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33 しるし


「どこにいてもあなたの居場所を特定し、接触するためのものです」


 ユエジンさんの解説に思い浮かんだのは、GPS機能だ。


 魔法で付けられるなんて、便利な世界だ。さすが異世界。


「なぜ私にそんなものを付けたんでしょう? お友だちになりたいとか、ですかね?」

「そのような親愛の情から付けるものではないんですよね、これ。基本的に犯罪者などに対しての処罰として、以前は活用されていたようです」


 ということは。「私あの子とお友だちになりたい、いつでも連絡取れるようにしたーい」というほのぼのした願望からではなく、「あいつ目を離すと何しでかすかわかんないからどこにいても把握できるようにしとこう」という危機管理上の機能ということでしょうか。


「私、何か危険因子持ってます?」


 口にしてから気づく。


 あれ、これ結構的を射てるんじゃないかと。


 救世主召喚に巻き込まれた一般人ではあるけれど、もしかしたらゴリムレラ側が寄越したダークサイド側の人間だと思われてるのかもしれない。


 私に何の力もないのは私が一番良く分かってるけど、事情を知らない人が見たら、「こいつも何かしらの使命があるんじゃないか。もしかしてゴリムレラが召喚した滅ぼしの救世主か」と思われても不思議ではない。


 ……滅ぼしの救世主だなんて言葉があっさり出てくるようになった辺り、私もこの世界にかなり馴染んできている。


 なるほど、と一人納得していると、不意に周りが暗くなった。


 いや違う、目の前に影が落ちて暗く感じただけだ。

 なぜ影がって、それは王太子殿下が目の前に顔を近づけたから。


 え、ちかっ!


「あなたがこの世界に及ぼす作用があるとするなら、もしそれがこの世界にとって災厄の種になるというのなら、私が全力で止めましょう。しかし、決してあなたを傷つけることはしないと誓います。あなたは私たちが招いた客人だ。この世界に残ることを望むときにも、必ず幸せに暮らせることを約束します」


 どうか、と懇願するような切なさを滲ませて王太子殿下は続ける。


「この世界に来たことを、後悔しないでもらいたい。疑心暗鬼になる気持ちは分かります。今回のしるしに関しても、あなたにとっては不明なことが多く不安になるのも当然でしょう。それでも、この地にきたことをあなたが喜べるようにと、願ってやみません」


 まるで今生の別れを前にした文句のようだ、と思ったのは私だけではなかったようだ。


「殿下、重いです。暗いです。普段はあまたの政務官の陳情を一言も発さずむげにしてしまうのに、なぜこういうときだけは必要以上に言葉を尽くすんですか。ほらご覧なさい、おまけさまも不思議に思っていらっしゃいますよ」

「え、あ、いえ、何というか、そこまで私たちがここで過ごすことを気にかけてくださってるんだなぁと、恐縮する限りです。えーっと、では私には危険因子は特にないと? では、なぜあの美幼女は私にしるしなんて付けたんでしょう?」

「さぁ。それはその幼女に尋ねるしかありませんね。もしかしたらおまけさまの推察通り、お友だちになりたかっただけなのかもしれませんし」


 どうも投げやりになってやしないだろうか、とユエジンさんをじっとりと見上げると、私の前に座っていた王太子殿下が立ち上がった。


「確かに聞くのが一番手っ取り早いでしょう」

「殿下の掌中の珠ですからね。どうぞ聞いていらしてください。見つけ出すまでに時間がかかるかもしれませんが」

「神官長はいつまでここに? 夜分に女性の部屋に長居するのは無遠慮が過ぎると思わないか?」

「そういう言葉は御自らの行動を省みておっしゃっていただきたいものですが。メイドを同席させます。ご心配には及びませんよ、殿下。おまけさまの体調も見ておきますし、……ほら、急ぎませんと。掌中の珠を二度も傷つけられたくはないでしょう?」


 にこやかに笑うユエジンさんとは対照的に、王太子殿下の顔は吹雪いている。


 普段はほのかに笑みを浮かべている姿しか知らないから、無表情がこんなに怖いだなんて知らなかった。


 震え上がっていると、トントンとノックが聞こえていつものメイドさんが姿を見せた。


「おまけさま、喉が渇いていらっしゃいませんか。温かいお茶を用意いたしました」

「いただきますっ!」


 女神のご登場と提案に、私は前のめりで賛同する。


 温かいもので心に癒やしをいただきたい。


「おまけさま、どうかあまり無茶はなさいませんよう。知識に関しても、根を詰めませんよう」


 去り際、王太子殿下はいつもの微笑みを浮かべながら私の前に立った。


 これは忠告だ。根詰めすぎて目の下にクマでもこさえようものなら、どんな苦情が飛んでくるかわからない。


 何だか私が元気でいないと世界が終わる呪いでもかかっているのだろうか。


 ここにきて加速度的に王太子殿下の過保護っぷりがあらわになってきている気がする。まぁ、私が「客人」だからなんだろうけど。


「肝に銘じます」

「ええ。もし息抜きが必要ならいつでもお声がけください。以前お約束した庭園散策にお連れしますよ」


 だからこの人はほんとにおもてなし能力が天元突破している。


 そんな笑顔で言われたら、どんなに社交辞令だって自分の胸に言い聞かせてもときめきますよ。


 無駄に騒がしい心臓が、慌てて口から出てしまうんじゃないかと思いながらどうにか返事をすると、王太子殿下は颯爽と去って行った。



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