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ニ.禁忌の魔術

 ある魔術師の話をしよう。


 彼は魔術師の中でも最強であり、最年少で宮廷魔術師になった。故に天才だった彼は昔から人を駒のように扱い、人を人とは扱わないサイコパスだった。人体実験を繰り返し、王宮の管理職の中から生きる死体を生んだ。

 初めは気づかれないように動物で実験した。それは魂を再び呼び寄せ生き返らせるという禁忌の魔術。

 千年も昔、始祖のネフィアが滞在していたローファ帝国。人の魂を呼び寄せ、死体を動かす術を編み出した魔術師がいた。だが、その魔術は不完全で、生き返った死体が人を襲い喰らうという事件が起きた。それが始まりであり、その編み出した罪からその魔術師は処刑された。生き返った死体は早々に処分されて、その魔術が書かれた魔術書はローファ帝国の皇城の奥深くに封印された。

 しかし、ローファ帝国が大きな洪水に見舞われ、疫病が蔓延し、人々が倒れ、帝国は滅亡した。その後はエンジニアと呼ばれる国として統治されるのだが、その時のいざこざでその魔術書が盗まれてしまったのだ。それがどんな形で知れ渡ったのか分からないが、グランディアラ国の闇市で売却されたのだ。その売却者から宮廷に渡り、天才でありサイコパスの魔術師の彼が発見する事になる。


 私がアデルの時、ローファ時代から知っている始祖のネフィアが、責任を持って魔術書を保管する事になっていたのだが…。

 人形使いとなる由来はその魔術書が始まり。そして、彼がその魔術を完成させてしまった事で、彼の配下となっていた他の魔術師が、死んだ人を生き返らせて操る魔術を真似て、不完全な魔術として生きた屍が増えてしまったのだ。


「…カリン、大丈夫なの?」


 再び偽アデルの心配する声が聞こえて、私の意識ははっきりする。

 今見た光景は、多分、レオルドの過去だ。彼はアデルから心臓を取り出していた。裏切ったのは、病に侵されていたから。そう本人が教えてくれた。しかし、そのときに見えた過去の彼の外見、その一部が鮮やかにも私の知っているレオルドのものとは違っていた。


「私は大丈夫。それより、レオルドよ。彼にまだ聞きたいことがある」


 支えている偽アデルの手がぴくりと動く。私は彼の肩越しから、レオルドの方を向き、床に座り込んで息を整えているレオルドを睨みつけた。


「やはり、レオと…繋がっていたの?」


 ふいに悲しそうな声が降って、グイッと顎を掴まれ引き寄せられた。偽アデルの真剣な目とぶつかり、彼が傷ついた表情を浮かべて、


「ユリウスは疑っていたけど…違うよね?カリンはあっち側の人間じゃないよね?」


「わ、私はスパイじゃないわ!それより今はレオルドに話があるの!私、見たのよ!彼の過去を!それに、あなたも出ているの…!」


 少し興奮気味に声を上げてしまう。今見た過去が本当に起きた事なら、レオルドにはっきり確認しておかなければならない。


「過去?…僕が出ているって?」


 驚く彼を尻目に、私は体を動かして立ち上がると、レオルドに近づいた。


「レオルド、あなたに聞きたいことがある。アデル様の心臓はあなたが、奪ったの?」


単刀直入に聞くと、驚いたレオルドが軽く息を吐き、


「何を聞いたのか知らないが、奪っていったのは確かだ」


 隠すことなく告げる。その表情は不機嫌そうだ。


「確か…ね。じゃあ、もう一つ質問。先程話してくれた裏切った件だけど、あれは自分の病を治すためにやった事だと教えてくれたよね。その奪った時、あなたは自分の意思で動いていたの?それともあそこの、白騎士のような状態?」


 一瞬虚をつかれたように目を剥き、レオルドは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「…あれは…そうじゃない。俺が、俺の意思でこいつから離れたんだ」


 次に口を開いたのは一拍置いてからだった。すぐに答えなかった彼を見て、はっきりした。


「そう…わかった。ありがとう」


 私はニヤリと笑って、お礼を述べた。レオルドが訝しげに眉を寄せて私を見たが、それ以上何も言わず、気まずそうな様子で黙り込んだ。


……今のでよくわかった。確かに、レオルドはアデルの心臓を奪い逃げたわ。ユリウスがその証人ね。でも、そのときの彼は間違いなく、あいつに乗っ取られていた。


 レオルドは幻影眼を使い、他人に化けていた。その幻影眼の事で忘れていた。


「ねぇ、なんで『幻影眼』が至宝だったのか、知っている?」


 ニッと笑って、唐突に質問を投げた。レオルドは不意打ちをつかれたように顔を強張らせた。


「スノウはね、その美しい外見だけじゃなく、とても神秘的な綺麗な目をしていたの。そして、誰よりもその能力を、忌み嫌っていた。でもね、幻術使いとしてはその名を轟かせ、誰も彼女に勝てなかったわ」


 レオルドの親。始祖の一人、スノウ。彼女の幻術は左目にあった宝石の力だけじゃなく、彼女自身が生まれ持った能力でもある。そして変幻自在に操る他人に化ける能力が、あの至宝の本当の力だ。


 レオルドは目を細め、息を呑んだ。


「皆、間違えているんだけど、スノウが持つ幻影眼の本当の能力は、変幻自在に他人になりすます能力。つまり、その至宝を手にすれば、思いのままに他人に化けられると言う事なの」


「…何が、言いたい?」


 重く口を閉ざして聞いていた彼が、ようやく口をついた。私はニヤリと面白おかしくするために笑みを浮かべ、


「スノウ。彼女は死んでいなかった。レオルドが目を盗んでそれを使っていた間も…彼女は、能力の変動で姿を変えてずっと、目の前にいたんだわ」


 マジナスの病で苦しんでいた子は、親を欺き、大事なものを奪って消えた。そのとき、能力を使い、そしてあの魔術師の禁忌を植え付けられた。


「不思議だったのよ。レオルドが病に悩まされていたのは知っていた。でも、それを初対面の私にペラペラと喋り、あの人形使いであるアレステの攻撃から私を助けたことが、とても気になっていたの。ねぇ…あなたは、本当にレオルド=コールデントなの?」



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