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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第一章 五百年後の世界に生きる者達
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二.神父と用心棒

 厨房から出てすぐに孤児院の歳の違いミリアから、彼女の一丁蘭である黄色にフリルのついたワンピース服を拝借した。

 

 そういえば、こうしてクリスさんと二人で出かけるのは初めてかも。

 いつもは孤児院の子と養護教員のミリューア先生か、ボランティアのアジェンダさんなどと一緒に買い物するだけだ。


 「カノンさん、ここでの暮らしは慣れましたか?」


 クリスさんと孤児院から出て大通りを歩くと、彼に声をかけられた。


 「はい。慣れてきた、ですね。最初は不安でしたが、みんな優しいから、何も知らない私でもちゃんと教えてくれます」


 そう、家事とか電化製品なんてないからさ。


 何をどうやってやっているのか、一から教えてもらった。


 「それは良かった。確か、シュンとミゲラが歳が近く、仲が良いと聞きます。二人はしっかり者ですから、私も助かっていますよ」


 クリスさんの言う通り、困っている私をこの二人が助けてくれていた。


 「そうですね。あ…でも、あの子…サイルには何故か嫌われていますよ。多分、始まりの時がダメだったのかも」


 「始まり?…ああ、そういえば…ふふ。サイルと一悶着合ったとか…。彼は孤児院では一番元気ですからね。少し行き過ぎる所はありますが、彼は小さい子の面倒をよく見てくれます。言葉も雑…いえ、ぶっきらぼうですが、根は優しい子です」


 そのサイルと、喧嘩をした。


 理由は他の子を虐めていたから。面と向かって注意した。それが気に食わなかったのか、何かと意地悪してくる。でも、それは私が違っていたのだ。


 そもそも彼はその子を虐めてはいなかった。その子が他の子を脅し、仕事を押し付けていたのだ。押し付けられた子はなかなか上に言い出せず、たまたまその場を見つけたサイルが彼に注意した。その現場を私が見て、虐めているのかと勘違いしたのだ。


 「…あれは、私が悪かったんです。反省しています」


 罰が悪く、クリスさんに頭を下げて謝る。すると、彼は可笑しそうにクスッと笑う。


 「二人は似た者同士です。サイルは喧嘩早いところがあります」


 「…神父様。つまり、私も喧嘩早いと?」


 それは、非常に面白くない!


 「ああ、ごめんなさい。変な意味ではないですよ。ただ、始めの頃に来たサイルとカノンさんは似ていたんです。境遇やその態度とか…喧嘩早くても、誰かのためにそうした行動をとっているのだから、何かと頼り甲斐があるもんです」


 なーんか、はぐらかされた気がする。だけど、頼り甲斐があると言われるのは、悪くない気分だ。


 「神父様、ありがとう。少し…サイルともちゃんと話し合いしてみます。喧嘩続きも、いやですから」


 彼の言葉に歩み寄る気持ちができた。


 まだ会って十日しか経っていないのだ。じっくり腹を割って話せば、彼ともいい友達になれるだろう。


 「そうですね。その心構えはとても素晴らしいです。あ、カノンさん。あちらの広場の右手にある店が待ち合わせ場所です」


 話していたら、目的地の近くまで来ていた。


 前を行く私の腕を掴み、左に回るようにクリスさんが指示した。


 「あ、そうなんですね。あ…。人がたくさんいますね」


 平日の午前中だが、結構人が集まっている。


 何やらパフォーマンスしているのか、派手な格好した人達がダンスや芸を披露していた。


 「あれは、旅芸人ですね。今、この街に滞在しているようですね。半年前にも他の人達が来ていたのを見ました。ああして披露して、結構楽しいですよ」


 話しながらクリスさんについていき、旅芸人を見ている人の中を通る。あの世界では、今はあまり街中でパフォーマンスをしていなかった。何かのイベントでなら見たことはあるのだが…。


 私は彼の話に相槌を打ち、その旅芸人の方を見て、ため息をつく。綺麗な女性、踊り子なのか、ボールや棒を使い体を曲げて動かせ、芸を披露している。


 その少し離れたところには多分仲間だろうか?


 赤い髪に黒いロングコートを着たイケメンがいた。長い杖のようなものを持ち、それを地面についてその上に組んだ両手を置いて、じっと踊り子の方を見つめていた。


 「ねぇ、神父様。あれ…赤い髪の人…」


 そこまで言いかけ、ドキ!とした。その人の視線が、こちらに向いたから。

 目が合って、何故か、あの顔に身に覚えがあった。


 「カノンさん?」


 すると、横にいたクリスさんがこちらに顔を覗き込んできた。いつの間にか足も止めていた。私はハッとして我に返り、


 「ご、ごめんなさい!ちょっと気になる人が目に入って…!」


 慌てて言い訳のような言葉を告げる。


 「気になる人?…カノンさん。隅に置けませんね」


 私の言葉をどうとったのか、突然クリスさんがニヤリ、と嫌な笑みを浮かべた。


 「え…?隅にって…いやっ、違いますよ!そういうのではなく、ほらっ!あの人!赤い髪の人も旅芸人かなって!」


 思わずムキになって言い返し、あの赤毛の男性へと指差した。


 「赤い髪の?…どこにいますか?」


 だが、クリスさんはそれだけではわからなかったらしく、再びこちらに振り向いて言った。


 「え!?ほ、ほらっ!あそこに、踊っている人の近くに赤い髪に黒のロングコートの…」


 そう答えながら、私も自分が指差した方に顔を向けた。


 「え…っ?あ、あれっ?」


 だが、再び向けたその先には、あの赤毛の男性がいなかった。慌ててその周りを見ても、それらしき人が見つからない。


 「カノンさん。別に隠さなくてもいいのですよ。カノンさんのような年頃の女性なら、異性と交友関係を持つのは至極当然の事です」


 クリスさんは何かを悟ったような顔になり、私に温かい目を向けてくる。

 

 「は…?い、いや、違いますって!」


 そう否定しても、彼はそれについて誤解したまま、信じてくれなかった。


 「はい、わかりましたわかりました。そういうことにしておきましょう。それよりもほら、あちら。待ち合わせ場所の店、見えてきました」


 歩くのを再開したクリスさんが話を変えて、私に案内している先を教える。


 「本当に、違うのに…」


 まるで信じてくれないクリスさんにやるせない気持ちでため息をついた。


 「ほら、カノンさん。行きますよ」


 クリスさんがそう言って振り向き、動きが遅くなった私を急かす。


 「…はい、わかりましたよ」


 信じてくれなかったもやもやに顔をしかめ、少しトゲのある声で答える。


 クリスさんは苦笑し、先にそちらに歩き出す。


 「(神父ってそういう事に疎い方じゃないの?俗世に興味あるのが意外だわ)」


 私は彼に聞こえないくらい小さな声でそう言って軽く肩を竦めると、先を行く彼の元に駆けて追いついた。


 「あ、先に来ていますね」


 前を歩くクリスさんがポツリと言った。

 私は顔を上げ、どこだ、とじっとその店を見つめた。


 「ジェイク!」


 距離はあったがクリスさんはその待ち合わせ場所にいる人に向けて大きく呼びかけた。

 クリスの弾む声は、少し嬉しそうな…。目の前にいた背中が急に速度を上げる。私も慌てて彼についていく。


 「よう、クリス!久しぶりだな」


 元気よく返事をしてにこやかに笑顔を浮かべるジェイクという男性。


 年齢は三十代前半。焦げ茶の髪を短髪に刈り上げ、クリスさんと違い、服の上からでも分かるほど、ムキムキに鍛えられた筋肉がすごい。

 よく見ると背中に大剣が見える。平民男性によく見るラフな上下服に、甲冑を身につけている。

 

 どこかの傭兵か…?


 「おい、クリス。そっちの嬢ちゃんは見ない顔だな」


 来た早々、彼は私に興味を持った。

 大柄な彼は軽く百九十は超えて、見上げる私は少し驚いた。


「ああ、こちらのお嬢さんは先々週新しく孤児院に入ったカノンさんです。カノンさん、この人は…」

 

 クリスさんがこちらに向き直り紹介しようとしたが、ジェイクさんが手でそれを制した。


 「クリス。俺が自分で名乗る。カノンだったか、俺の名前はジェイク。この街の用心棒をしている」


 用心棒という言葉に、ハッとした。だから彼は、そのような姿をしているのか。


 「は、初めまして!私はカノンです!クリスさん…神父様には良くしてもらっています!」


 手を差し伸べてきた彼に緊張した面持ちで答え、慌てて手を出してその大きな手を握る。するとジェイクさんは、ニカッと白い葉を見せ、屈託ない笑顔を浮かべた。


 「よろしくなカノン!俺のことは呼び捨てで!敬語も禁止な」


 「あ…はい!じゃなかった、うん。ええと、じゃあ、ジェイクと呼び…呼ぶね」


 いきなりタメ口でいいと言われ、吃る。そんな私に彼は笑って、ふとクリスに真剣な顔を向けた。


 「ところでクリス。今日の予定なんだが、うちの連中があちらさんの護衛についているんだが、何かトラブルがあったみたいで、まだこっちに着いてないんだとよ。また過激派のおっかない連中が現れたらしい」


 突然、深刻な話が出て、身動いだ。


 護衛とか、トラブルとか…私、本当に来てよかったの?


 「ルイスが言っていた、あのことですか?」


 「多分な。奴が幻影使いで、寄せ集めのリーダーだろうな」


 「幻影って、確か三百年前の戦争で亡くなったのでは?奴等は血族を持つが、幻影となると…」


 そこで厳しい表情をしていたクリスさんが口をつぐんだ。 


 「ここで話すような話じゃない。ジェイク。話のできる場所に行こう。もう着いているかもしれない」


 そして、周りを警戒したように彼はジェイクに顔を寄せて、小さく囁いた。


 それは目の前にいた私の耳にも届く。


 ーーー幻影使いのって、まさか…!


 「そうだな。嬢ちゃん、俺の仕事場を案内しよう」


 仕事場と言ったら、この流れ的に街の用心棒のアジトってこと??


 「あ、わかった。えっと神父様…」


 私はクリスさんに振り向いて、彼の反応を窺った。クリスさんはうなずいて、「大丈夫です。勉強になりますから」と言った。

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