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14 救世主たちによる異世界講座


 翌朝も、メイドさんたちの手腕は見事だった。


 まず、リビングにピアノが登場した。異世界のピアノらしく、見た目は少し違うけれど、鍵盤があってペダルもある。音色もほぼピアノだ。

 メイドさんたちは「リュージーネリア」と呼んでいた。


 これに喜んだのは、もちろん嬉世きよちゃんだ。しかし、なぜ急にピアノが……うん、これもきっと大いなる神の思し召しだろう。


 さらに、メイドさんたちの素晴らしいテクニックによって、妖精二人は妖精姫へと進化した。


 昨日までは衣装だけだったけど、今日は髪の毛まで手を加えられている。輪音もとねちゃんは緩くカールした毛先を生かしつつ、訓練時に邪魔にならないようまとめられていた。

 動くたびにフワフワ揺れる毛先に視線が釘付けになる。


 嬉世きよちゃんはストレートの黒髪の美しさを引き立て、かつ横髪が視界を塞ぐことのないように、サイドだけ三つ編みした髪を後ろにまとめている。

 清楚で理知的な横顔に、編み込まれたサイドの髪が華やかさを生んで、胸のときめきが抑えられない。


 メイドさんっ!! どこにいますかメイドさんっ!


 心の中で叫びながらこの素晴らしい仕事をしたとおぼしきメイドさんを探す。いたっ!


 あなた方は素晴らしい仕事をした!! あっぱれ!!


 最大級の賛辞を視線に乗せて送ると、メイドさんが一つ深く頷いてくれた。うん、伝わったみたい。


「おまけさまのお支度もさせていただいてよろしいですか?」


 さりげなく近づいてきたメイドさんがそうお伺いを立ててくるけど、妖精の後に私では申し訳ない。救世主でもないおまけだし、取り立てて誰かに会うわけでも訓練に参加するわけでもないので、自分でできるとお断りしておいた。


 妖精姫二人と優雅な朝食をとり、食後のお茶を堪能している時だった。


 がやがやと部屋の外に気配がしたかと思うと、おもむろにノックが三回。返事を待たずに救世主男性陣一行がおなりになった。


「はよー。ごめんねぇ、昨日来ようと思ってたんだけどさぁ、もうつっかれちゃって!」

「おはよー。あー眠い、だるい、もうちょっと寝てたい」

「とお、お前また悪いくせ出てるぞ。おはよう。朝からごめん、とおは基本的に思ったことすぐ口に出すから」


 真楯またてくんは安定の軽さ、とおくんは緊張が薄れてきたのか、素が出ている。はるくんも真楯またてくん同様、世話焼き属性のようだ。

 意外にとおくんが振り回す系なのかもしれない、なんて考察しながら、三人が勝手知ったる様子で入室してくるのを眺めた。


「いやー、剣なんて持ったことないから、もう筋肉痛で痛いのなんのって」


 ソファにどっかりと身を沈める真楯またてくんは、まだ疲れが取れていないご様子。すかさず嬉世きよちゃんが癒やしの力を使う。


「あー、この力、ほんと便利だな。ありがと、元気になったわ」


 さっきまでは腕を動かすのも億劫そうだったのに、今ではぶんぶん両腕を振り回している。元気になって何よりだ。


「なんかみんな、装いが救世主っぽいね」


 ソファにくつろぐみんなを眺めていると、思わずそんな感想が出てきた。

 ん? とみんなの視線が集まってくる。いやいや、自覚ないのかい。


「だって装備がさ……。きみたちの武具って、そんなだったっけ? 昨日見たときよりもキラキラが増してる気がするんだけど。それに服もさ、まぁ妖精姫たちは言わずもがなようやく装いが追いついてきたって感じだけど、きみたちもなかなかレベルが上がってやしませんか」


 私の指摘に、みんなそれぞれの武具や装いを眺めている。でも、思ったほどの反応が返ってこない。

 これはあれか、私の目には異世界風の装いがコスプレっぽくて新鮮に映っているからなのか。


「まぁ、おねーさんのお眼鏡にかなったのなら良かったよ」

「何だか心がこもっていませんが」

「うん。妖精姫って単語出たあたりからちょっと距離置こうと思った」

「ぅ、声に出してたとは、不覚」


 わぁ、恥ずかしい。これは恥ずかしいぞ、速やかに話題を終わらせよう。

 ささっと周囲に視線を送ると、高校生たちはそれぞれ会話を楽しんでいる最中だった。そこに青春の煌めきを見てしまい、無駄に胸をきゅんとさせてしまった。


 さしずめ妖精姫とその護衛騎士ってところだろう。うん、素晴らしい。私にときめきをありがとう。


 感謝を捧げていると、真楯またてくんがソファから身を起こして言った。


「そういや、今日の訓練は午後からなんだって。さっきライエゾールさんが言いに来た。だからこっちに来たわけだけど、やっぱ同郷のやつらといると落ち着くわぁ」


 起き上がったのも一瞬で、またしてもソファに沈み込んでいった。くつろぎすぎではないだろうか。午後まではこんな感じで過ごすのなら、ここで聞きたかったことをはっきりさせておくのもいいかもしれない。


「あのさ、私、みんなが持ってるっていう情報がないじゃない? だから召喚された目的とかもよく分かってなくて、良ければ教えてもらいたいんだけど」


 これまでユエジンさんや殿下との会話で何となくは察したけど、詳しい内容については全く分かっていない。

 このまま戦いとやらが終わるのを待てばいいのかもしれないけれど、一人だけ蚊帳の外も寂しい。


「ああそっか、そうだよな。えーっと、じゃあまずは俺が分かる範囲で話していい? 補足あったらその都度言ってもらえると助かる。俺も全部知ってるわけじゃないし、話すうちに漏れが出てくると思うから」


 そう真楯またてくんが前置きして話し出した内容は、こうだった。


 この異世界はルヴェルシュベインと呼ばれる世界で、一国のみで成り立っている。中には小さな島や未踏の地もあるけれど、基本的にこの世界の覇権はルヴェルシュベインが握っているようだ。


 そしてルヴェルシュベインでは、大いなる神と呼ばれるイヴェリーンを祀っている。

 

 かつてこの世界は荒れた土地に淀んだ空気の、とても生き物が住めるような土地ではなかった。大いなる神イヴェリーンがこの世界に降臨する以前、この地には創世神ゴリムレラが創った生き物であふれていた。しかしゴリムレラは生き物を創るだけ創ってこの世界を去った。


 その後大いなる神イヴェリーンがこの地を人が暮らすに適した土地になるよう、その大いなる力を行使してあるシステムを作り上げた。人としての営みをこの世界にもたらしたのだ。


 世界に平和と秩序をもたらすそのシステムは今も生き続け、この世界に住む生き物はそれらの恩恵を受けて生活している。


 しかし神がもたらしたのは、恩恵だけではなかった。


 どういう理によるものか、この世界には「魔のもの」と呼ばれるものが、周期的に発生する。


 魔のものはその存在さえ不可解で、見た目こそ霧のようなものだが、人がそれに触れると身体が腐り落ちてしまったり、身体中の水分をそれこそ血に至るまで吐き続けたり、全身火傷のような熱傷を負って呼吸もままならなくなったり、とにかくありとあらゆる苦しみを負う。


 そうなると、首を断つまでその苦しみからは逃れられない。


 その一方で、魔のものに触れても何の影響も受けない者も、ごく少数だが存在する。しかし、そうした者は魔のものに好かれやすく、身体に取り込むと魔のものの温床になってしまい、内側から食い破られてしまうという。


「魔のもの、こわっ!!」

「うん、映像ないからおねーさんは想像でしかないだろうけど、かなりエグいよ」


 視線を逸らしながら真楯またてくんがぼやく。映像、あるんだ。


「え、私にはそんな映像ないよ?」

「私もです」

 

 輪音もとねちゃんと嬉世きよちゃんの発言を受けて残りの二人に確認すると、とおくんとはるくんにはバッチリ映像があるらしい。これはどういう配慮なのだろうか。戦闘要員と非戦闘要員の違いだろうか。


「あれか、映画とかの年齢制限か。残酷描写ってことで引っかかったのか」

「この世界の神様、そんなルール知ってるの?」


 大いなる意思の親日っぷりが謎な方向に向かっている気がしてならない。でもまぁ、そういうことにしておこう。


「魔のものは基本黒い霧って表現されるけど、実際は黒くない場合もあって、周囲の空気が重くなるのが特徴だって言われてる」

「そもそも魔のものって何なの?」

「うーん、呪いだとか瘴気だとか魔元素だとかって説があるけど、どれも仮説に過ぎないみたいだ。誰か分かるやついる?」


 真楯またてくんの情報ではこれ以上魔のものについての情報はないんだろう、周りを見回すと、嬉世きよちゃんが顔を上げた。


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