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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第四章 黒幕の敵はエンジニア国にいる
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一.静かなる内戦

 気づかれるのは時間の問題だった。でも、先に気づくのはいつでもユリウスであって欲しかった。


「…あなた…!いつからそこに?」


 ユリウスの表情は本当に驚いているようで、そして冷たく私に対し不快さを露わにしていた。その反応にチクリと胸が痛むがその感情を振り払い、扉の前で偽アデルとユリウスを見比べた。


「…少し前からです。あのっ、ユリウス様!あたし…決して盗み聞きしていた訳では…っ!」


 そこまで言ってハッとする。殺気…それと共に感じる強い警戒心。私とユリウスの間に見えない壁があり、叩いても叩いても壊すことのできないその壁は遠くて、ユリウスとの距離をさらに感じさせるもの。


「ユリウス。まだ幼い小娘に何をしているんだお前は」


 すると、不意に偽アデルが呆れたような顔をして、そう言葉を発した。その言葉遣いがおかしい事に気づき、さらには纏う雰囲気がいつもと違い、私は困惑した。


「えっ!え?えっ?アデル様…何か、いつもと雰囲気が…違う?」


 偽アデルがあの場から消えていなくなって、すぐに気配を追ってここまできた。それは最近ずっと彼と、この偽アデルと共にいた事で自分の気配を感じとることが急激に簡単に、それでいて感じる感覚が長くなった。


(なんだろう…これ?私の知らない、新たな人格?)


 まさか、ここにきて、偽アデルに新たな秘密がある!?


「『ユリウス様』ねぇ…。おい、小娘。貴様は以前、俺と会っているよな?」


 話し方や仕草、それが前と違い、またその燃えるような真紅の眼に、胸騒ぎを感じた。


「以前?…やはりあなたたち、知り合いだったのですね!」


 その問いかけをどう解釈したのか、突然ユリウスが毛を逆撫でした猫のように、私をまた警戒し、距離を取る。


「ユ、ユリウスさま!?何か誤解をして…きゃっ!?」


 そのとき、突然何を思ったのか、偽アデルが目の前に移動し、それに驚いた私は身を仰け反らした。


「おっと!…ん?なんだ、これは…っ」


 その拍子にバランスを崩した私に気づいたのか、さっと自然な動作で、目の前に現れた偽アデルが腰に手を回し、受け止めた。さらりと揺れた白銀髪と吐息がかかるほどの至近距離にドキッ!と思わず胸が鳴った。


「ああ、そうか。ははっ…貴様、その眼にその魂」


 偽アデルが不意に顔を仰け反り驚き、自分のした事に困惑したように、私から手を離し、そしてその手をじっと見てはおかしそうに笑い出した。

 

 一人だけ理解して笑う態度に、私も含めユリウスも不安にさせた。ユリウスは私への警戒心よりも偽アデルが変わり笑ったことに険しい顔をして詰め寄り、その胸ぐらを掴む。


「貴様ぁ…アデル様の体で、なんていう事を!」


 怒っているのか、耳元まで真っ赤になっている。


「は?…おい、離せよっ」


 偽アデルは心底鬱陶しそうな表情で、ユリウスの手を払いのけ、パンパンとユリウスが触ったところを払い、冷たく睨みつけた。それはやはり、いつもの偽アデルと違う。


 (あの眼の色。見ていると、誰かを思い出すのだけれど…?)


 二人の間には殺伐とした雰囲気が流れ、とても冷え切っている。


「ユリウス様!あの、喧嘩はやめた方が…うっ!ご、ごめんなさい」


 止めようとしたが睨まれてしまい、これでは何も言えなくなる。偽アデルは不機嫌マックスで深いため息をつき、さらには舌打ちをしている。


(本当になんなの?この二人、どうしちゃったの!?)


 今は喧嘩などしている場合ではない。

 スノウが、そしてレオルドの命がかかっている。ここにきた目的。あの美少年ホワイト君は後を追っては来なかった。だが、偽アデルがいなくなった事でスノウが危ない。レオルドの身体をした彼女はそのまま連行されそうだった。


「…ユリウス様!今はケンカなどしている場合ではありません!偽ア…アデル様も、スノウ様が連行されそうなのをお忘れですか!?あのホワイト君が今も…今も…?」


 スノウをこのままにしてはおけない。そう思って偽アデルはユリウスのところに来たのではないか?それなのに、その緊急事態を忘れているかのような彼に思わず訴えかけると、偽アデルの目つきが変わった。


「…今、なんって言った?ホワイトが、スノウを連れて行くだと?」


 馬鹿なことを、と一瞬冗談だと思ったのか軽く笑い飛ばしたが、私とユリウスを見て何かを感じ取ったように、ぴたりと動きを止めて無表情になった。


「アデル様…?」


 どうしたんだ、と名を呼ぶと、その視線が不意にこちらを向け驚愕し、がらりと豹変した。


「あの男…っ!やってくれたなっ!」


 そう吐き捨てるように冷たく誰かに向けて叫び、憤怒の表情をした彼は、今度はユリウスの首を思い切り掴み返した。


「ぐっ!?お前、なにを…っ!」


「俺の身体はどこにある…!」


 ユリウスが反抗する間もなく、偽アデルの長い爪が首に食い込み血が流れ、返す言葉を奪った。苦しみに歪むユリウスの表情を見て私は我に返った。


「い、医務室よ!アデル様、それ以上はやめて!彼は医務室にいる!」


 骨が折れそうなくらいの強い締め付けに、私の方が我慢できなかった。ユリウスを掴む彼を見て掴み掛かる勢いで止めようとした。だが、ユリウスは何故か敵に向ける時と違ってあまり抵抗がなく、掴んでいる偽アデルの腕を両手で軽く押しのけるような形で、力尽くで引き離そうとはしなかった。


(なんでこんな急に!?それにさっきこの人、『俺の身体』って言ったよねっ?それってまさか…!)


「ユ、ユリウスっ!大変でスゥゥッって、何にをしているんですか!?アデル様!」


 そのとき、突然、バン!と勢いよく扉が吹き飛び、廊下から青年が現れた。彼はギョッとしたように偽アデルを見て、ユリウスを見て、青ざめて叫んだ。私は第三者の登場に驚いたが、ユリウスは青年の姿を見た瞬間、力強く偽アデルの腹部を思い切りパンチした。


「ぐっ、ふぁっ!」


 ユリウスの拳は見事、偽アデルの鳩尾にめり込んだ。偽アデルは腹を押さえて膝をつく。ユリウスはそのまま今度は肩を蹴りつけ、偽アデルの身体が軽く床に押し付けられるように伏せた拍子に、勢いよく足を上げ、回し蹴りをした。偽アデルの体は派手な音とともに右壁に激突した。


「あ…なんか、お邪魔、でしたか?」


 今になって青年は気づいたのか、二人の間の険悪な空気を読みとり、引き攣った笑みを浮かべてそのまま引き下がろうとした。


「待ちなさい!…それで、何のご用ですか?」


 パンパンと手を払ってつま先でコツコツと軽く床を叩くと、ユリウスはくるりと青年に向き直った。青年は真っ白になって動きを止め、ははは、と渇いた笑い声を上げた。


「ーし、失礼しました!その、先ほど乱入してきた協会の者ですが、必死に身体を張って止めようとしたのですが、その者が勝手にレオルド=コールデントの身柄を捉え連行してしまいました!その報告をと、伝えにきました!」


 


 




 

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