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第5話 オレ、何かやっちまったぜ!



「どうしよう、残り時間は1時間と半分。

あの魔法を使って...いやダメだ。それだと迷宮の屋根が...ならアイツを使えば......」


 部屋の隅に座り込むと、口元に手を当てて、ボソボソと独り言を呟いている。

もはや、アリサさんは焦燥しきって戦力外モードであった。


 こんな事をしている内に、残り95分。


 確実に迫る時間に、焦りと恐怖で少しばかり手が震えた。こうして、なんか良い手は無いものか?と必死に考えるうちに、ふと良案を思いついた。


「俺ってダンジョンマスターなんだから、穴掘りの魔物を召喚して手伝って貰えばいいんじゃね?」


 至極簡単な案だが、アリサさんも含め先程までは思いつきもしなかった物だ!

そんな具合で自分の知能に酔いしれていると。


「それは多分、現実的じゃないよ。」


 どうやら聞いてはいたらしい。

アリサさんは、すくっと立ち上がると、腰を曲げ、そして、叩くようにしてズボンに着いた土を払う。



 おや...腰を曲げたから、上半身に加わる重力の向きが変わったのだろう。

 俺の視線はひき寄せられるように一箇所に向かう。それは、強調されるようにして現れた。対になるようにそびえ立つ豊穣なる果実。それが麻でできたシャツに強い主張を...!!

 

 良くないことをした。途中で我に返ると、バッと顔を背ける。


「…おい、どこ見てた。返答によっては殺すぞ?」


 ちくしょう!


 どうやら、まったくに遅かったようだ。


 嫌悪と侮蔑の入り交じったような冷たい瞳でこちらを一瞥すると、細長い綺麗な指を2本だけ伸ばしてチョキの形を作る。


 刹那。

目潰しを象ったその指は、素早い動きで振るわれ俺の眼前ギリギリで止まった。


「次は刺す。」


「はっ、ひ…」


 殺意のこもったその瞳は、気怠げな、いつものジト目とは雰囲気からして異なってた。


 恐怖というものを刻みつけてくれた彼女は、身体中の毛穴から汗をふき流す俺を尻目に「こほん」とわざとらしく咳き込む。


「話を戻すけど、穴掘りができる魔物なんて、そもそもほとんど居ないの。」


 教師が生徒にものを教えるように、淡々とそう語る。


「だって、普通のダンジョンマスターなら1万前後のDPがあるから、わざわざ時間をかけて掘らせるより拡張を使って道を作ればいいじゃん?

だから、ランクの低いマスターのリストにはそういう魔物は居ない。」


 たしかに、ほとんどが必要としていない中、わざわざ平均以下の弱小マスターに配慮してくれるわけなどないのだ。

多分、レアケースなんだな俺。


「だとしたら、今の状態のまま100DPでそこそこの強さの魔物を出した方が、野生の動物とか採取クエストでもしてる初心者冒険者なら追い返せる。」


 ごもっともな意見だった。

召喚の方法など分からないが、とりあえずコアに触れて召喚のメニュー画面のようなものを探す。

 すると、左端に配下召喚の欄を見つけたので、スマホ画面よろしく、ボタン感覚で触れた。


────────────────────

配下召喚


 ─<種族別召喚


  スライム類─>

  ゴブリン類─>

  スケルトン類─>


────────────────────


 まるで、物みたいな書き方で、種族事に別けられていた。その中で、スライムの分類を押すとたった一種類だけ種族とDP、そして英語が表示された。

───────────────

 スライム類─<

  ・スライム(純水) 10DP F

───────────────

 

 おそらく、数字は召喚に必要なDP。Fは...ランクのように強さの階級などだろうか?


 その流れで、スクロールするように下に滑らせると、残り二つの類にも指を伸ばす。

 すると、パッと種族と思われるものが、あわせて4つほど表示された。


────────────────────


 スライム類─<

   ・スライム(純水) 5DP F


 ゴブリン類─<

   ・ゴブリン(平原種) 20DP E-


 スケルトン類─<

  ・スケルトン(ヒュー厶) 20DP E-

  ・スカルソルジャー   40DP E+

────────────────────


「なんか、ゲームみたいだな。」


「私は見えないからなんとも言えないけど、君の知識を元に造られてるからね。なんかのゲームを参考にしてるじゃない?」


 との事。随分とご都合というか...

それに、魔物を商品のように記されているのは、なんだか良い気持ちにはなれなかった。


最も、今は重要でもない事だ。と心の中で割り切る。


「...えーと、なにを召喚すればいいんだ?」


「とりあえず、竜種って欄にリザードランナーってのが居ない?」


「...」


 いないぞ。

そんな、早く走れそうな竜も、素晴らしい世界に祝福をされてそうなトカゲも。

とは思いつつも、アリサの説明は止まらない。


「Dランクの魔物だけど、この平原にも生息してるから、自然の巣穴って思われれば最低でもダンジョン攻略のための軍隊が来るまでなら、時間は稼げる。

それに、コストは80DPくらいだから召喚もできると思うよ。」


「...」


 俺の気まずい沈黙を見てなにか察したのだろう。真底不満げに眉に皺を寄せると、アリサは深くため息を吐く。


「...ねぇ、また、この展開?」


「また、この展開ですね。」


 DPの折にもやったこの展開、しばらくの沈黙。それを打ち破ったのは…


「あぁーーっ!!

なんでマスターのダンジョンはこんなにしょぼいの!?前世ゴミムシとかなの??」


「また、オレ何かやっちゃ...」


 喋ろうとした途端に俺の口は、彼女の親指と人差し指によって物理的に閉ざれる。


「お前が言っていいセリフじゃねぇ...

あと、普通にその言葉は嫌いだから二度と言わないで?」


「ふぁい。」


 口を抑えられたため、間の抜けた返事で同意を示した。


「あぁっ、どうしよう...」


 さすがのダンジョンサポーター様も、もはや万策尽きたのか、地面に膝を着いた。


諦めてもしょうがない、とは思いつつも、とりあえずメニュー画面を切り替える。


 すると、この目に映ったのは【解放まで残り80分】の表記。そして、刻刻と減っていく解放までの猶予だった。


 時間による焦りで、体中から冷や汗。いや脂汗のようなものが流れ出て、背中をじっとりと濡らす。


 いや、正確には減っていく時間にではなく、何も進歩しないまますぎた15分に対してだろう。

 不安と焦燥感からか、心臓の音もだんだんとうるさく響き出した。


 頼りの綱であるアリサさんの方を見つめるも、頭を抱えながら考え込んでおり、力になりそうにない。



 そうして、時計の表示が"79分"になった瞬間に俺の理性は爆発した。

 人は、いざ焦ると何もせずには居られなくなるのかもしれない。義務感と恐怖感で俺の体は突き動かされる。


 その結果回り出した俺の脳は、


「あ、ゴブリンとかいっぱい出せば結構、強いんじゃね?」


最悪の迷走を開始した。


 焦りながらコアに駆け寄ると、召喚のメニュー画面を探す。

 その間に頭に浮かぶのは「だって、数って力じゃん!」や「アリサさんもゴブリンとの事だが、力もあるし強い種族のはずだ」というような、誰に言うでもない言い訳だった。


 そして僅か、コンマ1秒ほど「ゴブリン少女のハーレム」の文字と一緒にアリサさんの顔が頭を過ぎ去る。



 混乱とわすがな煩悩が入り交じる。そのままコアに触れるとゴブリンの欄へと指を伸ばした。


「ちょ、待ってマスター!?ゴブリンは...!」


 アリサの静止の声が聞こえたが、まるで入ってこない。むしろ、その声に余計焦った俺は、あらかたの種族を触れ、召喚を開始した。



 機械音声がコアから発せられる。


【選択した魔物たちを召喚しますか?】

   はい いいえ



 間髪おかずにはいを押して、やがて俺の目に入ったのは、【保持DP:4】の表示。

 それを見て我に返る。頭が冷えるにつれて、後悔が生まれるも、もはや全てが手遅れだった。


 コアは、ひときわ強く光を放つ。やがて、部屋が青白い光で包まれた。


 それは、生命が生み出される瞬間であった。




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― 新着の感想 ―
面白いです!この後の展開めちゃくちゃ楽しみです! 「…」や「、、、」を「……」で1セットとして統一していただけたらもっと読みやすくなると思います!
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