54 もう一人の召喚者は橋渡しの役割があるらしい
「チヨコが来たことで、もう一度王家に伝わる神託に関する口伝を全てさらってみたんだ。王太子殿下に頼まれてね。そこには五人の救世主だけでなく、もう一人同時に異世界から現れる人物がいると言われている。その人物は救世主とこの世界とを繋ぐ役割を果たすとも。チヨコは、救世主にとってもこの世界の人間にとっても重要な人物だ。そういう役割を担っているからだろう」
「もう一人の召喚者……」
「救世主がどのように救世を果たすのか、詳細はどこにも書かれていない。同様にこの世界を橋渡しする人物についても、口伝以外にどこにも記載はない。でも王家はチヨコの存在を救世主同様重要なものだと考えているよ」
橋渡しって、一体何をすればいいんだろう。
自分の役割が明らかになったところで、どう動けばいいのかはっきりしないのがもどかしい。
悩む私の心中を察してか、ルドが言葉を続ける。
「王太子から聞いたよ。チヨコには召喚時に付与されるというこの世界の情報や加護がないって。それはきっと、橋渡し役だからじゃないかと思う。余計な情報を持たず、この世界のことを異世界の視点から見られる人間が必要だということなのかもしれない。この世界の情報を何も持っていないチヨコだからできることだ」
たとえばイヴェリーン教、とルドが意味深な笑顔を浮かべた。
「救世主様方はこの世界で一般的に信仰されているイヴェリーン教の教えを情報として持っている。魔のものに関してもだ。けれどチヨコはそうした情報を持たない。だからこそまっさらな状態で、ゴリムレラのこともイヴェリーンが人間だということもそのまま受け入れられた。これはこの世界の人間には難しいことだ。情報を付与された救世主様方にもね。おそらく情報と加護は一対のものなんだろう。だから加護だけを付与することはできなかった。それだけでなく、もしかしたらゴリムレラは、チヨコにはそのままの自分を知ってもらいたかったのかもしれないね」
私に情報も加護も与えられなかったのは、うっかりでもなんでもなくてあえてそうしたってことらしい。
素直じゃない私の心が「ほんとに~?」とぼやいているけど、王族がそういうならそういうことなんだろう、うん。
「あの、神託って一度だけなの? ゴリムレラが私たちを召喚したんだとして、どうやって魔のものを倒すのかとか、真楯くんたちは知らないみたいだった。王家の人だけには伝えてたりするの?」
「救世主が召喚されたこと、それ自体が救世だと言われている。だから、チヨコたちが召喚された時点で、その身と心の安全を守ることが救世に繋がるのだと思っているよ」
「それって、私たちが存在するだけで救世になるってこと? 魔のものが苦手なにおいとか出せたりするのかな」
「それは……どうだろうね」
とにかくルドいわく、救世主と私は『召喚者』として、存在するだけで救世に導くものとされているらしい。
具体的に魔のものをどう討つのかは謎のままだけど、救世主がゴリムレラから与えられた力は、魔のものを取り込んだ旧生物を倒すまでの威力に高められているという。
みんな、遠征頑張ったんだなぁ。
でもこれで少し安心材料が増えた。存在するだけで救世できるんなら、怪我もなく魔のものを討てそうだ。良かった良かった。
ほっとすると同時に、好奇心がうずうずと主張し始めた。
「そういえば、この世界って魔法が使える人がいるんだよね? 王族は魔力持ちが多いってアマヴェンナさんから聞いたけど、ルドも魔法が使えるの?」
「まぁ、魔力はそれなりにある方だから、魔法もそれなりには使えるよ」
おお! 普通に魔法が使えるなんて言ってる! さすが王族! さすが異世界!
「見たいの?」
ルドを見る目が期待に満ちているのに気づいたんだろう、ルドが苦笑しながら意を汲んでくれた。ルドの気持ちが変わらないうちに、速攻で頷いておく。
「そうだな、じゃあ『雲』を一緒に見てみる?」
そんな言葉とともにルドは左手を上にし、そこに白い靄を浮かべた。靄はどんどん広がって、バレーボールくらいの大きさに膨らんでいく。
覗いてごらん、というルドの言葉に従ってそっと覗き込むと、白いはずの靄の奥に、何かが見える。
何だろうと見続けていると、鬱蒼とした木々と騎士服を着た団体が見えた。
「これ……」
「遠征中の救世主様方だ。今は王家の森を出るところらしい。ここからはグリパレに騎乗しての帰路だろうから、後数時間で帰ってくるかな」
王家の森がどれくらい離れたところか分からないけれど、映像は何かを通して見ているような感覚はなく、すぐ側にあるようにはっきりと見える。
視線を動かせば、騎士服の団体に混じってとおくんや嬉世ちゃん、輪音ちゃんたちが見えた。少し離れたところには真楯くんとはるくんが談笑している。
彼らの口に注目すると、はっきりとその動きも目に入った。
「遠征に『雲』を同行させたんだ。こうして状況を見ることもできるし、あちらから『雲』を通して情報を伝えてくれることもある。『風』があれば声も聞こえる」
「……それって、私に話していいことだった?」
国家機密感が半端ない。思わず訊いた問いに、ルドはにっこりと笑うだけで答えてくれなかった。
その笑顔が怖いんですけど。
ルドがふっと両手を振ると、白い靄は一瞬で霧散した。
「あとは何だったかな、魔のものについてだったね。ゴリムレラの執着はもう知ってるね。魔のものはこの世界の正常化装置っていうのも聞いただろう? 簡単に言うと、魔のものはイブキを探し出すためのものだ。魔のものは、魔力のある人間とない人間、この両極端の人間を好む。イブキには魔力がなかった。だからイブキを探し出すのに、魔のものがうってつけだったってわけだ」
与えられる情報に付いていくのがやっとの私は、相づちも忘れてルドを見つめるばかり。
「ゴリムレラは今も探してるんだよ。彼のイブキを。何百年経っても褪せない愛執を秘めて」
な、なんかタイトルっぽいの出てきた! 異世界ロマンスっぽいやつ! サブタイトル込みで。
異世界ボルテージが上がって胸がドギマギする。
「じゃあ、伊蕗さんを探せば、魔のものは落ち着くってこと?」
「ゴリムレラの目的としてはそうだろう。ただ、もうイブキはいない。だから魔のものの目的は初めから果たせない」
探し人がいない世界を、さまよっているんだろうか。その割には、魔のもののやり方は過激化しているように思う。
旧生物に取り憑いてヒトを襲うようになったという報告が増えていると、アマヴェンナさんも言っていた。どうにも見つからないから自棄になってるのか。
「イブキは異世界人だった。だから、同じ異世界人であるチヨコたちをイブキだと勘違いして集まってくるかもしれない。それが今回の救世主召喚の実態だと思う。ゴリムレラがどういう神託を下したのか、詳細は分からないからあくまでも私の想像だけど」
「ははぁ……ルドって、すごいねぇ」
感嘆の声を上げる私に、ルドはきょとんとした顔をした。
「いろんな情報集められる立場にいるとはいえ、ここまで筋道立てて考察できるってすごいと思う。ルドは想像って言ってたけど、今の説明が一番しっくりくる気がする」
「じゃあ、これからはユエジンじゃなくて私を頼ってくれる?」
キラキラしい笑顔は、王族の特徴なのか。王太子殿下によく似た顔で、極上の甘さを舌にのせて宣う。
「うん。あ、でもユエジンさんには私からお願いしたことだから、一度は会っておきたい。大神殿にも行きたいし」
アマヴェンナさんとも伊蕗さんの手記を翻訳するという約束をしているのだ。
手記は大神殿の宝物庫に厳重に保管されているため、持ち出しはできない。
王太子殿下にも許可をもらわなきゃならないようで、遠征組の帰りをアマヴェンナさんは今か今かと待ち構えている。
「……まぁいいか。少なくともチヨコからの信頼は得られているようだし。遠慮しないで、私にして欲しいことがあったら何でも言って」
王族ってあれかな、余裕があるから許容量も違うのかな。客へのもてなしぶりと甘やかしぶりが常軌を逸するレベルに達してる。
あとでぼったくられないかな、と不安になりながらも、もう一つ気になっていたことを聞いてみることにした。




