プロローグ
おまけ、という言葉に胸躍ったのは子どもの頃までだったなぁとしみじみ思う。
「おまけさま、お食事をお持ちしました」
子どもの頃、おまけは魅惑の存在だった。
「はい、おまけ」と手渡される飴やガムの駄菓子、小さな雑貨、ちゃちな作りのおもちゃ。大人にとっては取るに足らないその存在が、子どもの頃の思い出の中でキラキラ輝いている。心躍る興奮とともに。
なんて。
ノスタルジーな雰囲気漂わせて全方位肯定的なおまけ語りをしたくなるくらい、今の自分の立場に戸惑いを隠せないでいる。なぜ突拍子もなくおまけについて語り出したかというと。
「おまけさま、冷めないうちにお召し上がりくださいませ」
何を隠そう今現在、私がおまけと呼ばれているからなのである。
何という身も蓋もないネーミング。いくら私が地味で目立たない、取るに足らない存在だからといって、あんまりな名付けである。
確かに私は平々凡々だ。
例えば、目の前の緑髪碧眼、お仕着せの女官服を見事に着こなす、女官であり神官でもあるアマヴェンナさんよりはるかに、色味も顔の凹凸も、もっといえば体の凹凸も、何なら仕草や言葉遣いや教養の部分でも、悲しいかな負けている。
ちなみにアマヴェンナさんが着ている女官服、濃緑のロング丈のワンピースの真ん中に、金糸で二本の縦ラインが入った、シンプルながらもセンスが光る代物である。
しかし同じ服を私が着たところでこうは着こなせない。素材の違いだ。
むしろアマヴェンナさんの才媛ぶりが突き抜けているんだと思いたい。
いやまぁ、この名付けに関しては私がうっかり「おまけ」なんて言葉を出したのがいけなかったのだけれど。
「本日のメインはレハラント・キーナイのプリコット煮込みでございます」
思考の波に漂う私に構わず、アマヴェンナさんはさぁさぁと甲斐甲斐しく私の首にナプキンをつけ、ナイフとフォークを握らせる。
異国情緒感満載のネーミングにも、もうすっかり慣れてしまった。
地球でも、どこかの国に行けばこんな料理が出てきそうって、期待を込めたことだってある。
でも、地球ではどこの国に行ってもこんな名前の食材にはお目にかかれないだろうと、一度も日本を出たことのない私でも断言できる。
なぜって?
ここまでかなり匂わせてきたので、すでにお気づきだろう。そう、何を隠そうここは異世界。
ちなみにレハラント・キーナイは鴨に似た鳥のことで、プリコットとはトマトのような野菜だ。——味が。
まさかレハラント・キーナイが頭は鳥、身体が虎みたいな生物で、プリコットが動く木だとは思わなかった。異世界、鳥と野菜の定義が雑すぎる。
実物を知るまではあまりのおいしさにおかわり所望して、以降私のお気に入りメニューとして週に一度は提供されるようになってしまった。
ああ、アマヴェンナさんのホスピタリティの高さよ。
ちらりとアマヴェンナさんに視線を向けると、日本では滅多にお目にかかれない異次元レベルの美女の控えめな笑みに、いつものように動悸と興奮がわきあがってくる。
うーん、眼福。
食材は確かに得体が知れないけれど、味はおいしいし、自分でさばくわけじゃないし、側で上げ膳据え膳してくれるアマヴェンナさんは優しくて美しいし、日本にいた頃では考えられない境遇である。
むしろ日本に帰ってから一人暮らしができるのか不安に思うくらい。どっぷりと頭の先まで異世界暮らしに馴染んでしまっている自分の未来が恐ろしい。
大丈夫、きっと日本に戻っても一人でやっていける、はず。——え、大丈夫よね、私?
さて、どうして私がおまけと呼ばれているのか。日本で生まれ育ったはずなのに異世界にいるのか。
それは、三ヶ月前に遡る——。




