16 召喚者の共通点
しかし私はふと思い出した。そうだ、あれがあるじゃないか! むしろあれがヒントなんじゃないか!
「ね、あれは? 神託、だっけ? 言い伝えみたいなのがあるんだよね?」
重い話は終わりとばかりに紅茶とお菓子で一息吐いているところ申し訳ないけど、ここで引き下がるわけにはいかない。せめて何か一つでも希望が欲しい。
「ああ、こないだユエジンさんが言ってたやつ? この世界には古くから言い伝えられている神託があって、終末の唄って呼ばれてる」
もう話すの疲れた、とだらける真楯くんに代わって、はるくんが説明してくれる。
「そうそう、それ! 神託が終末の唄ってこと? でももう奏でられたのか、とかなんとか言ってなかったっけ?」
「そう、奏でるってのは、この神託が公にされることかな。どのタイミングかは分からないけど、神託が世界中に流布されるんだ。それが終焉の始まりってことになる。神託ってのはほんのわずかな行でつくられた、あ~、詩? に近いもんかな」
そう苦笑すると、はるくんは雰囲気を出すためか、一度咳払いした。
「『終末の唄が歌われる時
この世界に終焉訪れん
終焉の地は終末の地
魔のものこのときをもって力をふるい
世界は魔のもの蔓延り破滅を迎えん
世界に終焉訪れしとき
異世界より五人の救世主来たりて
この世界に安寧もたらさん』
って感じ。古語の意訳だから、ちょっと違うかもだけど、大体こんな内容」
「へぇ~。ほんとに伝説の救世主なんだねぇ。ユエジンさんが、救世主たちが武具を選ぶのも神託にあったって言ってたけど、それは?」
「『異世界の救世主
その身に応じて力を授けん
石の導き
ついには魔のものに打ち勝たん』
っていうやつだね。武具っていうより、石が重要みたい。訳し方によっては、石ではなく意思、つまり大いなる神の意思が絡んでるっていう解釈もあるみたいだよ」
とおくんが継いで説明してくれる。穏やかで優しい声は、小学校の先生っぽい。
「神託は、それで全部?」
「そう。だからきっと、この石、もしくは神の意思に導かれるんだと思うけど」
最後は自信なさげに言って、とおくんはソファの後ろに立てかけていた弓矢を見やった。その石は淡く黄色に煌めいている。
石に意思、ダジャレじゃないんだから、と思いつつ、これまでの経緯を見ると、この世界の神様ならやりかねないかもとも思う。
そう思わせるだけの実績をわずか二日で積み上げるこちらの神の所業が恐ろしいくらいだ。
「ねぇ、そもそも私たちってどういう基準で選ばれたのかな?」
軽い感じで問題を投げたのは、輪音ちゃんだ。
肩のラインをふんわりと覆うパフスリーブのワンピースは、華奢な輪音ちゃんが着るとさらに可憐に見えるという、絶妙に着る人を選ぶ服でもある。
ふんわりした袖から伸びるほっそりした白い腕たるや! 触れてはないけど絶対にあの二の腕は柔らかい!
はぁ、本日も完璧な着こなし。私の目に可愛いという栄養素を与えてくれてありがとう。
「基準?」
「うん。たまたま私たちあの場所にいただけじゃない? そういう偶然で選んだのかな? それとも、他に理由があるのかなぁ?」
真楯くんが反芻した言葉に輪音ちゃんが言葉を重ねると、とおくんも身を乗り出して会話に加わった。
「それ、僕も思ってた。あの日はたまたまあの道を通ってただけなんだ。いつも行く塾が設備点検で使えなくて、自習だけでもって同じ系列の校舎に行ってた帰りで。な、はる」
「ああ。あの日は本当に偶然あの道を通った。そもそも設備点検も、急にその日塾の入ってるビルの配管が壊れたからっていう突発的なものだったし」
不思議な力が働いているのでは、という思いを、誰もが抱いたんだと思う。
「あの、私と嬉世ちゃんもね、あの道普段は通らないの」
そうだろうな。あの道を毎日のように通る私には分かる。あの道は、普段全くといっていいほど人通りがない。
「というかね、実のところ、私たち迷ってたの」
え? 迷ってたの?
思わず輪音ちゃんを凝視すると、輪音ちゃんは恥ずかしそうに横に座る嬉世ちゃんを見上げた。
「そうなんです。私たち、あの日は習い事の帰りだったんですけど、あの日はたまたま渋滞だったみたいで迎えの車が来るのが遅れていて。そしたらコンビニに行ってみたいって、輪音が言ったので、近くのコンビニに寄ったんです。行ってみたのはいいんですけど、どういうわけか大通りにも出られなくなっちゃって、あの道に迷い込んだところだったんです」
「ね。20分くらい歩いたかなぁ」
コンビニは大通りに何店舗かある。どの店舗も立地としては分かりやすいから、そこから迷うということはちょっと考えにくい。
うーん。これは人知を越えた何らかの作為を感じるなぁ。
ちらりとみんなの視線が真楯くんに集中する。心得たように、真楯くんが話し始めた。
「俺はあの日バイト帰りだったんだけど、当日急に勤務先が変更になった。近くの店舗でバイトに欠員出たからって。ヘルプ自体はイレギュラーなわけじゃないけど、呼ばれた店舗って一人くらい欠員出ても全然回るとこで、案の定ヘルプ呼ばれてもやることなくて早上がりしたとこだったんだよな。だからあの日は、いつも通る道じゃない上に、いつもより早い時間だった」
いよいよもって何らかの意図を感じる。
やっぱりこの世界の神様がちょちょいっと手を加えたのかな、みんながあの通りに集まるように。
でも、なんであの時間あの場所だったんだろう。他にもこの五人が集まれそうな場所ありそうなものなのに。
「おねーさんは? どうしてあの場所にいたの?」
「私はあの道、通勤路なんだ。いっつも大体あの時間にあの道通ってるの。だから私にとっては、いつもと何ら変わらない行動だったんだよね。ちなみに毎日同じくらいの時間にあの道を通る私からしたら、あそこはほんとに人通りなくて、滅多に人とすれ違わないんだよ」
「ってことは、おねーさん以外はあの日あの場所に呼ばれたってことか。明らかにおかしいもんな」
「じゃあいつも通りの行動とってたおねーさんは、やっぱり巻き込まれたってこと?」
「だな」
はるくんと輪音ちゃんの推論に真楯くんが神妙に頷いて同意を示すと、みんなの視線が私に集中した。輪音ちゃんと嬉世ちゃんなんて見るからに悲愴感漂ってる。
「だ、大丈夫だよ。そんなことだろうなっていうのは最初っから分かってたから」
二人の背中を撫でて慰めていると、それまで口を閉ざしていたとおくんがふと呟いた。
「それか、おねーさんが本当の目的だったのかも」
いきなりみんなの視線を受けたものだから、とおくんは慌てて言葉を足した。
「いや、ちょっと思いつき。たださ、全部できすぎじゃない? 神託とか、召喚とか、全部お膳立てされすぎじゃない? って思うの、僕だけ?」
最初は勢いよく、徐々に自信をなくしたのか小声になるとおくんの言葉を、流せたのは私だけだったようで、真楯くんもはるくんもじっと考え込んでいる。
「できすぎって言ったらそうなのかもしれないけど、異世界召喚ってそういうものじゃないの? 異世界人だからできることを求めてるんでしょ? きっとあの石の主になれるのって、異世界人じゃないとダメなんだよ。どういう理由であなたたちが喚ばれたのかは分からないけど、少なくとも石に選ばれたんだから、間違ってなかったんだと思う」
何かにせき立てられるかのように、私はつたない言葉をつなぎ合わせてまとめた考えを、口に出す。
「それに、救世主はいつでも元の世界に帰れるって言ってたでしょ? この世界が信用できないって思ったら帰るのもありだよ」
「そ、そんなことできません。だって魔のものを倒せるのは、異世界からの救世主だけです。私たちが見捨ててしまったら、この世界は魔のものに滅ぼされてしまう」
「あのね、私たち、救世主たちが帰ったらこの世界がどうなるか知ってるの」
新たな事実発覚。なんてものを頭に仕込んでくれるんだ、異世界の神様。
「え、大丈夫なの、それ。夜中にトイレ行けなくならない? いつでも起こしていいからね」
「う、うん、ありがとう。大丈夫だよ。おねーさん、優しいね」
「意識しなければ忘れてるくらいなので、大丈夫です」
妖精姫たちの健気さに感動しているところで、とおくんが言った。
「じゃあ、別の方向から考えてみよう。僕たちに他に共通点はないか」




