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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第一章 五百年後の世界に生きる者達
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六.親友と再会

 帰ったユリウスを捜すことにした。すると、ユリウスの気配を感じとっていた白銀の人(偽アデルと呼ぼう)がそのまま私を誘導した。

 

 されるがまま向かったのは、一階にあるバーだった。古くなって掃除もしていなかったと思ったそこは、綺麗に片付けられて、バーとして機能していた。

 ただ、時間がまだ明るいのでバーというよりレストランのよう。ジェイクの仲間らしき人間達が数名、食事をとっていた。だが、ヴァンパイアの方は、食事をとってもそれで満腹はしない。


 「ここに、彼がいるの?」


 ランチの時間に意外だ、と思って尋ねると、偽アデルは微かに笑う。


 「ああ。奴は人間食を好む。…知らなかったの?」


 当たり前のことのように言われ、ムッとした。


 「それくらい知っているわっ。食事というよりデザートが好きなんだよ、彼は!スイーツ類にハマっていたから」


 ムキになって答えると、偽アデルが呆れたような溜息をつく。


 「ふ〜ん、スイーツねぇ。ああ、そういえば、よく見ていると奴はいつも食後に甘いものを食べていたな。僕では考えられないような、幼子や女が好きそうな甘ったるいものを」


 思い出したのか、どうでもいいのか、適当に相槌を打ちそのとき見た事を明確に告げた。それはまるで自分の方が知っているかのような、誇示づけるような感じがして、ますます気に喰わなかった。


 「そ、そんなの私だって知っている…!それよりも、ユリウスがいる場所ってどこに?この中から捜してすぐに…」


 話を先に進めようとして、ふと、私の視線が右斜め前のカウンターに向いた。

 こちらに背を向けて、一人で席に腰掛けている男性。耳元辺りで切った紺色の髪に、左側の一房が白色になった、変わった髪型をしている。

 その髪型に、ハッとした。


 「見つけたんだね。そう…あそこにいるのが、ユリウスだよ」


 偽アデルが横に立ち、そっと私の耳元で囁いた。

 ドキッと心臓が鳴り、緊張に喉が渇き、全身固まる。


 「あ、あれが……」


 間違いない。

 五百年前も、あんなような髪型をしていた。

 白くなったあの一房は、アデルが彼を血族に招き入れた時に変わったのだ。


 「どうしたの、カノン。行かないの?」


 近づこうとしない私に、偽アデルが不思議そうに横から声をかける。


 「わ、わかってる。でも…っ」


 いざ、近づこうと足を動かすも、その一歩が上手く踏み出せない。


 どうしたら…。


 本気で困ってその場で棒立ちする私に、偽アデルがプッと笑った。


 「ちょっ…!あんたねぇっ」


 失礼な!とそちらに顔を向けると、偽アデルが肩を震わせ笑いを押し殺していた。


 「そんな緊張するんだ?くっく…変な女だね。君が自分でユリウスに会いたいって言って急かしたのに、いざ、本人を目の前にして近寄れないなんて…!」


 そう言って、押し殺していた笑いが段々と大きくなった。その笑い声に近くで食事をしていた者がこちらを驚いたように見つめている。中には偽アデルを、変なものを見ているような顔で見つめていた。


 「……やはり、あなたでしたか」


 そのとき、聞き覚えのある呆れたような声が、近くで聞こえた。


 「えっ?」


 私は驚き、ハッとしてそちらに顔を向けた。すると、目の前にいつの間にか、ユリウスがいた。


 今まであのカウンター席に座っていたのに…。


 昔と変わらず青紫の冷めた目が偽アデルに向けられていた。


 「あ…?あれ?ユリウスじゃない!帰ってたんだ」


 笑い声を上げていた偽アデルが、目の前に立ったユリウスを見て、ピタリと笑いを止めて、わざとらしく彼に向かってそう答えた。


 「ジェニファーから聞いていませんか?もう三十分前からここにいますよ」


 微かに眉間にシワを寄せて、不満そうにユリウスが告げた。

 偽アデルは小さく首を傾げて、「ヘェ〜、そうなんだ」とどうでも良さそうに返事をした。

 途端、ユリウスの額がぴくぴく動き、目尻が釣り上がる。


 「正確には、それよりも一時間も前に、帰還しましたがっ!あなた、どこで道草食っていたんですか?こっちはまだ奴の件が終わらず忙しいんですよ」


 答えたユリウスは苛々しているようだ。


 偽アデルの態度がそうさせているみたいだが、私が知っているユリウスと雰囲気が変わっている。

 彼は何事にも冷静で、一時間だろうが二時間だろうが、時間に遅れても滅多に怒った顔を見せなかった。というか、時間が経ってもぼーとしていたな。


 「あ、あのアデル…様ぁっ!私も少し、話に入れてくれませか!」


 このまま、二人だけで話をされていたら、一向にユリウスと会話ができない。無理矢理だが、偽アデルの腕に自分の腕を絡め体を密着させて、ユリウスの視界に私が入るようにした。すると、ユリウスではなく、偽アデルの方が驚いたようにポカンと私を見つめた。


 「あ、アデル様?どうされました?私も仲間に入れてほしいわぁ」


 にっこり、とはいかないが、にぃとぎこちない笑みを浮かべる。

 偽アデルはハッとしたように我に返って、いきなり顔を逸らし何事か呟いた。それは耳に聞こえず、私が聞き返そうとした時、ざわりと全身に鳥肌が立った。

 バッ!と思わず勢いよく、ユリウスの方を振り向くと、彼の顔がこれ以上とないほど怒りに歪んでいた。


 「…っ!?」


 怒らせた?今ので…?

 えっ!?どこで!!


 「…アデル様。あなた、またそのような幼い娘を拐かしたんですか!?」


 アデルと聞いて、私ではない事に、ほっとした。だが、その束の間、ユリウスが偽アデルに掴む私の額に、人差し指と中指を向けて、トン!と小さく触れた。

 途端、目の前が歪み、偽アデルに捕まっていた手が勝手に離れて、ふらふらした足取りで彼から三歩ほど離れた。

 今のは、ヴァンパイアの年長者が得意とする暗示の一種。少しの間、勝手に人を操る。


 「あっ、ちょっ!ユリウス!」


 それを使ったと気づいた偽アデルが、非難めいた声を上げた。


 「…今のは…」


 数歩先離れたところで、私はユリウスを見つめた。


 「こんなところで、はしたない真似をしないでください。ここにはハンターもいるんですよ?立場を弁えてください」

 

 だが、彼は私を見てはいなかった。偽アデルに抗議している。


 「ユリウス、相変わらず融通効かないねぇ。彼女はそんなんじゃないって!」


 「なら、ここに人間の、それも若い娘を連れて来ないで下さい。遊び半分でいられたら困ります」


 訳がわからない。二人は私をそっちのけで口論する。


 「だいだいこの私が、汗水垂らしてあなたの命で動き回っているというのに、本人は、この有様ですか?私の苦労ももう少し考えていただきたい」


 それは次第に、ユリウスの説教に変わる。

 

 偽アデルは前にも同じようなことをしたのだろうか?


 それより、ユリウスの口振りからして、この男はやはり、根っからの女誑しだ!

 アデルの名が廃る!!


 「コレだからあなたから離れるのが嫌なんですよ。誰も反論できないからと、自分のやりたい放題で…」


 ユリウスの説教はまだ続くようだ。偽アデルがだんだんと不機嫌になっていく。


 「そもそもこの会合?ですか、これもあまりいい気になりません」


 そこまで彼が話した時、それが周りにいたジェイクの仲間達に聞こえたようだ。近くで食事を取る彼らが、こちらをすごい目で見つめていた。


 これは、やばくないか?


 不穏な空気が流れている。それに気づかないのか、彼の口は止まらなかった。


 「ね、ねぇ!アデル様!」


 そこで、私が咄嗟に彼等の間に入る。一度私を離したのだが、再び目の前に現れたことで、ユリウスが眉を寄せた。


 「あなた…またですか?」


 邪魔だ、とあからさまな冷たい態度に腰が引けたが、ここは見過ごせない。


 「私、あなたの言う人間で小娘ですが、でも、ここでその話をするのはアデル様の顔に泥を塗るようなものですよ、ユリウス様」


 これはユリウスのためでもある。ジェイクの仲間達にこれ以上不快感を与えて、彼等に嫌われるのも、ユリウスを知る私的にはとても見過ごせない。


 彼はそんな人じゃないから。


 「なんなんですか急に。ああ、あなたも彼等の仲間か」


 周りをチラッと見て、ユリウスが小さく鼻で笑った。

 ムッと正直、腹が立ったが、同時に悲しくなった。


 「ユリウス様。私は、この会合で会うのは初めてです。ですが、あなたとは初対面ではないのですよ?あなたはお忘れかもしれませんが…昔、あなたに助けられた事があります」


 「私が、助けた?あなたを?」


 私は自分がアデルではないと、ユリウスに拒絶された時のことを考えて、もう一つの作戦を立てていた。

 軽く目を見張り驚く彼が、この話に乗ってきたのを見て、ニヤッと笑う。


 「ええ。私はその時古い友人と絶交されて落ち込んでいたんです。そこをつけ込む悪い人に捕まっていた所をあなたが現れ、あなたの言葉で救われた。そのとき、私は誓いました。今度は絶対、間違えないようにしようと…」


 そう昔話のように語り、意味ありげに微笑んでみせた。すると、ユリウスの表情が変わり、偽アデルに確かめるように視線を送る。しかし、偽アデルは私のこの話を知らない。ただ私がどう出るのか、少し様子を見ようと、首を振って私の話を聞くように視線で促した。


 「人間の娘を助けたことは多々ありますが、あなたのことは覚えておりません」


 キッパリと答えた彼に、傷ついた私は少し悲しげな表情を見せた。だが、すぐに彼に真剣な顔を向ける。


 「…ええ、よくわかります。あなたが、助けた人間のことなどいちいち覚えていないと…。でも、私はあなたに感じたこの恩をどうしても返したいのです。それで私はあなたが以前、人間の食事、特にスイーツなどの甘いものが好きなのだと小耳にはさみました。そこで私はあなた好みのスイーツを作れるように練習して、それをあなたに食べてもらおうと思いました」


 つまり、ユリウスが大の甘党でデザート、特にスイーツ類が好きだと思い出した時、彼好みのスイーツを作って胃袋を掴めば、多少なんとか私のことを前世でも作ったように、ユリウスに私こそが本物のアデルなのだと思い出してもらおうと考えたのだ。


 これは奥の手だったが…。


 すると、ユリウスの表情がまた変わった。スイーツ作りと聞いて、少し顔が緩んだ気がした。



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