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ゴールドストライク  作者: 馬頭 流蔵
6/6

6話

 鼻歌を歌い道端で拾った枝をブンブンと振り回しながら歩くオルナの姿を今初めて見た者がいれば、誰もこれから魔王になろうとしているなんて考えもしないだろう。


 忠誠を誓ったばかりの俺から見ても近所にお使いに行く少女の様にしか見えない。なにより時折スキップするオルナの姿が、よりその考えを助長する一因になっている。


「何か楽しいことでもあったのか?」


 肩をビクつかせて立ち止まったオルナがゆっくりとこちらを振り返り鋭い目で俺を見つめた。


「な、何にもないが。何故じゃ?」


「いや、やけにご機嫌で歩いているから気になっただけだ」


「……別に普通じゃ。つまらんことを気にするな!さっさと行くぞ」


 オルナは先程とは打って変わり淡々と歩みを進めている。どうやら余計な問いかけをしてしまったようだ。我ながら人の気持ちを汲み取るの苦手だと思った。


 沈黙が続く中黙々と歩みを進めるとようやく荒野を抜けて小さな村が目に入った。頼りない柵で周りを囲んでおり、入り口には鎧を着た老人が1人座っているだけだった。


「オルナ。ロウレルは名乗るなよ」


 念押しの為に声をかけると怪訝そうに俺を見てぶっきらぼうな口調で答えた。


「私は名に誇りを持っている。何故お前にそんなことを言われなければいけないんじゃ?」


「誇りに思うのは良いことだが、名前をところ構わずさえずり回って目的の弊害になるのはお前も本望じゃないだろ?」


「……ッチ。わかった。わかったのじゃ」


 納得したかは定かではないが、不機嫌ながらも返事を返すので理解はしたのだろう。問答が終わるとオルナは村の入り口に座る老人に話しかけるが反応がない。


 最初こそ丁寧に声をかけていたオルナだが、あまりに反応が無いので段々と口調が悪くなっていった。


「あーーっ!もぉーー!返事ぐらいせんか!私を誰だと思っておるんじゃーー」


「誰なんだ?」


 眠気まなこを擦りながら老人が尋ねた。


「誰だと?私はオルナ!オルナ・ローーーー」


 寸前で何とか口を塞ぐことが出来たがどうもオルナは鶏に似て3歩歩くと物事を忘れるようだ。


「じいさん、俺たちは旅の者だ。この村で少し休息を取りたくて訪れたんだが」


「おおっ。客人か?それなら歓迎じゃ!こんな辺境の村によく来たな。村の中央広場に行けばこの村唯一の宿泊所があるからそこに行くと良い」


 暴れるオルナの口を塞いだまま老人に礼を言って村の門を潜った。老人から離れたのでオルナを離すと、腕組みをしながら魔気を垂れ流してオルナは俺を睨みつけた。


「フツ!お前は私の僕ではなかったのか?」


「僕ってのは下僕ってことか?なら違うな。俺はお前に絶対服従なんてしない。だが絶対に裏切りもしない。お前の為に命を張るがお前がおかしな事をすれば止めもする。そしてお前の夢の果てまで付き合ってやる」


「……ハァッ。よくわからないけど、わかったよ」


 諦めたようにオルナは魔気を引っ込め臨戦態勢を解いた。その後、老人に言われた通り村の中央広場に出ると宿泊所らしき物が現れたが良く言ってほったて小屋と言った所だ。


「なんじゃこの小屋は?」


「何って宿泊所だろ?」


「まるで豚小屋ではないか!私はこんな所に泊まらんからな!」


「贅沢者だな。俺が居た場所ではこれでも立派な方だぞ?雨風が凌げれば十分だ。文句言わずにさっさと行くぞ」


 後退りするオルナの手を引いて宿泊所に入ると威勢の良さそうな馬面の女性が出てきた。どうやらこの宿泊所の店主の様だ。


「邪魔するよ。2人で泊まりたいんだが」


「はひーーん。いらっしゃいませ!こちらにどうぞ」


 どうやら、はひーーんは返事のようだ。見た目が馬だけに期待通りの反応だが。案内について行く後ろでオルナに小声で尋ねた。


「あの人は何族なんだ?」


「ハァッ?お前、一体どんな田舎から来たんだ?馬獣族(ばじゅうぞく)じゃ、馬獣族」


 鼻息荒く罵倒しながらも答えをくれるのだからその態度に反して随分と優しい性分なのが見てとれた。


「こちらがお部屋になりまーーす」


 馬獣族の店主に丁寧に案内され通されたのはボロボロの大きな布団が一組引かれた一室だった。その部屋を見たオルナの表情は見る見るうちに赤面し始め、いつ爆発するかわからない程だった。


 先に部屋に入り布団の側の壁に腰掛けて座るがオルナは相変わらず真っ赤な顔のまま入り口に突っ立ったままだ。


「さっさと入れ。……心配しなくても俺は、このままここで寝るから布団はお前が1人で使え!マセガキが!」


「誰がガキじゃ!こう見ても私は100を超えてるんじゃ!もっと敬意を持って話をしろ!」


「100を超えてるのか、なら余計気にすることはない。俺は若い女子が好みだ。ババアに興味はない」


 オルナの身体から溢れ出した魔気が滞在する部屋を丸々包み込み俺の身体も魔気に包まれた。そしてお馴染みの激痛が体中を駆け巡り気がつけば口から泡を吹いていた。


 痙攣する俺を他所にオルナは布団に潜り込むと、あっという間に眠りについてしまった。あれ程警戒していたにしては無警戒だ、などと考えて顔を覗き込むと軽蔑した眼差しでオルナが俺を睨んだ。


 そして再度俺を包み込んで激痛を与える魔気によって気を失ってしまった。


 〜〜〜〜


 明かりが消えた部屋を小窓から差し込む少し青みがかった月明かりが照らしている。小窓から空を見上げると俺が居た世界の月と比べて倍は大きい青く照らされた月の様な物が輝いている。


 所変われば品変わるなんて言葉があるが何とも寂しさを感じる夜空だ。動く気配を感じて目を部屋に向けると何やらオルナがうなされていた。


「みんな。……私を置いて行かないで」


 様子を見る為に近づくとオルナの眼から溢れ出した涙が伝っていた。それを手で拭い取り、頭を優しく撫でると辛そうな表情が和らぎまた寝息が聞こえ始めた。


 しかし、見れば見るほどよく似ている。だからこそ、彼女が流した涙を見ると心に痛みが走る。だがオルナは彼女ではない。雑念を振り払い近くの壁にもたれて座り、明日に備えて目を瞑った。


 朝、目を覚ますとオルナの姿がどこにもない。部屋を出て入り口の側で立つ馬獣族の店主に、オルナを見ていないか尋ねると朝の散歩に出かけたと返答があったので外に様子を見に行った。


 まだ日が出たばかりの早朝な事もあり表には誰の姿もない。山間から立ち昇った太陽が村を照ら始めている。


 村の中央広場から出入り口に向かうと昨日見た門番の姿はなく無防備な状態で門が晒されている。誰かが襲ってきたらどうするつもりなのだろうか。


 言ってるそばから村の外に人影が見える。目を細めてまじましと見つめるとオルナが1人村の外の朝日が差さない場所で何やら跪いている。


 物陰に隠れながら近づいてよくよく見てみるとオルナが跪く前にはボロ布に包まれた何かが宙に浮かんだ状態で浮遊していた。しかしその半透明の何かはどこか儚く今にも消えてしまいそうに見えた。


 もう少し近くに行くことができれば口を動かすオルナの声が聞こえそうだがこの先には隠れられそうな物陰がなくヤキモキしていると。山間から差した日の光が彼女達を照らした瞬間、それまでそこにいた儚い何かの姿が無くなりオルナはゆっくりと立ち上がった。


 俺は物陰を隠れながらゆっくりのその場を離れた。彼女が今にも泣き出しそうな顔でそれを必死に耐えていたからだ。今はそっとしておいた方がいいのだろう。


 〜〜〜〜


「さっさと起きるんじゃ!このお寝坊さんが」


 お寝坊さんなんて可愛い言い方とは裏腹に起こす言葉と同時に、会心のサッカーボールキックが俺の腹部を直撃して、のたうち回った。唯一の救いは魔気を纏っての攻撃ではなったと言う一点のみだろう。


「何を遊んでいるんじゃ。さっさと行くぞ」


「オルナ、聞きたいことがあるんだ」


「なんじゃ?」


「……いや。今から会おうとしている奴は信用できるのか?」


「信用?……ならお前は信用できるのか?フツ」


「いやっ、俺はーー」


「特別か?」


 先回りして発せられた言葉に俺は言葉に詰まった。


「昨日まで信用していた者が今日も信用に足。そんな確証をお前は持って生きているのかフツ?何事も流動しているんじゃ、変わらないものなどない。私達はただその流動する時の中で出来ることをして行くしかないんじゃ」


 こんなところまで。普段の子供のような幼い眼差しから先を見据える鋭い眼差しに変わっているオルナを見てその器を見た。


「ハハハッ。オルナ、お前の言う通りだ。ではさっさと行くとするか我が主よ」


 高笑いする俺を不思議な顔で見つめるオルナを催促して村を出た。

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