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冷凍保存

作者: 泉田清

 冷凍庫の扉を開ける。ラップに包んだ飯を入れようとしたら、既にラップに包まれたモノ達たちで半分ほど埋まっていた。その中にチョコレートを入れた小さな赤い箱があった。

 その手作りのチョコレート、は、何年か前に職場で貰ったものだ。彼女からすれば、皆に配った義理チョコの一つだったかもしれないが、私からすれば記念すべき賜りものである。私は彼女を好いていた。彼女が義理チョコを配った次の年、彼女は結婚して会社を辞めた。

 冷蔵庫に入れた飯は何日もつか。三日はもつと思っている。三日を過ぎたら冷凍庫に移し替える。ならば冷凍庫に入れた飯はどのくらいもつ?わからぬが、十日以内には食べるようにしている。


 休日。一時間ほど銭湯で過ごしたあと車に戻る。ペットボトルの水を飲もうとしたら、すっかりぬるくなっていた。気温30度。車の中は40度はあったろう。半分以上残ったぬるい水は捨てた。帰りにドラッグストアに寄って、ペットボトルを3本買った。これで今夜も過ごせる。我が部屋にエアコンは無い。氷も買っておこうと思ったが、冷凍庫はラップに包まれた何かと、チョコレートの入った小さな箱で埋まっている・・・


 ある夜、一晩中雨が降り続いた。連日の熱帯夜の中、恵みの雨だ。アパートの階段にはアマガエルが数匹いた。雨のしぶきを気持ちよさそうに浴びている。連日の炎天下を彼らがどのように過ごしていたのか、想像もできない。彼らも暑さにやられ、熱中症に罹ったりするのだろうか。

 次の日には猛暑が復活した。夜、帰宅してアパートの階段を上がると、茶色に干上がった何かをみつけた。形からするとアマガエルだ。彼らが熱中症になることは無い。干物になってしまう。水をかけたら復活するかもしれない、そんな妄想が頭をよぎった。


 「これ食べてね」、「あとで頂きます」。遅番で独り残された自分は、三つのシュークリームを押し付けられた。

 週一の頻度で、四十過ぎの女上司が皆に菓子を配る。正直に申せば辟易している。甘いものを好まないし、口にすると親知らずが疼く。一部の社員は「彼女の婚活」などと揶揄する者もいる。上司は未だ独身である。「お前狙われてるんじゃないのか」冷やかす同僚もいる。「誰のせいだと思ってるんだ!」やりかえす。その同僚は毎回「けっこうです」と菓子を突っ返すのだ。その同僚のせいで余った分が毎回私に回ってくるわけだ。


 上司として職場に気を遣うのは良い事である。「彼女の婚活」などと、所詮はただの憶測だ。が、現実として今、我が部屋のキッチンに食べる予定のないシュークリームが三つ並べられている。消費期限は今日まで。とりあえず冷蔵庫に入れるか?冷凍庫なら?冷凍庫には氷を入れる場所もない。バカらしくなってきた。婚活なぞ知った事か。シュークリームはゴミ袋行きとなった。


 ゴミの日まであと二日。猛暑の、締め切った部屋の中、ゴミ袋の中でシュークリームはどう変貌を遂げてしまうのか。知る由もない。ただ収集所に突っ込むだけだ。冷凍庫の中にある賜りもの、チョコレートは、今のところ捨てる予定はない。

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