第4話 「終わってる」
乾燥した土の層にスコップを突き刺すと、力いっぱいに掘り出す。すると、もわりと土埃が巻い、砂利が勢いよく俺の顔にあたる。
もはや何度目かも分からないこの不快感に、グッと眉を寄せる。
「アリサさーん。俺たち、かれこれ何時間くらい掘ってます?1年くらい?」
「いや、せいぜい5時間くらい。
というか、マスターに関しては、すぐバテるから実質1時間くらいでしょ?」
、、、正直、俺たちの作業スピードがゴミすぎてもう嫌になってきた。穴掘りってこんなに辛いんだね。
最初はあんなに白かった俺のワイシャツは、泥と土で既に薄汚れてきた。会社指定の黒のパンツも、素材のせいで土ボコリがよく目立つ。
「先輩、俺もう辞めたいよ。」
「それは、私もそう。」
さっきからずっとこんな調子で、2,3言ほど言葉を交わしては、また黙々と土を掘る。
こんなことばかりをしていると、本当に時間感覚がおかしくなるな。
ダンジョンの中の光度は、休憩ついでにポチポチしてたら、なんかいい感じに明るくなったけど。
時計もないし、日も見えないから時間がマジでわからなくなってくる。
「アリサさーん、何日くらい掘れば終わるんすかコレ?」
「とりあえず、十日くらいやればそこそこ護れる様になるんじゃない?」
さすがのアリサも、疲れが溜まってきたのか、ぶっきらぼうにそう返した。
「それに、ダンジョンマスターは権能で寝なくていい体になるし、空気中の魔力さえ吸収すれば、あとは水だけ飲んで生きられるらしいよ。良かったじゃん、ぶっ通しでできるよ?」
「え、いつの間に改造人間にされてたの俺?
怖っ!?」
見た感じ俺の体に違和感はないんだか、、、中身か?中身が改造されたのか!?
なんて、地味にショックを受けていると、
「マスター。ちなみに確認したいんだけどさ。迷宮の解放まで残り何日って書かれてる?」
「解放?コア触ればわかるのか?」
と言いながら、光の板を下に進ませると【解放日数】という表示が現れた。
「多分、30日~50日くらいって書いてあると思うんだけど?どうよ?」
アリサさんは、手は止めずに聞いてくる。
「...0になったらどうなる感じ?」
プレートを隠すように背を向けつつ、俺は彼女に尋ねた。
「えーと、複雑なんだけど。
ダンジョンは半分異次元にあるから、今私たちが掘ったこの穴の先端だけが崩れて、そこが地上の世界に繋がるって感じだと思うよ?」
「えーとですね、残り日数なんですけど、100...」
絞り出すようしてやっと"数字のみ"を提示する。
「100...日ってこと?
結構余裕あるじゃん!DP分のマイナスがこっちに来たのか!
これなら、一日分の生産DPで拡張されられるかも!」
アリサは、ほっとしたような笑顔でこちらに向き直す。
「いやー 百は百でも、100"分" ですね。」
俺はアリサの方に向き直ると、泣きそうな顔を何とか歪ませて笑顔を作る。
一方、彼女は口をあんぐりと開け、ポカンとした顔のまま微動だにもせずに静止していた。
急に静かになった空間の中でポツリと「終わってる」という彼女の声が虚しく木霊した。