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83 美幼女と夢




 その日の夜は、程よい疲労感と充実感に満たされてベッドに入った。


 かなりの魔力が身体に残ってるようで、とりあえず毎日葉っぱになったところでちょっとやそっとじゃ魔力切れは起こさないとルドが太鼓判を押してくれた。


 そうと分かれば明日からも魔法の練習を頑張りたい。


 目標ができたことで、明日が来るのが楽しみで仕方ない。こんな気持ちになったのはいつぶりだっけと思いながら、いつの間にか私は意識を飛ばしていた。


「こんばんは。良い夜ね」


 可憐な鈴のような、よく通る声が頭の中に響いた。


 声に自信が満ちている。


 胸を張って、伏せることなくまっすぐこちらを見る女の子の姿がすぐに思い浮かんで、意識がすぐさまはっきりする。


「良かったわ、会えて」

「……美幼女」


 臙脂色のドレスを着た美幼女が、そこにいた。


 思わず辺りを見回すと、そこはなぜか見たこともない場所だった。

 部屋の中で寝てたはずなのに、どう見てもここは外だ。


 薄い黄色や水色の可憐な花が咲き誇る野原の中にいる。少し先には美しい湖が見える。


 まだ夜中のはずなのに、どういうわけか昼のように明るい。空は青く、ところどころ薄く雲がたなびいている。


 かすかに吹く風が、可憐な花を揺らして大地と空の匂いを届けてくる。


 とんでもなくのどかな場所だ。が、なぜこんなところに。


「ここは、あなたたちがこれから訪れる場所よ」


 疑問は口に出していなかったはずだけど、顔に全部出てしまうとアマヴェンナさんからもお墨付きをもらっているから、聡い美幼女が読み解くのは容易いことだろう。


「ごめんなさいね」


 起き上がった姿勢のままの私に、美幼女が近寄ってくる。目の前に座り込んだかと思うと、視線を合わせて美幼女は謝罪した。


 ん? 勝手にここへ連れてきたこと?


「手よ。ケガをしたでしょう? 私のせいだわ。私の油断が招いたこと。傷つけるつもりなんてなかったの。本当にごめんなさい」


 美幼女に会うときは大概美幼女は怒っているから、こんなにしおらしい姿を見せられると、本当にあの美幼女かと疑ってしまう。


「もう二度とあんな失敗をしないように、やり方を変えることにしたの。だから今回は、夢の中であなたに接触しようと頑張ったのよ」

「夢、ですか?」

「そうよ。これはわたくしの夢。どうやって夢の中にあなたを連れてこようか、とっても骨が折れたわ。本当に、この一ヶ月はずっと他者への夢の干渉について考えて考えて、何度も失敗して、そしてようやく成功したの!」


 満面の笑みで達成感を伝えてくる。その美幼女の感情を爆発させた笑顔に、私の胸はいとも容易く射貫かれた。


 ツンツン通常運転の美幼女、しおらしい美幼女、笑顔はじける美幼女、どの美幼女も魅力的で、私の心をこれでもかと揺さぶりにかかってくる。


 動悸が。息が。


 身体の内側から湧き起こる、震えるほどのパッションを押さえるのに、私は必死で胸を押さえた。


「どうしたの? 大丈夫? そうだわ、この夢への召喚の魔法を使ったのはまだ一人だけなの。もしかしたらあなたは魔法の耐性がなくて、身体に影響が出ているのかもしれないわ。でも完璧に繋いでいるはずなのに。ああでも、あなたの身体が一番だわ、すぐに回路を切って……」

「大丈夫です。身体は平気です。気持ちの問題です」


 すっと顔を上げて力強く頷いてみせると、美幼女は疑いながらも一応納得してくれた。


「そう? 辛くなったらすぐに言ってね?」


 優しい。今日の美幼女、突然変異でも起こしたのかってくらいに優しい。優しさが染みて、治まってた動機が暴れ始めてる。


 また美幼女が心配してしまうといけない。気合いと根性で平常心を取り繕うと、美幼女はようやく安心したように私の側から離れた。


「もう少し精度を上げる必要があるかしら。今回はこれで良いとして、次回はもう少し同化のレベルを上げて……あ、いけない。時間がないんだったわ、ゆっくり魔法の検証している場合じゃなかったわね」


 本来の目的忘れて魔法の検証に没頭しちゃう美幼女、見てるだけで絵になる。


「ちょっと触れてみてもいいかしら? 実験段階ではちゃんと触れられたから、大丈夫だとは思うんだけど、反発がないとも言えないわ。触れたときに何か感じないか、教えてちょうだい」


 そう言って慎重に美幼女は私への肩へと手を伸ばす。触れる寸前で一瞬止まり、私の様子に視線を走らせながら、そっと触れた。


「何ともないです。び、えーっと、あなたは大丈夫ですか?」


 いつも心の中で呼んでいる美幼女呼びしてしまうところだった。そうだ、名前聞かなきゃと思ってたんだ。


「ええ。良かったわ。特に拒絶反応も出ていなし、先に魔力の受け渡しをしていたからか、魔力が馴染んでる。これなら大丈夫ね」


 安心したように微笑む美幼女。


 今だ、このタイミングなら、名前を教えてくれるかもしれない。


「あの、差し支えな」

「それにしても、これは何?」


 お伺いを立てようとしたタイミングで、美幼女の声が低くうなる。吐き捨てるように言い放つ言葉とともに、その瞳は嫌悪するものを見るようでもある。


 え、急にどうした。何、何が導火線だったの!?


「随分まぁ、ベタベタと。よくもまぁ、全く、呆れるわ。ここまで……」


 じろじろと私を、というより私の首から下、肩や背中あたりを眺め回して美幼女はブツブツと非難している。

 両腕を組んで、全くけしからんという風に眉をしかめながら私の周りをぐるりと一周した。


 正面に戻った、というタイミングで、なぜか素早く背後に回る美幼女。


 え、何その瞬間移動みたいなの。


 動きのあまりの速さに驚いていると、美幼女は悲鳴のような声を上げた。


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