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5 巻き込まれた一般人

 

 皆の視線を一身に浴びる。


 敵意ではないんだろうけど、注目を受けているとほんとに穴が開きそう。思わず身体をすくめると、隣に座っている青年がポンポンと私の背中を軽くたたいた。


 やっぱりこの青年、おかん属性だと思う。側にいると安心感しかない。


「考えてたんだけど、ここに召喚されたやつらって、みんな同じ時間に同じとこにいたんだよな」


 確認するように、地球人全員を見渡す。それぞれがうなずき返して同意を示した。


「で、そこにこのおねーさんもいたわけ」


 だからさー、と言いにくそうに青年は一拍おいて、口を開いた。


「やっぱあれじゃない? おねーさん、巻き込まれちゃったんじゃない?」


 あ、うん。私も同じこと考えてました。異議なしです!


 だよねーとわかり合う私と青年をよそに、その他大勢、主に異世界側の方々は信じられないというようにどよめき始めた。


「巻き込まれた? 召喚にですか? そんなはずはない。大いなる神が無関係の者をこの世界に連れてくるなど、考えづらい」

 

 よほど神を崇拝しているんだろう、これまでの冷静さとは打って変わって、髪を乱して叫びかねない勢いで別の神官が言った。


「でも実際、五人の救世主のところ、六人来ちゃってるし。おねーさんには記憶というかデータ入ってないみたいだし」


 同意を示すようにうんうん頷いてみせる。


 きっと何かの手違いで善良な市民をちょっと異世界に連れてきちゃっただけだ。全知全能の神様だってついうっかりすることもあるだろう。


「あの、お話しても?」


 口を開く私に、取り乱していた神官さんはあまりのことに言葉も出ないようで、鷹揚に頷くだけで精一杯という風に先を促した。


「彼の言う通り、おそらく私は救世主たちの召喚に巻き込まれたんだと思います。偶然その場に居合わせただけの通りすがりでしかありません」


 正直、異世界召喚と言われても明日の仕事どうしようとしか思えない。今休むと確実に間に合わない。今すぐ帰ったとして、睡眠時間どれくらいとれるだろう。


 とりあえずすぐにでも地球に帰って仕事の立て直しを図らなければ。


 上司の「使えない」って冷たい視線を思い出してうっかり胃を痛めながら、目の前にいる何事か思案していそうな金髪金目に視線を向けた。


「さっきおっしゃってましたよね、望めばいつでも帰れると。私は何のお役にも立てそうにないので、先に帰してもらえるとありがたいんですが」


 戦線離脱宣言をすると、しんとその場が静まりかえった。誰が回答するのか、迷っているように視線が行き交っている。


 そもそも五人の救世主以外が来るのを想定していなかったんだろう。


 まぁ神様もさじ加減を間違えることってあると思うし、これで元の世界に戻れないなら悲惨だったけど、戻れるなら私としても異世界ツアーを楽しめて仕事の息抜きになった。めでたしめでたしだ。


 もちろん快く諾をもらえると思っていた私は、その場で一番強い権力を持っているらしい金色を纏う男が紡いだ言葉に、目を丸くした。


「そうしてさしあげたいのですが、大いなる神のご意思を確認しないことには、あなたを帰すことはできません」


 帰すことはできま、せん? ちょっとちょっと、話が違うではないか。


「私の記憶では、ついさっきまで望めばいつでも帰れるとおっしゃってませんでしたっけ?」

「そうですね、申し上げました。しかしそれは、救世主が望めば、ということです。救世主たちは召喚されはするものの、その使命を果たすかどうかは救世主自身に決定権がある。望まない場合は元の世界に戻る権利が保障されています」


 しかし、と男はそれまでの饒舌さからは一転、悩ましげに言葉を続ける。


「あなたは救世主ではないという。確かに召喚に巻き込まれただけかもしれません。でも、そうではなかったら?」


 金の目は探るように私を見つめる。穏やかで、揺らぎのない、絶対の自信を持つ者の目だ。視線にブレがない。そして、自身が見られることにも慣れている。


「私たちは私たちの世界における神を信じています。戯れに無意味なことをなす存在ではない。なればこそ、あなたの存在は非常に扱いあぐねるものだといえるでしょう」


 まどろっこしい言い方だ。


 本質からそれるように、誘導されている気さえする。


「神のご意思がはっきりするまでは、できればあなたをこの世界にとどめおきたい」


 物腰は柔らかいながら、そこにははっきりと従わせる意思を感じさせた。


 命令されることと反論を許されないことに慣れた社畜なもんで、反発しようにもとっさに声が出ない。その一瞬をさらうように、男は言葉を続けた。


「心配いりません。神のご意思がはっきりし、あなたが本当にただ巻き込まれただけであれば、すぐにでも元の世界に戻しましょう。召喚された時、場所に。ただし、ここでの一切の記憶は消えてしまいます。ここでどれだけ時を過ごしても戻れるのは召喚された時であれば、ひとときの休暇だと思ってお過ごしいただけませんか?」


 莞爾、と笑むその顔には善意しかありません、と書かれているようで、どこか都合の悪いことを隠しているのではないかという気さえする。


 即答しない私をよそに、周囲はそれで決まり、とばかりにうなずき合ってるし。


「その、神のご意思とやらはいつ頃分かりそうですか? 私、できればそんなに長居したくないんですけど。ご迷惑でしょうし」


 救世主らしい私以外の地球人はみんなこの世界のデータとやらが頭に入ってるようで、この世界の常識とかもインプットされてるのかもしれないけど、私には全く情報がない。


 この状態でここに居座るのは周囲とトラブル起こす未来しか見えないんだけど、と暗に匂わせてみたものの、返ってきたのは爽やかな笑顔だった。


「何も知らない世界に放り出されたようでご不安になるのも当然です。あなたのお心が安寧に過ごせるように、私たちも尽力いたしましょう。神は非常に気まぐれな存在ですので、そのご意思がはっきりするのは、魔のものとの戦いが終わるまでとしか今のところ申し上げられません」


「それって、救世主が役目を終えるまでってことですか?」

「何不自由させないと誓います」


 聞きようによってはありがたい台詞だけど、できれば帰してもらいたい。救世主でもないのになんで居座ってんだって絶対なるから。


 そう口にしたところで、斜め上の回答しか返ってこなさそうで、ついに私は口を閉ざして一旦は引くことにした。




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