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七.急展開

 話を始めたそのとき、なぜか突然彼の表情が変わる。険しくなって立ち上がると、


「ちょっと、ごめん」


一言詫びを入れ、扉の方に移動した。


「えっ?なに?」


 驚いて私もそちらを振り向くと、扉の方で護衛の部下が誰かと言い争っている。


「どけ!そこにいるか聞いたんだ」


 まだ声変わりしていない少年の少し高い怒り声に、ちらりと護衛の横からそれらしき人物が見える。透けるような水色の髪と翠の眼の十二、三歳くらいの可愛い顔をした男の子。この場所で私よりも若い子を初めて見た。それに彼の着ている真っ白な軍服と赤星のシンボルがついた腕章を見てさらに驚いた。あの服装は、ハンター協会が着ていたものだ。


「まだ邪魔するなら、容赦せんぞ」


 見た目と違い、彼の口から発せられる言葉や雰囲気は冷たくひどく大人びていた。ハンターなのに、ヴァンパイアの雰囲気を持つ少年に違和感を感じていると、護衛達の間を抜けようとした彼の前に偽アデルがスッと立って、その背に彼の姿が見えなくなる。


「あっ、ちょっと…」


(見えないじゃない!どういうこと?あの男の子がなぜあの制服を!?)


 私も立ち上がり、その場から離れ扉に向かった。少し離れた場所から位置をずらして見ると、彼の姿がまた見えた。

 冷たい表情と剣呑な目。赤い唇が引き、微かに口の端を吊り上げて、薄笑いを浮かべた。


「これはこれは…アデルじゃないか」


 アデルの姿を見て男の子は豹変する。


「ホワイト。何故、君がここに?」


 偽アデルが名を呼び、問いただす。その言葉に一瞬ギロっと睨んだ男の子は、微かに視線を動かし、こちらに目を向けた。その一瞬に目が合って、見ているのがバレてびくりとしたが、彼は無表情になって、すぐに私から視線を逸らした。


「レオルド=コールデントの面を拝みに来た。いちいちお前の許可などいらんだろ」

「そうだけど…突然来たらびっくりする。まさか、カインに頼まれたの?」

「猊下は関係ない。いいからそこをどけ」


 猊下?…まさか、ハンター協会の会長のこと?

 過去にハンターに捕まった仲間を助けるために、協会に直談判しに行った。その際に会長が現れた。協会が拠点としているラフエル大聖堂を統括している彼は人間界では枢機卿と呼ばれていた。まだ階級制度が変わらないなら、その名称は彼の子孫に与えられたものだろう。


「レオルドはまだ目を覚まさない。会話はできないよ」


 なんとかしてベッドに行こうとしている彼の前に立ち塞がって邪魔をする偽アデル。それを睨みつける美少年のやり取りを前に、ベッドから「うぅん」と小さく声が上がり、はっとした。


「スノ…レオルド!」


 レオルドの器に入っているスノウが、ゆっくり瞼を開け、目を覚ました。偽アデルが彼女のベッド脇に移動して覗き込み、私も近くで彼女を見つめた。スノウは力なく目を閉じたり開けたりを繰り返し、ぼんやりしている。


「どけ!アデル!こいつに話がある」


 そこに素早く偽アデルを押し除けて、私の横に美少年が仁王立ちした。


「ようやく目を覚ましたなっ、レオルド=コールデント!貴様がこれまで行なってきた数々の悪行、その処罰について裁きを下しに来た!」


 冷たい眼差しをした美少年ホワイト君は、大きな声をあげてスノウにそう告げる。その姿にようやく視線を向けた彼女が、大きく目を見開き、顔を青ざめ飛び起きた。


「ホワイト!?あなた…いや、お前がどうしてここにっ?」


 驚きと戸惑いを見せスノウが問いかけると、彼は一瞬眉を寄せて訝しげな目を向けたが、すぐに冷たい氷のような目を向け直す。


「死刑執行官として、貴様に裁きを下しに来た!始祖であり血族の親だったスノウから奪った、その幻影眼を悪用し、人間の大量殺戮と同胞殺しを繰り返した貴様に、私は死刑を言い渡しに来たのだ!」


 ばっと腕につけていた腕章を外し、それを彼女の前に突きつける。腕章をよく見ると、赤星の中に五つの金星がついており、偽アデルが微かに舌を鳴らした。


「死刑執行官だって?…まさか、本当になるなんて思わなかったな」


 私も初めて聞いた。


(死刑って、どういうこと?処刑するって意味かしら?それなら首を切られるだけだが、処刑では純血である彼は死なない)


 偽アデルと同じく始祖であるスノウは不死身である。そして、その血族の純血種であるレオルドも不死身に近い。


「…お前と僕とでは根本的な違いがある。死刑は五日後だ。これはすでにハンター協会だけでなく、元老院で話し合った結果だ。お前が裏切ったスノウは、お前の行いにようやく見切りをつけた」


「何っ?スノウが見切り?それはいつの話だ」


 はっと顔色を変えて声を上げた偽アデルが、ホワイト君の両肩を掴み詰め寄った。私も「なんだって!?」と思わず声を上げてしまった。


「なんだ急に!離せっ!貴様に関係なかろう!」


 ホワイト君が露骨に顔を顰め、偽アデルの手から離れる。だが、偽アデルは力強く彼の肩を掴み、その手は怒りなのか震えていた。悪いが、これは関係ないどころではない。彼の言うスノウは偽物だ。


「何故君達は考えもなしに決めつけるんだ!スノウは、今どこにいるんだ!」


 偽アデルが切羽詰まった表情で叫ぶ。その迫力に気をされて、ホワイト君は戸惑った表情を浮かべてこう言った。


「す、スノウは、エンジニアへ帰ったはずだ」


 エンジニアと聞き、偽アデルが青ざめて何かを口走ると、突然目の前にいたはずの彼が忽然と姿を消した。


「な、なんだあいつは!急に、どこに行った!?」


 ホワイト君も驚いたようだ。私は嫌な予感がした。レオルドの身体にいるスノウに向けて、


「スノウ様!あなたがいた現在の正確な場所はどこか、覚えていますか?」


 起きてこちらの様子をうかがっていた彼女は、微かに首を傾けて、


「…私がいたのは、エンジニアの王都だったはずです。過激派の拠点が王都の裏街にありました。あの、闇魔術師との関連のある街です」


 思い出しながらゆっくりと、彼女は自分のいた場所を答えた。その瞬間嫌な予感が的中した事に不安を感じ、部屋を飛び出した。

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