているのなら、こちらが死後の世界と喩えよう。
あちらを現実のままにするならば、夢現と匂わせてこちらを強化するのが奈月の役割だ。
宇宙へのシェルター問題が解決してからが、どちらも真の再スタートを切る瞬間だ。




