第2話 自己紹介...させてくれよ!
「あぁっ もう、わかりましたよっ!!
やれば良いんだろ? そんなに言うならやってやるよ、馬鹿野郎っーー!!!」
とか言ったが、本当にできるのかも、そもそも何やればいいのかもわからん。
あと、この人が誰なのかも。
そう思っていたら、彼女がどこからともなく木製の椅子と机を出してコアの横に置き始めた。
...俺より低い身長で、せっせと組み立てていく姿は、なんともほっこりするものがあった。
やがて、なんとかセッティングを終えた彼女は、そのまま奥側の椅子に腰かけると「こっち来い」というように手招きをする。つられるように俺が丸太椅子に座り込むと、
「さあ、始めるぞ、作戦会議の時間だ。」
机の上で手を組み、ニヤっとした顔で微笑んだ。
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「と行きたいところだが、そういえば自己紹介はまだしてなかったな。
あ、お前はどうせ記憶ないだろうから大丈夫。」
おや、俺の自己紹介、始まるよりも早く終わったぞ?
「私の名前はアリサ。
ダンジョンサポーター、簡単に言うとダンジョンの説明 兼 補佐役だ。まあ、君の最初の部下って考えてくれればいいよ。」
「ほー、じゃあよろしく、アリサ "ちゃん" !」
ふっ、これは別に俺にデリカシーが無いわけじゃない。自己紹介をスキップされた意趣返しだ!喰らいやがれ!
「ちゃん 付けはやめろよ "おっさん" 」
おや、カウンターの威力高いかも〜
いやっ俺はまだおっさんじゃないはず、年齢も覚えてないから否定できないがっ!!
「すまなかった、言葉のナイフは収めてくれ。てか、それなら君のことなんて呼べばいいんだ?」
「え、呼び方...?
じゃあアリサでいいよ。逆に私は君をなんて呼べばいい?名前も記憶もないだろうけど。」
「うーん、じゃあ、部下なら部下らしく"ご主人様"とかで、いいんじゃないかな。」
「畏まりましたご主人様。
大変キモチ悪いご趣味をお持ちなのですね。」
「よしっ、俺が悪かった、自由に呼んでくれていい。」
「了解です!ちゃん付け大好き、悪趣味ゴミムシ様!」
とびっきりの笑顔でゴミムシ呼ばわりして来られると、なんか変な門が...ってそうじゃない。
「すんませんしたっ!せめて人間で!!」
「...わかった。じゃあ、マスターってでも呼ぶよ。これから、よろしくなマスター?」
「おう、よろしく!アリサ!」
そう言うと、俺は彼女と軽く握手を交わした。かすかに、呼び捨てかよ…というような声が聞こえたが無視するとしよう。こういう時くらいは許してくれ。
いやぁ、それにしてもマスターか!
なんかカッコイイな、ボスキャラみたいで!!
なんとも面白くて、思わず頬が緩む。
「おーい、浮かれてるとこ悪いが話戻すぞ。
とりあえずこのコアに触れてみろ。」
そう言って彼女は、机の横で浮いてるコアをピンと指さした。
あまりこのコアには良い思い出がないのだが。なんて躊躇っていると、痺れを切らしたのか、早くしろと言わんばかりに顎をしゃくる。
「えー、また頭痛とか来たりしないよな?」
そう言いつつコアにそっと手を当てると、その表層が微かに煌めき、とあるものが視界に現れた。
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ダンジョン名: ───
ダンジョンマスター: ───
サポーター: アリサ・イフリース
地域:バルテラ平原.北東部
階層深度: 1
魔物数: 1 (サポーター含む)
ランク: E- 《最下級》
所持DP:100
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俺の目の前には、このように書かれた光る板のようなものがパッと浮かび出されている。
「どうよ?私には見れないけど、多分そこで浮いてるだろ?操作方法はわかりそ?」
「いやー、読めはするし、何となくわかるんすけど...」
これを見て思わず「え、なんか数値しょぼくない?」と思ってしまった。ランクは、まぁ初心者だし致し方ない。それよりDPだ。100ってパッと見てもしょぼいぞ?
それとも100あれば意外となんでも出来るのか?
「おいおい、どうしたー?
渋い顔しながらうんうんと唸りやがって、光る板にでも心奪われた?」
アリサが茶化すように訪ねてくるので、とりあえず答える。
「いや、なんかしょぼくてさ。特にDPとか。」
「あー、アレは個人差でるからな。さてはマスターのやつは、1000DPぐらい?」
琥珀色の瞳と、その形のいい口をニンマリとあげて、揶揄うような笑顔で俺の肩をグイグイと肘でついて来る。
おいおい、やめてくれよ。結構可愛い分、その程度の仕草でも俺には刺さるんだぜ?
「うんにゃ、ゼロ1つ消して100っすね。」
煩悩は潰しつつ、真顔で即答する俺。
彼女はこれを冗談と捉えたのか、ケラケラと笑らいだした。
「DPが100?
ははっ、流石に低すぎるって!スライムがマスターでももうちょい出るよ!」
「...。」
「はは、は... え、冗談じゃ、ない?」
返事の代わりに真顔で頭を縦に振ると、今度は彼女が真顔で固まってしまった。
「えっ、やばい、待って、流石にやばすぎるっ!」
そう言うと ありえない! とでも言わんばかりに頭を抱え、先程までの余裕感は消え去った。
「えーと、そんなにヤバいんで?」
「──っ!!!
はぁー、とりあえず迷宮拡張って書かれてるところ、触れてみ...?」
声にならない声を上げたかと思えば、今度は溜息とともに疲れたような声でそう言いだす。
とりあえず、その通りに押してみたところパッと画面が切り替わった。
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迷宮拡張
─< 領域拡張
キューブ 10m×10m×5m 50DP
回廊 20m×5m×5m 50DP
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迷宮拡張の欄を見て、思わず乾いた笑いがこぼれた。
これを見る限り俺は、キューブサイズの部屋を2つ作ったら、それで終わりってことらしい。
アリサは、「な?終わってるだろ?」 とでも言うように眉を寄せて渋い顔でこちらを見るので、俺も渋い顔で頷き返す。
「補足すると、部屋の拡張はそこにある扉の先に部屋ができる、って感じなー。
でも、正直さー、そこまで小さいとほぼ意味ないし、簡単に突破されちゃうと思う。」
「ですよね...
いくら長くしても出口から40m。走れば数秒でこのコアのある部屋に辿り着けちゃうもんな。」
「そうなると、殺意マシマシの敵に、マスターと私のステゴロで戦うことになる。」
「…あれ、俺たちもしかして、詰んだ?」
頬にじっとりと冷や汗が伝い、慈悲を求めるように彼女の方に視線を向けた。
すると彼女は...
「いや、抜け道はある。」
続けて、「心底面倒くさい手が。」と呟き、口を開いた。