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第2話 生命をかけた企画とは?

 虚弱が災いになって、大学生に進学するまで精一杯だとされていたが。


 春も終わりを迎えるある日、父親が奈月に高価そうな端末を寄越してくれたことが始まりだった。



「……酷な企画だと、思うんだが」



 渡された端末は、とても高価としか思えない大きさと軽さ。さらには、マニュアルらしきアイコン以外は自由に使っていいとのメモパッドがあるのみ。


 奈月は、少し鼻風邪ではあったが気晴らしも兼ねてマニュアルの詳細を読むことにした。読んで後悔するだろうと父親は不安がっていただろうが、マスク越しでも奈月は彼に笑顔を見せてやった。


 残り少ない時間とは言え、この賭けに等しい計画に加われるのなら、惜しくない意味で。



「いいよ、父さん。学長としては辛いだろうけど……俺を海外留学にしといて? 卒業のあの服をもらえるくらいに頑張るから」

「……すまない、奈月。父さんとしては失格だが」

「最上最悪の博打計画、だもんね。母さんのためにもなるなら、俺やるよ」



 数年前に、奈月への臓器移植の際に命を落とした奈月の母親。なんとか適合はしても、他人の臓器を宿すことは容易ではない。中和剤を注入しても、息子が数年長生きするかどうかの賭けしか出来なかった。


 奈月としては、悔やんで泣いただけの手術でしかなかったが……その残りの生きる時間を、彼女の蘇生にも役立てるのであれば全く問題はない。


 正確には、数年前から国交可能となった並行世界側にいる彼女との取引きに近いかもしれないが。


 実験体であれ、あちら側の都合であれ。


 このままでは壊れ行く地球という星を保つためには。どう足掻いても誰かが犠牲者となって、人生ひとつを潰すくらいには動かなくてはいけないのだ。


 マニュアルとは別の、表面世界であるこちらの動植物と地形の変革の予兆を記したニュースは勝手に『予言』などと称されているが。


 要するに、生まれ変わっていく星の動きを抗う連中を、奈月がサイドで止めていけばいいのだ。身体は実験体として差し出し、霊体側の意識は自由にVRと成り代わってしまう。


 そんなSFをリアルに体験出来る良い機会だ。大学もせっかく入学はしたが、講堂で数時間も講義を聴く体力は正直言って……全然ない。であれば、宇宙開発も含めたこの惑星救済措置への実験アンドロイドのような手術も喜んで受けることを同意した。


 手術開始前には、父親主催で友人知人だけのささやかな宴会で海外留学への旅立ちを祝うフリをして。


 翌日、全身に麻酔を受けた奈月の意識はVRMMO側と並行世界を行き来出来るようにプログラムされたが。


 時代設定は、バブル期崩壊後の日本へと設定して欲しい彼の願いは叶えられた。激動の十五年で、震災や他の自然災害が始まったとされているため、その照準を他と合わせたのである。


 奈月の意識が浮上した時は、学校のプール裏の雑木林にてしっかり寝ていたからだ。



「さーて? 並行世界のひとつとリンクしてくれたらしいけど? 俺いくつだ?」



 中学か高校で虚弱体質が一気に悪化したので、やり直しついでに転送してもらったが。校舎が見える位置に行くと、だいたい中学生くらいの意識体へと転送されたと判断出来た。



「鼻風邪、喉風邪。ついに気管支炎とか……授業もタブレット端末の出始めで解いていた以外、全然授業出られなかったもんなぁ? さて、この世代ん時の地球側の問題は……」



 とここで、大雨特別警報のサイレンが鳴り響いたため。慌てて、奈月は早足で体育館に向かう。夕方の部活動練習が終わっていたようだが、まばらに生徒は残っていた。


 ガラケーなどと、古い携帯端末を使って迎えを呼ぶくらいに……奈月のこの霊体は、きちんとダイブ出来た喜びを感じた。



(水とプレートの弱さ……さらには、地下水の問題。んじゃ、プールに潜ってみますか!)



 クリアな手触りだが、現実の肉体ではないからとポイントとポイントの転送感覚でさっきのプールに戻る動作をすれば。あっさりと戻ったので、今度は地下水に入るマンホールを探してみる。持ち上げはせずに、ここにポイントのマークを置いてからするると地下へと落ちていくのだった。



「うっわ。嗅覚器官そのままにしてもらったけど、くっさ!?」



 カビだらけで、掃除もままならない。浄水装置がまだ技術的にゆるい世代なのは仕方ないが、奈月でも鼻が曲がりそうだと感じたほどだ。



「……とりあえず。コンクリの『中身』の滲み出しがやばそ! 向こうに連絡するかー」



 せっかくなので、ガラケー端末の絵文字も入れて……のメールに仕立て上げ。ある程度の調査が終わってから、本来の肉体へと一旦戻ったが。



「痛い痛い痛い!?」



 タイミングを告げなかったのも悪いが、腹部にカーテルを入れる時だったので、意識がハッキリしていると多めの麻酔を注ぎ込んでいても痛覚はきちんとあった。


 担当医とそこは、あのタブレット端末を通じてきちんと決め合い、奈月は睡眠の必要がほとんどないのでまた並行世界へと転送された。


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