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四.闇魔術師サイファーの仮の器

 がらりと雰囲気が変わる。殺気立った偽アデルの姿は今まで彼がいかに手加減していたのか、わかる。過去の自分と同じく、周りを一瞬にして恐怖に貶めた。


「くっ…!アデル!あんたはほんとに容赦な…っ!」


 隙を与えず喋る暇もなく一方的な攻撃に、アレステはついていけないようだ。すでに死体で弱っている身体に傷が増えていき、ボロボロと体の一部が崩れていく。


「あ、アデル様!無茶な行動はお控えください!その身体はアレステ殿なのですから!」


 本人はとうに死んでいるが、その身体は高貴なものだ。故人を愚弄し好き勝手する中の者へ制裁する気持ちはわかるが、やり過ぎれば、その身体はもたない。ユリウスの指摘に、偽アデルの動きが弱まった。


「…っ、いまだっ!」


 一瞬の隙を見て、アレステの頭上に大きな紋様が現れる。それは魔術師が使う魔法陣だ。攻撃していた偽アデルの動きが鈍くなり、その姿にアレステは剣を握る手に力を込めて、偽アデルの左腕を軽く斬りつけた。血が噴き出るが、すぐに再生され傷は塞がる。動きを鈍らす魔法をかけられたが、偽アデルはその魔法を簡単に破り、アレステの動きを封じた。


「くっ…!」


 金縛りにあったように、剣を握りしめたまま動けないアレステに近づき、その肩に手を置く。


「残念だったね。お前が誰だか知らないが、もうこれ以上操るのは止めるんだな。能力を奪われたくなければ、おとなしく至宝を渡すんだ」


 偽アデルはアレステが至宝を手にしたのに気づいていたようだ。動けないアレステの懐から、サファイアを取り出す。輝きを失ったそれは、偽アデルが息を吹きかけると、小さく光を放ち、少しだけ輝きを取り戻した。


「あ、アデル様!」


 満身創痍だったユリウスの体も少し回復したのか、心配そうに彼に駆け寄る。偽アデルはアレステに冷たく一瞥し、駆け寄ってきたユリウスに振り向き、手にしたサファイアを見せた。


「これ…何とか至宝は手にできたよ。でも、こいつのせいでアレステの身体はボロボロだ。どうしようか?」


「そうですね…。彼の体がこれ以上悪用されないように、厳重に封印しておきましょう。魔法が使える術師を今すぐに呼びます」


「ああ、待って。それなら僕がやるよ。その前にこのアレステの中にいる者を追い出さなければ…」


「ふっ…ふふふ…ぐふっ、あっは!あーっはっはっはっ!!」


 二人が動けないアレステの前で話し込むと、不意に彼が不気味な笑い声を上げた。

 その声にピタリと二人は口を閉ざし、彼の方に顔を向ける。すると、アレステは微かに右眉だけを上げて口が裂けるほどの大きな笑みを刻み、青色の瞳が灰銀色の瞳と変わり爛々と輝いた。


「あんたらはほんっっとうに、変わらんなぁ」


 続けて発した声音が変わり、異様な光を湛えた灰銀色の瞳が細められる。


「この私を前にして、そのような不遜な態度を取るのはあんたたちだけだよ。なんでかなぁ、アデル。昔と違うあんたを見てると、その忠実なユリウスがホントに…っ!?」


 このアレステの中身は、誰なのか??

 その答えを知る前に、気色ばんだユリウスが、ガッと瞬時にアレステの首を右手でつかんだ。


「貴様ぁ、サイファーかっ」


 その答えの問いに、腐敗したアレステの顔が歪み、


「だったら、どうするのだ?これは器だよ?」


 にたぁと気味悪い笑みを浮かべた。その顔に私は思わず顔を背けてしまった。


(なんて気色悪い…っ!サイファーって、闇魔術師だよね!?生きた屍を作り、人とヴァンパイアを対立させた元凶!)


 記憶の中にある魔術師集団は覚えているが、その魔術師の中にサイファーがいたかわからない。実際に目の当たりにしたのは、このときであり、それも本物ではないから彼がどんな人なのか見当もつかなかった。


「ユリウス落ち着いて。彼をまずは封じよう。アレステをこのままにはできないからね」


 そこに偽アデルがポンとユリウスの肩に手を置いて、振り向いた彼を説得した。その言葉にユリウスは渋々と、アレステの首から手を離す。まだ動けない様子のアレステは大きく酸素を取り込み、激しく咳き込んだ。そんなアレステに近づき冷たい視線を向けると、


「君は本当に相変わらず性根が腐っているね。ねぇ、サイファー。僕はね、別に君達を否定しているわけじゃない。その感情は少なからず、僕も一度は経験したからね。だけどさぁ、こうして君を逃すの…これで何度目かな?」


 今度は彼がアレステの頭を乱暴につかみ、ニコリとした笑顔でそう言った。その瞬間、アレステの中にいるサイファーは何かを感じ取ったのか、一瞬恐怖に顔を歪める。


「わかっているずだよね。今回もサファイアを手に入れたと勝った気分のようだけど、それ、違うからね」


 偽アデルは本気で怒っているのだ。その証拠に彼の纏う空気が張り詰めた殺気に変わり、前に感じたように息がしづらくなった。


「あ、あで、る…っ、息が…!」


 この状況下で自分がしゃしゃり出るのは間違っているが、言わずにはいられない。すると、私の声は彼に届いたのか…偽アデルの動きがピタリと止まり、ふっと空気が軽くなり、息がしやすくなった。


「ごめん、カノン。また忘れてしまったよ。…ああ、そうだね。今はやめておかないと、ね」


 偽アデルは私の方に振り向くと、優しい笑みに変わって謝罪し、すぐにアレステの方に向き直った。


「そういうことだからサイファー。じゃあね」


 それだけを言い残し、伝わったか分からないアレステが変な顔をした瞬間、魔法陣のような陣が浮かび上がり、ゆっくりとそれが光の輪っかのように、彼の手と足と首に巻きついた。


「うっぐ…!?がはっ!」


 そして、その輪っかのような光の鎖は彼の口にも巻かれてがんじがらめに拘束し、がくんと彼の身体から力が抜けた。それをユリウスがさっと横で支えた。サイファーの意識は完全になくなったようだ。






 


 


 




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