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六.初めから始める

 大変な目に遭った。

 拠点であるあの廃屋となった遊技場に戻って来ても、ユリウスは偽アデルの言葉を信じているようで、私とより距離を取り始めた。廊下でばったり遭遇した時、目があった時、私の姿を見て柱の影に隠れたり、と避けてばかり。

 あの、偽アデルのせいだ!

 そして彼も疑っていて、勝手に拗ねている。


「もう、いい加減にしてください!」


 五日経って、スノウはあれから目覚めず、二人との関係は変な方向へ向かっていた。ユリウスとの距離が遠のく一方で我慢できず、私は偽アデルに怒りをぶつけた。


「…ふん。カノンが認めるまで、何度でも聞くから」


 ぷんぷんとまるで小さい子供のように、こんなふうに拗ねられて、頭が痛くなる。


「認めるも何も、誤解だと言っているじゃない!ユリウス、様は恩人!好きとかそういう風に見たことは…」

「本当に?…一度も、ユリウスを男として見たことがないの?」


 また至近距離で探るように尋ねられた。一瞬言葉に詰まった。


「あ、ほら!ギクッてなった!今、なったよね!」

「だから、これは図星ではなく、あんたが急にその顔を近づけるから!」


 驚きに身構えたのだ。そんな気持ちに気づかない彼はまだ疑いの目を向けてくる。それが鬱陶しく迷惑だ。


「ねぇ、本当にいい加減に疑うのはやめてください。あんたのせいでユリウスからめちゃくちゃ避けられているんだから。あれからずっと、近づけなくて困っているんです!」

 

 正直な気持ちを吐き出し頭を抱え、迷惑そうに顔を顰めた。私の言葉に偽アデルの反応は一瞬止まったが、こちらを見る疑いの目は変わらなかった。


(このようではいつまで経ってもユリウスとの仲が縮まらない!スノウも見つけたし、至宝も手に入った。レオルドがしてきた理由もはっきりと確証はないけど、わかってきた)


「…カノン。やめて欲しいなら、早く隠していることを話してよ。ユリウスを好きじゃないと君は言うけれど、どう考えても辻褄が合わない。君がここに来た理由だよ」

「来た理由?また、なぜそんな話になるの?」


 話がまた元に戻った。その問いは既に答えている。嘘ではあるが、ユリウスに近づくのは自分自身が本物のアデルだった事を教えるため。警戒する彼と距離を縮めていくために、近くにいる。


「カノンが偶然ハンター達と出会ったのも、おかしいことだよね。ここに連れてきた…あの神父、なんて名前だっけ?」


 ハンターと言われて真っ先に私を助けてくれたクリス神父を思い出す。


「クリス神父?…彼が、ハンターだと知ったのは私もここに連れられて初めて知ったの。今までずっと知らず、孤児院で少し過ごしていたの。ジェイクさんだって、あの日初めて会って、彼らがハンター…ヴァンパイアを狩る側だって知ったのよ」


 クリス神父がハンターとは知らなかったのは本当で、そのハンターがこの世界にいる事は知っていた。ただ、それが偶然にも運良くこうしてユリウスの元に来れたのは驚きだけれど…。


「そうそう!クリスだったね。でもさ、ハンターを知らなかったわりには、君って結構大胆だったよね?ヴァンパイアに恩人のユリウスに会うためにこの街に来たんでしょ?それ、普通の子なら間違いなく迷って餓死だよ」

「はっ!それって、私が肝が据わっているといいたいわけ?」

 偽アデルがこうして根掘り葉掘り問いただすのは、ユリウスのことを好きだと勘違いしていることに何か関係があるのか?


「うーん…それは一目瞭然だよね。こうして僕と二人っきりでも怖がらないもん」

「ちょっと、二人っきりって、ここにスノウ様もいるんですけどね!」


 大きなベッドに横たわり目を覚さないが、一応今私たち以外にも人(人外)はいる。ちなみにここは医務室として使っている部屋であり、彼女がいつ目覚めるか分からないので、ここで見守るのが私の最近の日課となっていた。そして他にも見守りの軍服を着た部下が二人、部屋の入り口の扉にいる。


「…まぁ、そうだけど、今彼女は意識がない。そう考えるとカノンとよく二人っきりでいる時が多いよね。なのに何も感じないのか、鈍感なのか、ぜーんぜん警戒してくれないんだもん」


 最近気がついたが、彼の精神年齢は十歳そこらの子供に近い。口調も砕け甘えた感じでガラリと変わり、ベタベタして懐くのは本当の子供のようだ。


「警戒…ねぇ。あんたの態度見ていたら全然怖くないんだもの。それに比べてユリウスの方が、ある意味怖いわ」


 正直なところ、前世の自分と同じ顔だからか、親しみやすい。話し方とか態度は全然だけど!でも、ユリウスに比べれば彼の方が…。そこまで考えて、ハッとする。


(今、余計な事を考えて言った気がする…。偽アデルは…)


 ちらっと見ると、何故か彼は嬉しそうににやにや笑っている。


「え?なんで、そんなに笑顔なの?気持ち悪いんですけど…」


 また表情が変わり、そのにやにやに冷めた目を向けた。


「だって、ねぇ…今、ユリウスより僕の方が親しみやすいって思ったよね?」


 これには驚き、心を読まれたのかと思った。


「えっ、いや別に、ユリウスよりは…ね」


 自分と同じ顔だからとは言えない。


(それに、この者がアデルとして振る舞っていても、私がアデルだった過去の記憶は消えない。そのとき感じた思いも考えも全部消えない)


 墓地で少し見たアデルから心臓を奪った時のあの映像。そのせいで混乱するが、あれは本当にあったことだろう。自分はアデルだったが、そのあとに何があったのか、そろそろはっきりさせるべきだ。


(それにスノウやレオルドのことも、はっきりさせないと)

 

 生まれ変わってしまった事で、解決していくことが増えた。


「…また、何か考えている?難しい顔をして黙り込んで…」


 そのとき、私が口を閉ざしたことで、彼が訝しげに問いかけた。ハッとして我に返り、どこから解決していくべきか迷いながら、困ったように彼を見る。


「その、私がユリウスに対する気持ちを確認するよりも、あなたの方こそ、ユリウスとはどういう関係なの?」


 まずは、二人がどんなふうに出会ったのか、そこから確かめよう。


「えっ?急になにっ?ユリウスと、僕の関係って…!ただの仲間だよ!仲間というか昔からの腐れ縁で、今は優秀な右腕的な存在?」


 彼は驚き、戸惑い、考えるように答えた。


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