19 元の世界に未練のない者たち
とりあえず共通点は見つかった。これを見つかったと言っていいものか分からないけれど。
真楯くんは中学生の時にご両親が亡くなっていて、施設育ちの天涯孤独だそうだ。
とおくんの家は離婚していて、お父さんはバツ三で、離婚するたびに泥沼を作り出してしまう厄介な性分らしい。それにも懲りず、もうすぐ再婚するそう。
はるくんは両親そろってるけど、両親ともに仕事に忙しく、実質おばあちゃんに育てられたのだという。とおくんもはるくんも、高校から寮暮らししてるんだとか。
輪音ちゃんのところは両親ともに愛人さんがいるようで、二人とも家には寄りつかず、実質小学校の頃から輪音ちゃんは一人で暮らしているらしい。
嬉世ちゃんの家はお祖父さんの愛人さん、お父さんの愛人さんも同じ敷地内の別の家に暮らしているようで、二世代に渡って複数家庭が同じ敷地の中で暮らしているそうだ。
ちなみに私も両親が離婚していて、もうすぐ母親が再婚する。
今どき両親が離婚してるとか死別してるとか珍しくないけれど、見た目だけでは分からない悩みや闇っていうのがあるんだな、としみじみ感じる濃い話し合いだった。
みんな吹っ切れているのか、それとも傷つくことに慣れてしまっているのか、何でもないことのように明るく話すから、それほど重い雰囲気にはならなかった。
誰もが、家族との絆が希薄だった。
少なくとも、家族の存在があちらの世界に留まらせる理由にならない程度には。
そう考えると、二人一緒に召喚されたとおくんとはるくん、輪音ちゃんと嬉世ちゃんは、多分お互いの存在だけが、元の世界での唯一の強い絆なんじゃないかと思ったりする。だから一緒に召喚された。
この仮定にのっとると、必然的に真楯くんと私は元の世界に何の思い入れもない、孤独な人ってことになるんだけど。神様直々のぼっち認定とか、悲しみしかない。
「家族との絆が薄くて、それ以外の強い関わりがない人っていうのが共通点ってこと?」
輪音ちゃんの言葉に、一同は沈黙する。
私はぼっちであることは否定しないけど、少なくとも真楯くんはどう見ても社交的なタイプだし、現役高校生たちは学校でも人気者っぽく見える。
「本人の意思の部分が大きいのかもしれないな。どれだけ友人知人がいようと、本人がそのつながりを求めていなければ、あってないようなもんだろ? だから、まぁ、これは俺のケースで、全員にあてはまるわけじゃないと思うけど、最近もう生きてんのしんどいわって、思ってなかった?」
仮説としながらも、それが正解だと確信しているように言う真楯くんの言葉に、すとんとこれまでの絡み合ってた疑問がほどけたような気がした。
——ああ、うん、分かる。
みんなの様子をじっと眺めた真楯くんが、ふっと笑った。
「やっぱなー。だって誰一人帰りたがらないとか、変だもんなぁ。あ、おねーさんは帰りたがってたけど、でも無理って言われたらすんなり残ったし。——まぁ、そんな気してたんだよなぁ」
うーんと伸びをして、真楯くんが両腕をソファの背に乗せて天を仰いだ。
「命かけて他の世界救うとか、ほんとに人間できたヤツか狂ってるか、死ぬのをなんとも思ってないやけっぱちな人間しか引き受けねーよな」
神託の通り、五人の救世主たちがこの世界を救うために残ることを、神様は知っていたのかもしれない。
なんの縁もゆかりもない世界を救うために身を賭して戦うことを。
それが、信仰でも正義でも憐憫でもなく、ただどうなってもいいという自暴自棄な思いからであっても、神様にとっては五人の救世主が現れたこと、神託通りになったことこそが重要だったのかもしれない。
元の世界に未練のない人間の方が、確かに扱いやすそうだ。
「私たちって、利用されるために喚ばれたのかな」
暗い表情をして輪音ちゃんが不安そうに言う。
だよね、頭の中にこっちの世界のあれこれ入れられて、センシティブな身の上赤裸々にされて、それが全部神様の掌の上で転がされてるって、冗談じゃないと思う。
「でもまぁ、嫌になったらあっちの世界に帰ればいいじゃん」
「その言い方だと、投げ出すみたいに聞こえる」
「だって俺ら、こっちに逃げにきたようなもんだろ」
からかうような声で言った真楯くんの指摘に、輪音ちゃんがきゅっと唇を引き結んだ。
元の世界に帰らない、それを逃げと捉えるのかは賛否が分かれると思う。
思いつきもしなかったけれど、救世主たちの中には、元の世界に戻りたくないからこの世界にいることを選んだパターンも、もしかしたらあるのかもしれない。
そうか、そういう考えもあるか。いやそれでもすごくない? 元の世界に戻りたくないからって、命懸けて世界救おうとするとか、背負うもの大きすぎない?
この世界に残ることを決めた君たちはやっぱりすごいよ、と命を懸けるわけでもないおまけの私が口を出す場面でもない気がして、開きかけた口を閉じた。
「逃げて、流されて、でも何となく自分のやりたいことが見つかりそうな気がしてる。少なくとも、俺はな」
「う、ん。分かるような気がする」
「なら、これは利用されたんじゃなくて、チャンスだ」
だろ? とソファに深く座りながら、真楯くんは続ける。
「もしかしたら、こっちで考えも変わるかもしんないじゃん。他人と過去は変えられないけど、自分と未来は変えられるって、どっかの偉い先生も言ってたし」
「世界救ってそれで自分も救えたら、利用されたとかじゃなくて、どっちにとっても好都合ってことだもんね」
「情けは人のためならず、ですね」
「そーそー」
希望を口にする真楯くんは、清々しささえ感じさせる。その言葉の明るさに、不安そうな色を残していたみんなの表情が緩んでいく。
この世界に喚ばれたことで、きっと何かは変わる。良い方向に変えていくのだって、これからいくらでもできる。一人の希望が、みんなの希望の光を灯していくように。
そうして私たちの午前の時間は終わりを告げ、午後は各自騎士団での訓練に向かった。
輪音ちゃんは無事に第四騎士団から第六騎士団へと異動が決まった。
第四騎士団は戦闘特化チームだったようで、主に後方支援担当の第六騎士団で防御の技術を磨くことになったのだ。
午後の訓練に向かうみんなの表情はどこか晴れやかで、新しい希望を見つけたように輝いていた。それを眩しく思いながら見送った。
私にも、何か見つかるだろうか。生きることにちゃんと、向き合えるだろうか。




