第10話 はじめての料理??
ガスコンロのシステムキッチンが、こちらの年代では普通なのだが。同じようで、違う並行世界。そして、ゲームのようなステータスのディスプレイが収納と展開が出来る、少しSF世界なこちらでは。
『可能性が高く、現実と共有しやすい未来世界』
だと、座標をを置かれたので……健常者生活ゼロの奈月でも生活しやすいのかもしれない。十九年の月日で、一年の半分以上を病院生活していた割には動きやすく、宗ちゃんや雅博との接触があっても、過ごしやすいのだ。
「おっし、一回借りるわ」
グラサンを上げる仕草ひとつで、デバイスが作動し始めたのか。ガスコンロが文字化けしたように歪み出していき、落ち着けばIHの三口コンロへと変化していく。
まるで魔法にも見えるが、端末のデザイン操作と同じなのか。許可申請しないと、他人が装飾できないのは当然。誤作動しないかを雅博が確認している間に教えてくれたのだった。
「んじゃ、俺横で見てっから。教えた手順どおりにやってみ?」
「ん」
現実側の奈月の時代にもあった、『フライパン用のアルミホイル』をフライパンに敷く。その上に、ハサミで可食部までキノコを刻む。好きなソースを乗せたら、これまた刻んだラム肉を乗せて蓋をする。
たったこれだけだが、雅博曰く、たんぱく質も鉄分も食物繊維も取れる優れ物レシピと言い切った。
「俺の幼馴染みの方が、もっとこだわってっけど。奈月気にする方?」
「まあ、気にする……かな?」
「ん。そいつ、今度紹介してやっから。青菜は湯気出た時に刻みながら入れるだけ。飯は俺んとこの炊飯器、余ってたからもってきた」
「……結構自炊するの。体質のせい?」
「あとは、部活復帰も兼ねて。スポーツ栄養士の資格くらいは欲しいし、美味いもんを自分で作れんのは楽じゃん? そりゃ、たまには外食もいいけど」
「……うん」
アルビノに近い体質のせいか、奈月ほどじゃなくても虚弱が少し出てしまう体質。しかし、さっきの幼馴染みが小料理屋でアルバイトしているために、簡単で栄養価の高い賄い風のおかずレシピが増えたそうだ。
現実側では、雅博にはそういう友人はいたかどうかわからないが。少しのズレで関係性がある『もしかしたら』の並行世界。こちらの『奈月』との接触もなかったようだから、ここから築くのでちょうどいい。
食事には麦茶。汁物は今日くらいインスタントの好きな味の味噌汁。
出来上がったそれぞれのメインを皿に載せた以外の『普通の食卓』にどれだけ憧れてきたことか。外食も数回で飽き始めていたので、きちんと自炊は頑張ろうと奈月は心に決めた。
「んじゃ、今日は割り箸だけど」
「いっただきまーす!」
少し冷めたりとか、出来合いの温かさとも違う、『ちゃんとしたあったかい料理』の味は決まり切った味だけど。
IDの宗ちゃんじゃない『人間』が側でいっしょに食べてくれるのが、ここまでうれしいと涙が込み上がりそうになった途端。
玄関から誰かが侵入してきたのか、宗ちゃんが廊下にシールドを展開していて、そいつは頭を強打していた。
「いった!?」
若い女の子が強盗まがいにしては、服装は至って普通の夏物のワンピース。腕にはマイバックと買い物帰りか。奈月はこっそり、空気を撫でてスライドしてみる。雅博の時と同じように、ステータスを表示してみたが。
「あ? メメ……って、ここの玄関開けっぱしてた!?」
「そーよ! あんたの靴あったし、声掛けようとしたらシールドって……誰?」
雅博の知り合い。料理のバイトをしている幼馴染み。
そして、名前は目黒花蓮。通称はメメ。顔とか口調は違っていたが、向こうでは奈月の上の従姉妹と同じ魂の核を持つ人物だった。
なので、お互い外見も性格も違うから、『元』身内でもわからない。
「レディアスのプールでナンパしかけた男だよ。名前は奈月」
「あー……うちのマチャが、ごめんね! 変なことされてない!?」
「されてないけど。自炊教えてもらってる」
「あぁ、それでこの匂い。君もリハビリ明け?」
「わかるの?」
「あたしが教えたんだもの。今は彼女として」
「へー……」
こちらの年齢は聞いてないが、上でも下でも年齢関係なく付き合うのに口を挟むつもりはなかった。せっかくだからと、宗ちゃんを紹介してからリビングに通し。食べようとしてた食卓に、持ち帰りだという賄いを添えてくれた。




