第17話 並行世界線の都合
兆し、とやらが少し見えたのか。
奈月のVRが揺らぐ感覚を得た。貧血のような症状に近いそれを、奈月は現実で何度も経験していたからわかる。
たまたま、学校ではなく自宅にいたのが幸いか。少し引きずるようにして身体を動かし、ベッドに横になれば端末から自然とIDの宗ちゃんが飛び出してきた。
《どうやら、一旦こちらでの過ごし方に区切りがついたようだ。君は君で次へと向かわねばならん》
虚しいことだが、奈月は学業に専念するわけでも遊んでいるわけでもない。
現実側の『地球の救済措置』と『大型避難のための技術導入』が任務そのもの。
つまり、『この並行世界』ですることは一旦無くなってしまった。であれば、次に必要な世界に向かうのも当然。
別れと似ているが、二度と来ない訳ではない。こちらの『奈月』を戻すことで、高校生活のきっかけは終わったのだ。実体験ではないが、奈月が欲しかった救済措置のヒントは得られたのだ。
現実側が、これを『年単位』で開発可能かまでは計算出来ずとも。
アンドロイドになった、その頃の奈月の周りには誰もいないはず。そのサインも既に署名してある。
「……わかった。次に必要なところへ。……『寝る』よ」
意識体そのものを休眠モードにして、現実側等少しリンクはするがまだホログラムでの意識覚醒がないのなら……誰も周りにいないのか。
今は向こうも、一旦休憩かもしれない。
そう思っていると、地面に蹴飛ばされる衝撃が身体を襲う。
気づいたら、凍える寒い雪の中にいた。
正確には、茂みの中に奈月が防寒具を着込んで待機しているような状況だった。
(いやいやいや!? 座標間違えた?? 宗ちゃんみたいなIDいないし……ここどこ!?)
日本であることはまず間違いない。
しかしながら、まるで北海道の奥地か欧州よりさらに北に匹敵するくらいの寒さが……痛覚で敏感になるくらい、奈月を襲ってきていた。ここはどこだか、寒くてデバイスを確認しように手もかじかんでうまく動けなかった。
(並行世界同士のリンクはされていないらしいから……ここは、別の並行世界だとしても)
最悪の結果が浮かんだが、まだ諦めないと奈月は大きく深呼吸をした。覚悟を決めたと簡単に受け流していただけで、実際はそんな生優しいものじゃないとこれでわかったのだ。
ここがその一端でないことを願いつつ、手袋をはめた手でゆっくりと横にスライドすれば。
前と同じ、ステータスのディスプレイがグループのように大小様々に展開できていた。




