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ゴールドストライク  作者: 馬頭 流蔵
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1話

 暗く暑い雲が空一面を覆い小雨が降る。遠くで雷光が輝き、雷鳴は鳴り響く中、長い髪が男の激しい動きに合わせて縦横無尽に暴れ狂う。男を取り囲んだ集団が四方八方から次々と男に斬り掛かるが、男は受け太刀すらせずに向かって来た全員を一刀のもとに斬り伏せた。


 あまりに速い剣速にその場に立っていた人達の目には、急に人の身体が切り離されて倒れていく異様な光景に映っていただろう。そのせいで今だに取り囲み続けている刺客たちは一歩も動けずに長髪の男の周りに倒れる無数の屍を観て恐怖心に震えるしかなかった。


「悪いが、契りを交わしたんでな。この命そう簡単にやる訳にはいかないんだよ」


 歳のほどは20歳そこそこの整った顔立ちの見た目だが男の眼力には歴戦の勇と変わらない力強さが宿っていた。


 だが刺客は何処からともなく延々と現れその数は増えていくばかりだ。それらの刺客達を馬上から指揮する煌びやかな甲冑を見に纏う、華奢な男が恐怖で動けなくなった者たちに叫ぶ。


「奴を討ち取った者には我が殿から格別なる報奨を約束する。金、女、名誉。全てが思いのままだ。だが逃げようとした者は地の果てまで追い相応の死が待ち受けてるとしれ」


 それを号令に刺客たちは次々と長髪の男に斬りかかった。報奨に目をくらませた者から半ば自暴自棄で斬りかかる者とそれぞれ事情に違いはあるが、結果はその誰も彼もが男の刀の錆となった。


 数刻経つと周りには数えきれない程の死体が転がっている。長髪の男の髪を纏めていた髪留めが取れて髪が荒れていた。だがそれ以外はかすり傷ひとつ付いていない。


 馬上から集団を指揮していた華奢な男は死体が散らばる野を隠れながら這いずり長髪の男から離れている。長髪の男は散らばる死体の山から脇立ちを抜き狙いを定めて放り投げた。


 投げた切先は華奢な男の右の手の甲に突き刺さった。女の様に甲高い悲鳴をあげた男はその場で痛みに悶えてのたうち回る。それを見かねた長髪の男はため息混じりに口を開く。


「おっさん、痛がりすぎだろ?お前に命じられて突っ込んできた連中はこの有様だぞ?わかるか?死んでるんだぞ。し、ん、で、る。死んでるんだ。たかだか手を刃物が貫通したからってお前が殺したも同然の死体の前で騒ぐんじゃねえよ」


「罪人のお前が何を言う!お前は一体今まで何人斬り殺した?」


「それは俺を殺そうと斬り掛かってきた奴らが悪い。やるのは良いがやられるのは嫌なんて、そいつは筋が通らないだろう」


「黙れ黙れだまれー!主君殺しの狂人が、この私に偉そうにモノを語るな」


 その言葉を聞いた途端、長髪の男の目つきが一層鋭くなり華奢な男を睨みつけた。怯えた男が這いずりながら必死にその場から逃げようとする。その背後で長髪の男が刀を高らかに上げて狙いを定めていた。


 刀を振り下ろそうとした次の瞬間、雷光が激しく光ったと思えば、高く構えた刀に雷が落ちた。雷は身体に降り注ぎそのまま地面に通り抜けた。濡れた地面に抜けた雷は地面を走り這って逃げる男にまで及んだ。


 眩い雷の光が消えた時、その場に長髪の男の姿はなかった。





 どうも頭がはっきりとしない。嫌な感覚だ。これが死ぬって事なのか?死んだことが無いからわからんが、もし死んでしまったのなら全くもって顔向けができねーー。


「ーーんじゃ、人間か」


 声がする、女の声だ。


「人間風情が何故こんな所に?……クソッ!早く飲め人間」


 口の中に水が流し込まれる。飲んで気がついたがどうやら俺は相当喉が渇いていたらしい。そうか、俺は死んでいなかったんだな。


 ゆっくり目を開けてみるとさっきの衝撃のせいか、目が霞んでやがる。だんだんと視界が治るにつれて、俺に水を飲ませている女の姿が見えてきた。


 似ている。それが率直な第一印象だ。透き通る肌にツンと突き出した鼻、少し垂れた優しい瞳。しかし違いもある。上から下までストンとした直線的な胸ではなくもう少し膨よかだった。その上、頭にはこんな一本角は生えていなかった。


「何をするんじゃ!離せ、早く離すんじゃ!」


 うっかり角を握ってしまっていたらしい。なんとも綺麗な角なので魅入られたのかもしれない。手を離すと凄い勢いで距離を取られ、腰に下げた鞘から剣を抜いて臨戦態勢をとっている。


「待て待て!すまない、この通り謝るからそれを納めてくれ。この通りだ!」


 飛び起きて、地面に頭を擦り付けて土下座して許しを乞うが不思議そうにこちらを伺うだけで剣を納めようとはしない。万が一に備えて自分の腰を弄り刀がある事を確かめてはおいた。


「お前、それは何をしているんじゃ?」


「何って、見てわからんか?土下座だ土下座!」


「ドゲザ?何故それをされたら剣を収めねばならんのじゃ?」


「何故って。……最大級の謝罪だからか?」


「いや、ワシに疑問で返されても困るんじゃが。……まぁ、謝罪であるのなら受け入れてやろう。今後はもう少し注意して生きるのじゃな」


 ようやく剣を収めた彼女がその場から立ち去ろうと背を向けて歩き出した。


「おい、あんた!水忘れてるぞ!」


「あんたではない!ワシはオルナ。オルナ・ロウレルだ!その水は餞別じゃ、せいぜい道中、気をつけてな人間」


 振り返ることなく片手を上げて別れを伝えると、そのまま彼女は居なくなった。動物の皮を縫い合わせて作られた水袋にはまだ幾分か水が残っている。これが無くなる前に今の状況の確認をしなくてはならない。


 周りを見ると木に囲まれていて人はおろか道すら見当たらない。何もない。うっそうとした生えた木の葉がさらにすらも遮っていて方角さえ確認出来ない。


 しまったな、さっき助けてくれた者に道ぐらい聞いておくべきだった。今更気づいても後の祭りなのだが。諦めてそばに落ちていた枝を拾って垂直に立てた。


「さぁ、俺が進む方角はどっちだ」


 枝を離すとさ気ほどの女が去った方角とは真逆を指した。唯一の遭遇者が向かった道の反対を行くのは少々不安ではあったが、一度決めた事とそちらに向かい歩き始めた。





 やばい、このままでは死ぬ。もう丸一日は歩き続けている。どれだけ歩いても一向に森から出られない。もしあの時、水を貰っていなければ確実に干からびて死んでいた。しかしそれももう時間の問題になりつつあるのだが。


 刀を腰から抜いて杖代わりにする事でようやく歩ける始末、おまけに目の前の木々の先には明るい光まで見えているこれはあの世の光、……ではない。ようやく森から出られる。


 残り少ない体力を振り絞り走って光に向かうと、ようやく森から抜けだせた。おまけに遠くの方には町らしきものまで見える。ようやくツキが巡ってきた。命が尽きる前に急いで町に向かう。


 町に着くと町の周囲を柵のようなもので覆っており入り口には鎧を身に纏った巨大な門番が何人も立っており、町を訪れた者と話をしている。どうやら関所の役割をしているようだ。


「よしっ、次。そこの長い黒髪。こっちに来い!」


 周りを見たがそれらしいのは居ない。俺のことか。門番だろうが、初対面の人間に対して些か横暴過ぎやしないか?いや、背に腹は変えられない。大人しく町に入れなければ野垂れ死ぬ。


「はいはい。どうも、どういったご用で?」


「ご用はお前の身元と町への用を確認す……。お、……お前。まさか、人間か?」


 近くで見てみると赤い皮膚に大きな牙が2本口から出ている。あからさまに人ではない。さながら昔、おばあから聞いた物語に出てきた鬼そのものだ。


「……ハハ。人間だろうか?」


 よくよく周りを見ると門番も、列に並んだ者も全員が人ではない異形の者たちばかりだ。その全員が門番が言葉に出した【人間】と言う言葉に反応して俺を見ている。


「俺に聞くな!お前、本当に人間なのか?」


「えーー。……人間です」


 俺が答えると周りは一斉に笑いと歓喜に満ちた声をあげ始めた。門番の鬼は馬鹿でかい手で俺を抱えると周りの皆さんに見えるように掲げてあちらこちらに見せつけた。


「人間だぞーー!!初めてこの町に人間が来たぞーー!!」


「キャーー!私にも触らせてーー」


「馬鹿!客人だぞ。やめておけ」


 それぞれが想い想いを口に出して叫ぶため耳の鼓膜が破れそうだ。そしてあまりの空腹と疲労で俺の意識はまた遠のいた。

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