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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第一章 五百年後の世界に生きる者達
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四.偽の王様

 薔薇の庭園は彼にとっての安らぎ。 

 

 薔薇を刺繍したハンカチは、特にお気に入りだ。


 濃厚さには鼻が曲がるが、少しの匂いつきならさらに好感度が増す。


 赤が好きで、レオルドの赤い髪も好きだった。でも、決まりがある。スノウが私と違い、血族長として、レオルドを追放したのはしょうがない。


 彼はそれから、西の魔術師サイファーの元についた。


 サイファーはヴァンパイアと友好関係だったが、その強大な魔力で我々を支配しようと目論んでいたのだ。

 ユリウスはその犠牲者だ。幼馴染と呼べるレオルドを失った後に会ったユリウスは心の支えになった。


 …女なら、ユリウスに惚れていただろう。


 冗談で言った時のユリウスの顔は見ものだった。

 

 あれは、ドキ!とした。私にそういう趣味はなかったが…。

 

 だって、いつも冷静沈着なあの男が、思春期の子供のように真っ赤になって照れたから。


 今で言うならギャップ萌え、だ。何故、今更そんな事を思い出したのか…。

 真っ赤になって冗談を間に受けたユリウスが懐かしい。


 ………ん?


 懐かしい? 

 違う、これは…!


 そこで、ハッと私は目を覚ました。


 鼻をくすぐる薔薇の匂いがして、


 「大丈夫?」


 目の前にこちらを覗き込むように見る自分がいた。


 「わっ!?」


 驚いて、思わず飛び起きてしまった。

 ガツン!と覗き込んでいた自分とぶつかった。


 「うっ…!」


 ぶつけた額を抑え、涙目で同じように、いや額をこする自分自身を凝視した。


 「あんた、誰!?なんで私の…アデルの顔しているのっ?」


 ギロっと睨み、警戒する。私は死に、ここにいる。だから、アデルだっだ自分とそっくりな、目の前にいる男を見て動揺し警戒したのだ。


 「…面白い事を言う。僕の事を、知っているの?」


 返ってきた彼の返事は、困惑だけじゃない。少し好奇心を覗かせた弾んだ声。私がこの姿で自分自身を、いや、このそっくりな男と会うのは初めてだ。ハッと我に返り、返す言葉に詰まる。


 「…その反応。何か、秘密があるようだ。まぁ、それはいいけど、体調は?僕を見て倒れる人はよくいるけど、君はちょっと違ったから」


 ゆっくりと首を傾げ、問いかける彼の仕草に顔をしかめた。


 「その喋り方や仕草止めて。癇に障る。アデルの顔をして、気持ち悪いから止めて」


 自分と同じ顔で、気持ちが悪い。私は少なくとも、もっと大人らしく上品な態度だった。


 「…!は、ははっ。君、レオの回し者?いや、ユリウスかな?彼も同じ事言っていたよ」


 「ユリウス!?れ、レオって…!あなた、本当に…」


 プッと可笑しそうに吹き出し、私の知人達の名前を親しげに呼ぶ。


 「それはどうでもいい。僕の質問に答えてない。体調は大丈夫かな?」


 不意に、その顔が目の前に迫り、ギョッとした。

 軽く赤くなっているだろう額にキスされた。


 「なっ…!?」


 慌てて押し退け、顔が赤くなるのを感じ、額をこすった。


 「今のは治療。ヴァンパイアには治癒能力があって、相手に分け与えることもできる」


 「し、知ってるわけよそんな事!」


 だからって、いきなり額にキスって…!


 「治療なのに、もしかして照れた?やっぱりユリウスだね。君の反応は彼とそっくりだ」


 こいつ…!


 思わずその顔を殴りたい衝動にかけられた。


 私が、今、見ていた昔の夢と同じように、目の前の彼もそんな反応をした。いや、私はもっとかっこ良く決めていただろうけど!

 

 とにかく、自分自身がそれも前世と同じ事を思ったこいつが気に喰わない。


 「ユリウスって馴れ馴れしく呼ぶな!私の体調もこの通り元気!それよりここはどこ!?私の知り合いはどこにいるの!?」


 そこまで言って周りに目を向ける。

 

 部屋は広いが、殺風景だ。高級そうな絨毯と、この広いベッド、後は卓だけ。


 「ここは、封鎖されている遊技場の一室。今は逸れヴァンパイアの溜まり場かな?君の仲間達もこの建物にいるよ」


 それを聞いて私はすぐにベッドから降りた。その瞬間、ふらっと足元がふらつく。そこを彼が横から支えた。


 「危ないな」


 なんて顔をしかめて注意されて、無言でその手を振り払う。


 「おい、どこに行くの!」


 ふらつく足取りで部屋の外に向かうと、後ろから彼が声を上げる。


 「仲間のとこよ!あんたと二人きりでいたくない!」


 拒絶を見せて強い口調で叫ぶ。

 すると、そのとき。


 ブワッ!と扉の方から殺気を感じた。


 びくり!と足を止める。


 「貧弱な小娘がっ、我ら主人を愚弄するか!」


 低い声がして、扉から殺気立った女性が現れる。


 さっき、会合のところにいた女ヴァンパイア!


 「ジェニファー。大丈夫。僕は気にしていないよ」


 後ろから彼の声がして、ジェニファーと呼ばれた前の女性がハッと我に返る。


 「アデル様ぁ!心配しました。急にいなくなるんですもの!」


 突然、甘えた声を出して、一瞬で私にそっくりの、白銀の元に駆けつけた。白銀の彼は、キョトンとして、小さく笑いかけて、ジェニファーと言われた女性の肩をポンポンと叩く。


 「ああ、ごめんジェニファー。彼女、この子が僕のせいで倒れたみたいだから、気になって様子を見に来ていたんだ」


 にこりと笑いかけると、ジェニファーは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにもじもじ。


 …うん?あれって間違いなく瞬殺したな。あんな笑顔、私なら向けない。


 ますます怒りが募る。彼のやり方はあの高貴な美しい彼を、陥れている。


 「ジェニファー、ユリウスは着いたの?」


 なかなか口を開かずにいるジェニファーに白銀の彼から問いかけた。彼女はハッと我に返り表情を引き締めて、白銀の人に真剣な眼差しを向けた。


 「ユリウス殿なら先程着きました。ただ、レオルドは消息不明で、彼の部下が現在追跡しています」


 「レオの事は、まぁ、いいよ。他に魔術師は?」


 「魔術師らしき者はいましたが、彼の部下で対処できるようです。後は、サイファーの行方がまた途絶えたようです。あの国に戻ったかと…」


 「エンジニアね。トールにそれを話したの?」


 「トールにはまだ…。あの男にそれを聞いても、怒り狂うだけかと…」


 「賢明な判断だね。そうか、サイファーは戻ったか。なら、テイドール国にそれとなく聞き出してみてよ。サイファーとその僕達が通っているはずだから」


 「はっ!では、そのように手配します」


 そこで話は終わったのか、ジェニファーがこちらに振り向き、一瞬私を睨んで部屋を出て行った。

 

 おっかない人だなぁ、と顔をしかめてその姿を見送る。


 「さて、僕もそろそろ戻ろうかな」


 後ろの彼が動く。ハッとして私が振り返ると、彼は何故か私をじっと見つめていた。


 「な、なに?」


 その神秘的な綺麗な紫の瞳にドキマギした。


 「ん?もう行かなくていいの?」


 そう指摘されてハッとした。


 「あ、あんたに言われなくても出ていくわよっ。それよりも、今の話は何っ?ユリウス…帰ってきているの?」


 そうだ、ユリウスは!


 私の唯一の希望。


 「さっきの話聞いてなかった?ユリウスは戻ったって。まぁ、どこにいるかは知らないけど。それより君は…名前、なんだっけ?」


 軽く首を傾げ、問いただす。一瞬、止めれ!とまた言いたくなったが口を閉じて、代わりにフッと嘲笑する。


 「あなたが本当の自分の名前を言ったらね。まぁ、アデルのそっくりさんでも、あなたが偽物だってすぐにみんな……」


 「目が覚めたんですね!カノンさん!」


 そのとき、話の途中で後ろからクリスさんの声がした。


 カッコつけて、名前を言わなかった私は、目の前の彼が一瞬驚き、すぐにニヤリと笑ったのを見逃さなかった。


 「ふーん、『カノン』ね」


 クリスさん…。タイミング悪すぎです。


 「カノンさん?」


 クリスさんが私の真正面に立った。


 「あ、ああ…神父様。わ、私ならこの通り、大丈夫ですよ」


 顔が引きつるのがわかる。クリスさんはホッと息をついて、ふと、後ろにいる白銀の人へと振り返った。


 「これは、大変失礼しました。私の大事な子を助けていただき、感謝します」


 助けたって、何?私を助けたって!?


 「え?待って、神父様!あのとき、私はなんで倒れたの?この人に助けられたって、どういうこと!?」


 そんな話、信じられない。自分が寝ていたのは、この男のせいだ。アデルと名乗り、さも自分のように振る舞って、ユリウスの隣にいるこの人。


 「ああ、カノンさん。こちらの高貴な方が、あなたを救ってくれました。あのときあなたは彼等の強い気に当てられ気絶されたのです。そこをこの方が、自分自身の気を与え調和させ、意識を戻してくださいました」


 知らない。倒れたのは、ただ、信じられない光景にショックを受けたからで、気って何?

 ヴァンパイアからの殺意はわかるけど、気って…!


 混乱する私を見て、クリスさんは苦笑する。


 「まだ本調子ではないようですね。話は後にして、もう休まれた方がいいですね」


 クリスさんがそう言って、私の肩に触れた。


 「えっ?」


 その瞬間、ふわりと風が起きて、体が宙に浮いた。


 「きゃっ!な、なにっ!?」


 驚き声を上げると、私はあの白銀の人にお姫様抱っこされていた。


 「ちょっ…!離…ふぐっ!?〜〜っ?〜〜!?」


 慌てて拒絶しようとした途端、口が何故か開かず、声がでなくなった。


 「どうやら、まだ気が足りないようだ。君…神父だったよね?この中に神聖な場所があったかな?」


 白銀の人がクリスさんに話しかけた。その顔には慈愛に満ちた神々しい笑みが張り付いている。


 ギョッとしてクリスさんを見れば、ぽかんとして、「この建物の…横に」と小さく答えた。

 その答えに、彼はにっこりと笑いかけて、私をお姫様抱っこしたまま部屋を出て行った。

 

 二分後、その部屋から何かひっくり返るような物音がした。


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