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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第一章 五百年後の世界に生きる者達
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三.秘密のアジト

 仕事場は広場から向かいの大通りを抜け、路地裏を入り治安の悪そうな場所に出た。閑散とした人気のない建物が並び、少し歩くと森林が見えて、街の外れまで来ていた。

 

 「あの…クリスさん。仕事場って、あの森の方に行くんですか?」


 隣を歩くクリスさんに話しかけると彼は首を振った。


 「街の閉門があるのが見えますか?あれの手前の黒い建物。そこを抜けてすぐに道を曲がると、この並んだ建物裏に出て、その場所にあります」


 そう答えてくれた閉門は今、傭兵らしき人が門番している。先を行くジェイクが、黒い建物を抜けて曲がった。

 

 クリスさんと一緒に私もそちらに曲がって行くと、建物裏にフェンスで向こう側に行けない場所に出た。


 「あれ?ジェイクさんは?」


 ジェイクさんの姿がない。

 クリスさんに不安な顔を見せると、彼は優しい目を向けて、


 「大丈夫ですよ。あのフェンスの先は行きません。ほら、こちらです。ここの…下に続く道があります」


 下とはなると、下水道か!?


 案内された建物の影になった道端に、マンホールのように四角いモノがある。そこだけ鉄か銅か何かで出来ていて、クリスさんはその前にしゃがみ、その四角いモノに触れて、回した。

 

 回して、ドサッ!と何かが落ちるような音がした。見上げれば、その前の建物の真下の地面に穴ができていた。


 「え…?これは、隠し通路ですか?」


 「ええ、そうです。すごいですね、カノンさん。あまりそちら方面は皆さん経験がないのですが…」


 驚いたように、クリスさんが目を丸くした。

 

 「え…!?あっ、それは昔ハマってまして!ダンジョン…探検好きの父に仕込まれたんです!」


 咄嗟に嘘をつく。


 前世の自分がよくそういうのをしていた。というか、彼の生き様がそういう感じだよな。

 

 探検好きではなかった。

 ただ生きていく、生活して行くために、秘密裏な場所に居なければならなくて、よくこういう仕掛けを作らせて、根城を守っていた。


 「…お父様が、ですか?それは…」


 ちなみに、クリスさんには私の家族は他界し、親戚もいない天涯孤独だと話している。


 「ああ、大丈夫です。えーと、そういうことで小さい頃からよくこういった仕掛けを解いて、覚えたんですよ」


 わざと明るく話し、嘘を信じている彼に罪悪感を感じながら、気にしないでほしい気持ちで答えた。クリスさんは少し暗い顔をしたが、すぐにいつもの笑みを見せて、隠し通路の方に向いた。


 「わかりました。それなら、行きましょう。地下にジェイク達のような用心棒の方が溜まる、集合場所があります」


 最後に言った言葉で、やはりと思った。私の直感は正しかったのだ。あれは、用心棒のアジトだ。


 私はクリスさんと隠し通路、下に続く階段へと足を踏み入れた。階段を降りてすぐに空洞の道。この行き方からして、あのフェンスの向こう側に続いている。

 

 左右に道が別れ、左に曲がると向こうの先に明るい光が見えた。


 「あの明るい場所に皆さんがいます。ここは避難場所として昔使われていた通路です。あのフェンスの向こうですが、あそこには貴族達の娯楽で作られた遊技場があったのです」


 それが今は閉業し、入れないように封鎖された。


 「オーナーが、ヴァンパイアだったのです。裏で人を襲い、家畜のように血を集めていたようです」


 聞いたような話だ。前世でも、はぐれヴァンパイアが人間が集まる場所を作り、そこに誘き寄せては襲い、血をいただく。


 古典的なやり方だな。


 「それは、いつの時代の話でしょうか?」


 気になり尋ねると、クリスさんは足を止めて、


 「もう二百年は前になりますよ。ヴェルド国で一番盛んな街でしたが、ヴァンパイアが集まり、この街だけじゃなく国全体が恐怖にさらされた。半分が封鎖されて、このように街も人がいなくなり、国は分離された。ですから隣りに中立国ができたのです」


 歴史を知らない私に、その時のことを教えてくれるクリスさんは、どこか冷たかった。それが彼のヴァンパイアに対する本性なのか。ハンターと言うには、ヴァンパイアと何かあったと思われる。


 しかし、二百年も前かぁ…。ヴァンパイアなら、あまり昔とは言わないな。その頃はまだ、争いが絶えなかったのか。

 

 そんな話をしていたら、もう目の前が明るい場所に。

 少し眩しい。目を細め、クリスさんに続き、通路をようやく抜けた。広い場所に入り、また前に扉があった。


 「ジェイク」


 その扉の横に椅子に腰掛けて待っていたジェイク。


 「おお、クリス。どうやらあちらさんが来ているようだぜ。最近の過激派の行動について、重要な話があるんだとよ」


 「…ようやく、話す気になったのか」


 前のクリスさんがボソッと、彼らしくない冷たい声で呟かれ、ギョッとした。


 「おい、クリス。顔、顔」


 私がぽかんと彼を、その背中を見ていると、ジェイクが呆れたように顔を指差した。多分、クリスさんの表情が、彼のいつもの優しいモノと違ったのかも。雰囲気からして、絶対そうだ。


 「…あ、失礼しました。カノンさん」


 クリスさんはハッと我に返って、私の方に振り向いた。

 ビク!と思わず怯えたが、それを表に出さずに困惑した。


 「あなたをここに連れてきたのは、何故か無性に、既視感を感じたからです。私も…あの孤児院の皆さんもそうですが、天涯孤独でした。でも、あの子達とは違うんです。私は物心ついた頃から、うちに獣を飼っていた。深くて抜け出せない、何かに対する憎悪」


 ぎくり、とした。

 

 まさか、いや…それは絶対気づかれない!


 「クリス、話は後だ。嬢ちゃん、本当ならあんたのような娘をここに連れてくるのは場違いだ。でも、こいつが…クリスやあの男が嬢ちゃんをいたく気にいってな。まぁ、勘違いだとは思うが、安全のためにコレ、渡しておく」


 ジェイクさんが私に近づき、どこか困ったように言って、短剣を差し出してきた。


 「護身用ですね。カノンさん、受け取りなさい。それと、私から離れないでくださいね」

 

 ジェイクの手から短剣を奪い、クリスさんが妙に怪しい笑顔を浮かべて私の手に無理やり、それを押し付けた。


 「えっと、あの………はい」


 断るという選択肢はなかった。

 

 「ほら、中に入るぞ」


 ジェイクの声にハッと我に返る。握らされた短剣の鞘に、綺麗な紅玉がついている。


 「紅い…」


 クリスさんが歩き、扉の中に入る。私も慌てて、中へと入った。

 入るとすぐ中心に円型にテーブルが置いてあり、壁側に武器やら、箱に入ったものがある。

 

 人がイチ、ニイ、サン…五人。ジェイクさんのような格好。そして、テーブルのところに四人、すでに席に座っており、貴族と同じような上品な身なりをした男と女、黒に赤いマントの軍服を着た男がいた。


 前を歩いていたクリスが立ち止まって、私の横に立つと、


 「あれは、ヴァンパイアの方々です。みなさん、ハンター協会も公認の、ある組織の方でして、他国の貴族出身ですので、失礼のないように」


 身をかがめ、低く小さな声で囁いた。

 今、それを説明されて、私はゴクリと喉を鳴らした。

 

 「し、神父様。彼等は…」


 ヴァンパイアには、興味がある。

 少し暗くて、彼等の顔がよく見えない。でも、何故か、あの上座に座るヴァンパイア。その髪の色やその雰囲気に、体が震えた。


 綺麗な白銀髪の男性か…。


 銀髪はここでは珍しくないが、あんなに綺麗な髪をした人は、滅多にいない。


 貴族と言っていたから、そう見えるのか?


 「今回は、こちらに足を運んでいただき、感謝します」


 手前の金髪の人が、口を開いた。席に座わっていた彼は立ち上がり、頭を下げていた。


 「あれは、ジェイクの仲間です。キナリと言って、貴族出身ですが、腕の立つ方。私の、ハンター達にも報告している、情報屋でもあります」


 貴族の、情報屋??


 「堅苦しいあいさつはいい。彼の方は本題に入れと申している」


 すると、白銀髪の隣に立っていた軍服の男性が冷たい声で答えた。よく見ると、その軍服…前世の時にも見た事があった。


 「エンジニア…っ?く、クリス神父。あの軍服の方は、エンジニア国の…」


 そこまで言って、クリスさんが突然、私の口を塞いだ。「(しっ、静かに。その名を、どこで聞いたのか分かりませんが口にしてはいけない)」


 まるで聞かれたくない様子で、クリスさんは険しい顔をして私に釘を刺す。驚いたが、クリスさんの尋常ならざる反応に青ざめ、こくこく頷いた。


 そうだった。ヴァンパイアは、耳がいい。

 

 私が理解したと判断したらしく、クリスさんはホッと息をついて、その手を離してくれた。


 「では、本題に入ります。提供ということで、あの幻影使い、レナルド=フォルスタントが街に現れています。これは…ユリウス殿の働きにより、今は食い止められています」


 ドキン!と心臓が跳ねた。

 ビックリして、思わずクリスさんの横を抜けて、前に出た。


 「そのユリウス殿はいないのか?」


 そこに、キナリさんの横にジェイクがいつの間にか立って話に割り込む。


 「ジェイク…っ」


 キナリさんが慌てて非難めいた声を上げるが、彼は気にする素振りもなく、あの白銀の人に向かって言ったようだ。


 「カノンさん、危ないです」


 クリスさんが、前に出た私を引き止めたが、それを払い、前に近くに進む。キナリさんが口にした二人の名前は、知り合いと同じだったからだ。


 まさか、と嫌な汗が浮かび、心臓がバクバクとうるさく鳴り響く。


 「ジェイク=ハンソル。馴れ馴れしいぞ!貴殿はどうも立場を悪くしているな」


 また白銀の隣の軍服男が厳しい声で答え、カチリ、と威嚇するように剣を鳴らす。すると、白銀の人がスッと手を挙げて、軍服男を止めた。


 「はっ、申し訳ありません!…アデル様!」


 ひっ!と顔を強張らせ、彼は白銀の人に頭を下げた。


 「あ、で…る?」


 アデル?今、彼はアデルと言ったか!?


 そのとき、ぐらりと目眩がした。続いてズキズキと胸が、頭が痛み、足元からだんだんと冷たく凍っていく感覚がした。


 「ユリウスはいないよ。僕の命で、この近くにまたレオが現れたから、そこに行っているよ」


 答えたのは、そう、答えた声はまだ少年のように幼い一人称が『僕』と言う、白銀の男性。


 あの顔は…アデルは、私。

 私はすでにこの世に存在せず、生まれ変わり、ここにいる。


 ーーーそれなら、あれは…誰だ?


 「ユリウスは、どこ?」


 それは誰が、口にしたのか。

 刹那、話し合っていた彼等がこちらを振り向いた。


 「ユリウスに、会わせて…」


 ガチガチと耳障りに歯が鳴り、震える手が、白銀の男のアデルに伸びた。


 「…っ!?カノンさん!」


 その瞬間、ぐらりと視界が回る。クリスさんの慌てる声と、白銀の人が立ち上がる姿を最後、目の前が真っ暗になった。

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