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24 『テュリウスの魔禍』


 そんなわけで、翌朝救世主ご一行は遠征という名の強化合宿へと旅立っていった。戦闘服に身を包む輪音もとねちゃんと嬉世きよちゃんは、いつにも増して気品と優美さを纏っていた。


 実用性と機能性を重視した装いの中にも、さりげない刺繍だとか動きやすいよう絞ったウエストの絶妙なラインとか、胸元を覆いつつも華奢な鎖骨をチラ見せしちゃうとことか、動きやすいパンツスタイルに編み上げブーツとか、全てが私のハートをわしづかみにして離さない。


 まるで完成された絵画のよう。題して「妖精姫、出立」。


 はい、メイドさんはどこですか。

 はい、いました。今日もお見事としか言いようがありません。拝んでおこう。


 と、心中にぎにぎしくお見送りを果たした私は、めでたく引きこもりをスタートさせた。


 魔のものの活動も活発になってきたようだということで、なんと私にも護衛が付いている。

居残り組の騎士たちは、今日も凜々しくうやうやしく扉を開けてくれる。いやほんと、申し訳ない。


 これ以上仕事を増やさないよう、昨日のうちに必要な本を部屋に運び込んでおいたから、今日はこれ以上の扉の開閉は仕事に含まれずに済むはずです。


「おまけさま、今日はどのお勉強をいたしましょうか?」


 普段も日中は、もとねちゃんときよちゃんは訓練で部屋を空けていることが多い。


 だからいつもと変わらないはずなのに、二人がこれから一週間も帰ってこないと思うとより一層広く静かに感じる。


 ひっそりした室内になじめずにいると、メイドさんが声をかけてきた。


 最近ようやく食材図鑑をおっかなびっくり読破して、続いて「旧生物との共生」がテーマの本を読み進めているところだ。

 今日もその続きを読むのもいいかもしれない。それなのに、心は変にざわめく。


 ここにきて一人になったことで、はたと思い至ってしまった。


 私、何の役にも立ってない。


 世界が非常事態だってときにのんびり異世界知識増やしてる場合じゃないのではなかろうか。


 ほんとのおまけでお荷物になんてなりたくない。このままだとお荷物さまになっちゃう。おまけも少しくらいランクアップしておきたい。


「あの、魔のものについて、お伺いしてもいいですか?」


 何かにせき立てられるように、思いつくままに私はメイドさんに聞いた。


「魔のものについてですか? どのようなことでしょう?」


 お茶を用意しながら、メイドさんは落ち着いた声で聞いてくれる。

 お茶を入れる無駄のない、それでいてゆったりした動きに思わず視線を奪われながら、何を聞こうか思考を巡らせた。


 謎はたくさんある。次々にあふれて、私の中で処理しきれないほどに。だけどそもそも。


「魔のものって、何なんですか?」

「何、とおっしゃいますと」

「生き物とか、無生物とか、えーっと、霧なんだとしたら自然現象とか、何らかの条件で発生するものとか、そういう、魔のものが一体何でできているのか、どういうものなのか、知りたいです」


 かなり支離滅裂な私の質問に、メイドさんは嫌な顔一つせずいつものように淡い微笑みを浮かべて聞いてくれる。


「魔のものの定義として、わたくしたちが知り得ているのは、大きく三つです。一つは、それに触れると人は死に至るということ。二つは、周期的に発生すること。三つは、それが発生するのは終末の地付近であること。これだけです。その実体が何であるのか、古くからの文献にも詳しくは載っていません」


 そこまで話すと、メイドさんはふと考えるように視線を落とした。


「あるいは、文献には魔のものの正体についてあえて避けて記述されているのかもしれません。何らかの意図が働いているのでは、と感じたことはあります。特に今は失われたイオヴェ語での文献は最も古いものであり、続く古ルヴェルシュベイン語では、神の存在が身近なものとして記述されています」


 緊張からごくりと唾を飲み込む私に、そっとお茶を飲むよう促してくれる。


 勉強中もそういう配慮を欠かさないメイドさんの指示には全て素直に従うようになってしまった。ことによると私以上に私の身体に詳しいかもしれない。


「そこに描かれる魔のものは、むしろ現在の魔のものとは縁遠い存在とも考えられるほどです。時代を経るに従い、死や穢れをまとうようになった。けれどこれが呪いなのか、何かの魔法の発現なのか、自然現象なのか、それとも生きた何かなのか、現在ではもう知り得ないものなのです。魔のものに近づいて無事でいられる人間は、もういないのですから」


 考えていた以上に古くから魔のものはこの地に根付いていたらしい。けれどその実態は時代とともに変化してきたようだ。


「そんな昔から魔のものが周期的に発生していて、最近になるまで被害がなかったってことですか?」

「記録によれば、被害が起こり始めたのはここ三百年ほどの話です。それまでも周期的に発生はしていたようですが、それほど深刻な被害ではなかった。直近では十年前の『テュリウスの魔禍』が記録上最大の被害を生んだとされています」

「十年前……」


 つい最近、十年前の話を聞いた気がする。確かあれも魔のもの関連の話だった。そう、あれは——。


 考え込む私の表情に気づいたのか、メイドさんは一つ頷いて話を続けた。


「これ以上の被害は出せないと、ノーポールの魔女と呼ばれた女性が封魔の人柱となったのです。その後、終末の地以外に魔のものは現れなくなりました」


 そうだ、封魔の人柱。王妃だというその人が、魔のものを封じるために犠牲となったんだっけ。


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