3話
一通り町を案内してもらいニークの屋敷に戻る。出かける時には気にしていなかったが改めて見るとその大きさに驚かされる。俺の世界で言えばそれこそ豪商の屋敷すら霞むほどの屋敷だ。一体どんな悪どい商売をすればこんな物を建てられるのか疑問だ。
屋敷にもさまざまな種族のお手伝いが居る。屋敷の門番にはニークと同じ種族とは思えない屈強なオーク族。女中はオーク族の女性は勿論、トカゲに似た風貌のリザード族にオオカミに似たウルフ族。
そして俺を案内してくれたカツパ族のサッラだ。
「なぁ、サッラ。あんただけ他の人と違って動きやすそうな服装だけど屋敷ではどんな仕事してるんだ?」
「私は主に陰ながらニーク様の護衛をしております。それに加えて各方面への諜報活動も担っています」
「へーー。よくわからんが何だか凄そうだな」
自分の仕事を褒められて恥ずかしかったのかサッラは直ぐに顔を背けて違う話を始めた。そのまま最初に寝かされていた部屋に送り届けられこの日はそのまま眠りについた。
翌朝何やら屋敷内が騒いでいるので様子を見に行くと。サッラが屋敷の入り口で怪我をして倒れていた。側にはニークも居合わせており、俺に気がついた。
「フツ。申し訳ないが食事は後にしてください」
「何を言ってる、食事なんてどうでもいい。何があったんだ?」
「実は近頃、この町の周辺で盗賊が出ていまして、その調査をサッラに任せていたんです。そして昨日、盗賊達のアジトを見つけたのですが奴らに見つかり命辛々逃げてきたそうです」
サッラの傷を見るとその殆どが臓器には達していないが、血を流しすぎている。手当てをして助かるかは五分五分だろう。
「あんたらの世界には一瞬で傷を治せる魔術みたいな物はないのか?」
「そんなお伽話の様な事できる訳がないでしょう。今町から医者を呼んでいます。ベッドに運ぶのを手伝ってください」
ニークに促されその場にいたお手伝いとサッラをベッドに運んだ。そうこうしている内に町から医者がやってきてサッラの治療を始めて俺とニークは部屋から出された。
部屋を出て身体を見ると至る所にサッラの血が付いていた。やはりどれほど血潮を浴びても敵じゃない奴の血を見るのはいつまで経っても慣れる事はなさそうだ。
「助かりましたフツ。あとはこちらでやりますので部屋で休んでください」
「やるって何をやるんだ?」
「あなたには関係のない事です。どうか気にしないで」
「そんなこと言うなよ。あんたやサッラには恩しかない。俺がその盗賊って奴を退治してやる。たとえ断られてもな。だから俺に任せてそいつらの事を教えてくれ」
俺の目を見て諦めたニークは準備するから部屋で待てと言うと、忙しなくその場から走り去った。俺は言われた通り部屋で待っていると、いつもの様に使いの女中が呼びにきてニークの書斎に通された。
「待たせたね。奴らの情報をまとめるのに時間が必要だったんだ。どうやら奴らはこの国、グラナス国の魔王正規軍から追放された元兵士らしい。追放された理由までは分からないが、どうも部隊員だった10人全員が追放されたそうだ。」
「何処の世界もそんなものなんだな。じゃあ奴らの人数は10人なのか?」
「それが調査報告によると、リザード族の野盗も加わって30人以上いるそうで。それに魔王軍にいたと言うことは奴らには強力な魔人の血が流れています。私も見たことは無いのですが何やら特別な力を持つ者もいるそうです」
聞けば聞くほど頭がこんがらがる。要するに強い奴らがいるから頑張って戦えって事だろう。
「わかった!気をつけて戦うよニクック」
「絶対わかってないでしょ?あとそれワザとやってますよね」
「とにかくやれるだけやるよ。俺の服返してくれ」
頼まずとも既に部屋に服を持ってきてくれていた。流石は仕事ができる町長様だ。だが俺の服とは別の服も一緒に置かれている。
「要らぬ節介とも思いましたが、服が随分とボロボロなので別の物も用意しておきました。よければ使ってください」
「それは助かる。何から何まですまない」
代わりにと用意された服は肌触りが随分いい。
「そちらの白色の長袖のシャツは見た目こそシンプルですが、素材には絹を使っており肌触りがとてもいいです。次にそちらのズボンは色は汚れが目立ちにくい黒を選び、腰にはあなたのズボンを参考にして、武器を下げられる工夫もしています。
更に動きやすい様に脚周りはゆとりを持たせて、足首には伸縮素材を使って絞る事で動きやすさを実現しています」
「ああ、どちらも着心地も動き易さも格段にいいよ」
「お気に召してよかった。更にそちらの上着は伝説の竜の鱗をあしらっていまして、その硬さは巨人族の一撃さえ跳ね返すと言われている代物でしてーーーー」
「ありがとう。だがこの羽織は大事な貰い物でね。だから用意してもらって悪いが上着は遠慮しておくよ」
最初に腕を通した時には桜色をしていた羽織が幾度と血飛沫を浴びるうちにいくら洗っても落ちなくなった。そのせいで今や羽織は俺の罪の深さを表す様な赤黒い羽織に変わってしまった。
「いえいえ、お気になさらず。フツが決めたことに異論はありませんよ。しかし、本当に1人で行くのですか?今、つてを使い討伐に手を貸してくれる者たちを集めているのでもう少し待てば恐らくなんとか……」
「まっ。やれるだけやってみてダメなら逃げ帰ってくるよ。悪いけど近くまで案内を1人つけてくれ」
そう言うとニークは周辺の地理に詳しい町の狩人に直々に頭を下げて頼んでくれて近くまで案内をしてくれることになった。敵の根城は町を出てすぐ、目と鼻の先にある洞窟を根城にしていた。
近くまで案内してくれた狩人を返して1人洞窟に向かって歩いた。まだ洞窟から少し離れた場所にも関わらず、やたら大きな声で騒いでいる声が聞こえた。
洞窟に近づけば近づくほど大きくなるその声はどう聞いても宴会などのどんちゃん騒ぎの音だった。まだ朝だと言うのに気が早い奴らだ。
特別何の対策も取らずに洞窟に向かうと洞窟の前でリザード族が20人ばかり馬鹿みたいに騒いでいた。その内の何人かが俺に気づくと棍棒を持って走ってきた。
「とりあえず死にたくない奴はその場で伏せていろ」
俺的には大声で忠告したつもりだったが、だら1人として伏せていないのを見ると誰も聞こえなかったか。俺を舐めてるかのどちらかだ。
駆け寄ってきたリザード族の1人が棍棒を両手で握りしめて振り上げたので、仕方なく刀を抜いて両腕を斬った。しかし斬られたことに気づいていないそいつは構わずに腕を振り下ろして、地面に両腕が落ちてようやく斬られた事に気がついた。
「いてーー。このクソ野郎がーー」
弱いくせに口が悪いので間髪入れずに首を刎ね飛ばした。飛んだ頭はまだ俺に気付かず馬鹿騒ぎを続けている集団の真ん中に落ちた。そこでようやく全員が俺を認識した。
「お前人間か?何でこんなところに人間が」
経験上1人の首を刎ねても大抵はまだまだやる気いっぱいに襲ってくる。
「やれー!早くそいつをぶっ殺せ!!」
やはり言った通りになった。最初はリザード族のゴタゴタした表皮がどれほどの硬さか気になっていたが、いざ斬ってみると大したことはない。甲冑を着たやつと同じぐらいの硬さだ。
人間に比べて二回りほど大きいが、そのせいで機動性は著しくお粗末だ。そもそも俺の初手の斬撃が見えないぐらいではこの連中の実力もたかが知れている。
歩いて洞窟の入り口を目指すとわざわざトカゲ達が刻まれに寄ってくるのであまりにも可哀想になり数少ない逃走者はそのまま見逃した。
洞窟の入り口に立ち、振り返ると20のリザード族の残骸が転がっていた。
「トカゲって、……食べられるのか?あとでニクニクに聞くとするか」
入り口から洞窟の内部を見るが明かりは一切見えない。入り口に置かれていた松明を手に持ち先に進んだ。