第10話 うさぎと...トカゲ
侵入者のその見た目は、真っ赤な瞳に茶色い毛皮とぴんと経った長い耳、言うなればただのウサギ.…なのだがその額の真ん中に生えた刃物のような鋭いツノがギリギリの所で、ファンタジー感を強調している。
「キュイイイツッ!」
角の生えたうさぎ。いうところの一角うさぎは、洞窟のちょうど真ん中あたりでこちらに威嚇をしている。しかしながら、決して奥までは踏み込んでこないし、そして外に出ようともしない。
すると、前方のゴブリンたちが、俺に向けて声を上げる。なんというか、攻撃していいのか?というような訴えかけであった。
しかしながら、初めての接敵で、そいつの情報も分からない俺からしたら攻撃していいのかわからん。特に、強い魔物って設定は聞いたことは無いが。
やはり、分からないことはサポーターに丸投げしよう。
「えーと、アリサさんあいつの危険度って...?」
「変異個体でもない限り殆どありません。
というか、魔物ではありますが警戒心が強く本来はゴブリンの群れなんかと遭遇したら逃げるはずなのですが...」
などと俺が始めての会敵に、しどろもどろしてる間にも、何度かゴブリンたちの指示を求める声が響く。
逆にうさぎは時折後ろを確認するように目線をダンジョンの入口に向けていた。
う、攻撃すべきだよな。でも、防御からの攻撃をイメージしてたから、なら突撃させるべきなのか?でもそれだと槍の取り回しが結局仇に...
「えっえーと、」
「ッッッツ、グギァァアア!!」
「キュォッ!!?」
不味い、痺れを切らしたのだろう。唐突に戦列の1番前にいたツヴァイが叫び声をあげる。すると一角うさぎはビクリと体を震わせてさらに毛を逆立たせた。
ツヴァイは盾を適当に放り投げると、槍の持ち手を半分にへし折ってウサギに向かって走り出す。
「おっおいツヴァイ!止まれ!」
「ギェァア!」
ツヴァイは俺の静止は無視して一角ウサギの目の前に躍り出ると、へし折った槍を棍棒のように振り上げてその刃を振り下ろした。
カッーーン
取り回しやすいように叩き折られたそれは、どうやら躱されたのだろう。槍の切っ先は洞窟内の岩場にぶつかり甲高い音が響く。
ツヴァイは負けじと何度も振りつけるが、一角ウサギはするりと攻撃を避けつづけ、その度に刃は地面を打ち付ける。
そして、ツヴァイがもう一度刃を振り上げた途端。
「キュウッ!」
前足で地面を蹴ると、発達したその後ろ足で顔に飛び蹴りを決めた。そして、よろついたツヴァイを背に入口まで走り出す。
「ギュオェア?!? ガァァッ!!!」
まるで当たらず、挙句に蹴りをもらったので爆発したのだろう、ツヴァイは怒声をあげつつ追いかける。
しかし、流石はうさぎ。脱兎という言葉がまさに当てはまるようで、跳躍して素早く逃げ回ると危機から抜け出そうと洞窟の入口へ一際大きく飛び上がった。
しかし、あと一歩というところで、[ビュッ!]というような風きり音が響く。
次に地面に着地した一角ウサギの体には、折れた槍の先端が突き刺さっていた。
苦しそうに息をする一角ウサギに、影が重なる。
「グチャァ ギュァ!」
怒りに任せた投擲が見事に命中したからだろう。満足気な表情のツヴァイが、突き刺さった槍を掴むとウサギごと上にかがけて誇らしげにアピールしている。
「ゴォァ!」「ガァガァ!」「ギャギャ」
くっ...絵面は最悪だが、どうやらゴブリンたちはそれを見て盛り上がってるし、敵も撃退できたのだから良しとしよう。
[侵入者の消滅を確認しました。]
アラートの自動音声が勝利を告げる。
いやぁ、解放早々に侵入者が来て内心焦ったが、そいつが弱い魔物で助かった。俺はほっと胸を撫で下ろした。
「まあ、これで一見落着だな。」
隣を向いてアリサに話しかけようとして気づく。彼女のその表情は最初の侵入者出現の時よりも厳しかった。
「マスター、まだ終わってないかもしれない。」
嫌な予感がする、と言ってアリサは短刀を掲げたまま、鋭い目で入口を凝視する。その長い耳は、ピクピクと動きセンサーみたく音を拾っているようだった。
「───うそっ、速すぎるっ!敵がダンジョンに向かってきてる!!」
俺に警戒を飛ばすと同時にアリサが駆け出す。
次には、何かが跳ねられたような鈍い音。間髪おかず、今度は鉄と鉄がぶつかり合うような音が響き渡る、その甲高い音は洞窟内を反響し俺の耳にもよく届いた。
「ぐうっっ!!」
アリサのうめき声が聞こえ、咄嗟に音の方を振り向く。
すると、先程まで満足気な顔で槍を掲げていたツヴァイは、ぐったりと壁にもたれ掛かり血を流していた。
それを見て嫌でも理解する。
先程までの緩んだ雰囲気の空間は終わりを迎えたのだと。
ツヴァイを守るように立ちはだかるアリサ。彼女は短剣の刃と柄を両手で抑えて何とか攻撃を防いでいる。そしてそこには、力強く打ち付けらた爬虫類の尻尾が延びていた。
彼女の向ける目線の先で、二足で立ち上がる小型恐竜のような魔物が佇んでいる。
「カッラララララララッ」
竜が鳴き声をあげる。舌を震わせて連続で打ち付けるような、そんな独特な声が狭い洞窟の中に木霊したのだった。




