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48 加護のない身

 

 やはり、と呟く王太子殿下の苦い声が聞こえる。


「アマヴェンナ、ここへ」

「はい」


 アマヴェンナ、と呼ばれてこちらへ進み出たのは、いつものメイドさんだった。


 ここにきてようやくメイドさんの名前が判明!


 驚きと喜びに目を輝かせていると、なんと王太子殿下は何の断りもなしにアマヴェンナさんの手を取り、ペン先を押しつけた。


「何をっ! やめてください、傷がっ!」


 遅かった。すでにアマヴェンナさんの手には楕円の火傷が赤く滲んでいる。何てひどいことをするんだ、この横暴王子は!


「キヨさま、今度はこの者に癒やしを」


 命じられるまま、嬉世ちゃんが再度ネックレスを握りしめた。


 固唾をのんでアマヴェンナさんの手を見つめていると、そこにふわりと光の珠が集まってくる。一つ、二つ、たくさん。そうして光が傷を覆って霧散すると、傷は消えていた。


「消えた」

「っ、アマ……えーっと、メイドさん、痛みはないですか!?」

「いいえ、全く。キヨさま、ありがとうございます。おまけさまも、ご心配いただきありがとうございます。わたくしのことはどうぞお好きにお呼びください」


 痕も残らず傷は綺麗になくなっている。あの白く美しい肌に傷を付けるなんて、王太子殿下はどういう神経しているんだろうか。


 傷が消えてほっとしていると、不意に手を取られた。横暴殿下、健在である。


「人の心配をしている場合ではないでしょう。傷はどうなっていますか? 痛みは?」

「え? あー、痛みますけど、でも予定では五分で消えるんですよね? もうすぐなので問題ないです」

「大ありです。あなたにはキヨさまの癒やしが効かない」


 王太子殿下が告げた内容に、私も嬉世ちゃんも固まった。


 そんな馬鹿な、ととっさに口をついて出そうになるものの、検証と称した王太子殿下の横暴を思い返すと、納得できる部分が多い。


 同じ傷をつけても、私には癒やしが効かず、アマヴェンナさんには効いた。魔のものに関しては傷をつけられたのが私だけだったから不明な点は多いけれど、もしかしたら私でなければ癒やしは効くのかもしれない。


「異世界人だからという可能性はないでしょうか? アマヴェンナさんを含め、この世界の人間限定で癒やしが効くとか」

「先の遠征で、救世主様方にも多少の負傷があったと報告を受けています。そうですね、キヨさま?」

「はい。真楯またてさんが捻挫と切り傷、はるくんが擦り傷と打ち身を。輪音もとねも調理中に指を怪我したので、私が癒やしを使って、三人の傷は治癒しました。確かに、治ったのを見ています」

「ではやはり、キヨさまの癒やしの力はあなたには効かないということだ」


 視線が集中するのが分かる。五分経過したのか、先に告げられた通り手の甲の火傷は綺麗に消えていた。傷も痛みも消えたのに、新たな問題が私を締め付けていく。

 

 嬉世ちゃんの顔色が悪い。今にも倒れそうだ。


「あなたには、この世界に召喚された人間が与えられるはずの情報もないと聞きます。であれば、——これはあくまで仮説に過ぎませんが、あなたはこの世界で享受できるはずの、大いなる神の加護から外れているのかもしれません」


 大いなる神の加護。久しぶりの異世界あるあるワードの登場である。


 やはり私はゴリムレラの刺客なんじゃないだろうか。自覚ないけど、滅ぼしの救世主なのかもしれない。じゃないと、説明がつかない。


 イヴェリーンが私をうっかりでも召喚したなら、せめてかすかにでも加護を付けてくれるものじゃなかろうか。そこもうっかり忘れちゃったってことだろうか。


 でなければ、ゴリムレラの加護はないんだろうか。せめて私にも何らかの加護付けてくれててもいいだろうに。あれか、私が心穏やかに過ごさないと世界が破滅に近づいていくっていう加護か!


 妄想たくましくしていると、嬉世ちゃんが私の手を強く握った。励ますように、労るように、柔らかくて優しい手が包帯を巻いていない手を握り込む。


「おねえさん、大丈夫ですか? いきなりすぎて、戸惑いますよね」

「嬉世ちゃん」

「私、決めました。一刻も早く魔のものの討伐に向かいます。それで世界を救って、日本に帰りましょう! そうしたらおねえさんも、安心して一緒に帰れますよね?」

「それに関して、一つ提案があります」


 妖精姫の優しさに心打たれてうっとりしていると、王太子殿下が突然侵入してきた。妖精との不可侵条約をぜひ締結してもらいたい。


「提案、ですか?」

「ええ。おまけさまに癒やしの力が効かないということになると、救世主様方も不安が増すことでしょう。我々も、よりおまけさまの身辺の安全に力を注ぎたいと思っています。ですので、おまけさまにはこの宮殿の離れに居を移していただきたいのです」


 宮殿の、離れ。


 何週間か前に宮殿の外を探索したのを思い起こしてみる。確かこの宮殿の周りは森で、開けた部分は整えられた庭園、さらに騎士団の訓練場が広がっていた。


 記憶では騎士団の建物が別にあった気がするけれど、それ以外に建物らしきものはなかった、気がする。私が探検できないほど森の深いところにあるのかな。え、でもそしたら簡単にみんなと会えなくなる。


 私の表情から何を考えたのか読み取ったらしい王太子殿下は、甘やかな笑みを浮かべて私を見つめた。これはあれだ、懐柔しようとかかっているやつだ。


「ご心配には及びませんよ。救世主様方とはいつでもお会いいただけます。離れと言いましても、それほど離れた場所にあるわけではありません。これまでのように救世主様方と同じ部屋で暮らす、ということは叶いませんが、面会等の手続きを済ませれば、誰と会っていただいても構いませんし、これまで通り自由にお過ごしいただけます」


 かなり濁されてるけど、これまでのように一緒には暮らせないし、自由度も低くなるような気がする。だって面会手続き必要って言ってるし。


「ご不満は分かりますが、これ以上の譲歩は我々にもできかねるのです。おまけさまの安全面を最大限考慮した結果、離れでお過ごしいただくのが一番となりました。どうかご理解ください」


 異世界で何の不自由もなくこれまで暮らしてきたことを考えると、私はかなり恵まれている。みんなと離れるのは不安だし寂しいけれど、これ以上駄々をこねても仕方ないだろう。


 私に癒やしの力が効かないのは事実だし、そのせいで私が下手に動いて怪我したりしたらゴリムレラの刺客としての力が開花してしまう、なんてこともあるかもしれない。ひっそりのんびり穏やかに過ごすのが一番だろう。


 それに、私がこの世界に残っているのは、あくまで私が何らかの役割を担っているかもしれないという仮説に則ったものだ。まさかのゴリムレラの刺客だとは救世主方は思うまい。私だって半信半疑だ。


 でもこの王太子殿下の囲い込みっぷりや周囲の私への対応から見ても、私が何らかの役割を担っている可能性が高い気がしている。何もしないことがこの世界を救うことになるなら、ぜひそうさせてもらいたい。


「わかりました。離れで暮らします。さまざまにご配慮いただいたようで、ありがとうございます」

「ではすぐに移動を始めましょう。アマヴェンナ、ご案内を」

「はい。おまけさま、荷物などはわたくしどもが運びますので、どうぞそのままこちらにお進みください」


 善は急げとばかりに、あっという間に私は身一つで離れへとドナドナされたのであった。




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