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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第二章 始祖の宝石
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十二.十字架のサファイア

 始祖の秘宝は貴重な宝として、世界に一つしかないレア物だ。それを手にすれば、世界を支配するのも簡単だ。それは彼だけじゃなく、他のヴァンパイアも狙っている。


「秘宝に魅入ったら最後、全て無意味な存在になる」


 レオルドの突然の言葉に、私はギョッとした。


「魔術師が、闇魔法を使い人間を支配したい理由は知っているか?」


 少し離れた所、壁際を探しているアレステに目を向けて、レオルドが静かに言った。彼がこうして話をしたのは、先程まで私がしつこく聞いたから。


「え?いきなり、何っ?支配したい理由なんて、人間が嫌いだからでしょ?」


「…嫌い、か。確かにな。人間は軟弱で無力なくせに、馬鹿みたいに歯向かってくる」


 言われてハッとした。やはり、レオルドは人間を毛嫌いしていたのか!だから、こんな質問を??


「レオ…それは自分の事を言っているの?」


 気になり、思わず聞き返した。彼は私を一瞥して、


「俺ではない。魔術師が、そう思っているんだ。人間は汚いモノで排除すべきだと」


 冷たく言い放つと、私を見る目に微かに怪しい光を見つけ、気圧された。


「腐りかけたこの世を一掃するには、一度、人間を消滅させる必要がある。新たな世界には、不要だから。それが魔法を操る魔術師達の、積年の願いだ」


 レオルドの言葉にはまだ何かが隠されているように聞こえた。でも、何故突然、私にこの話をしたのだろう?


「私に、それを話していいの?アデル…いや、ユリウスにチクっちゃうわよ」


 訝しげに告げると、レオルドはどうでもよさそうに肩をすくめる。


「言ったとしても奴等の敵ではない。ユリウスもあのアデルも、サイファーに勝つことはできないからな」


 そう微かに失笑し、レオルドは再び霊廟の棺辺りを探し始める。私は彼の後を付きながら、腑に落ちない事を聞いてみることにした。


「あのさ…!それって、魔術師だけに限ったことなの?ほらっ、あなた達も人間を、他のヴァンパイアを目の敵にしているでしょ?」


 私はレオルド達、過激派の目的の方が気になっていた。目の前に本人がいるからか、なおさら知りたくなったのだ。


「過激派?…俺達…俺は、ただ秘宝を集めたいだけだ。始祖が長生きしている理由に、症状を抑える力があるからだ」


 不意に彼はうんざりしたため息をつき、面倒臭そうに告げた。


「おい、何してんの?見つかったわけ?」


 そこにアレステが割り込んできて、私達の会話は途切れた。まだ聞きたいことがあったが、今は彼がいるから聞けず、レオルドももう話すのは終わりとばかり、秘宝探しに集中していた。


「…これ、一つ。棺の蓋に、欠けているが宝石がついていた」


 さっとポケットからいつの間にかそれらしい物を探していたらしく、レオルドがアレステに手のひらを見せた。そこには小さな青い石の欠片があった。アレステは眉を寄せてレオルドの手のひらのそれを掴んだ。


「妙に気が小さい。…ああ、これは、一部だな。この十字架に…ん、ぴったり収まる」


 十字架には十の下から五個分、埋めらている宝石がある。その三つ目の部分だけ欠けていたようで、今のがその欠片だった。


「ん?これは…!」


 はめた途端、光に包まれた。十字架が手から勝手に浮遊し、キラキラ輝きを放ち、それの色は青く澄んでいた。


「サファイアだな。十字架ではなくそこに埋め込められていたこの五個分が宝だったんだ」


 レオルドが目を細めてまとめた。この十字架はただの飾りだ。サファイアを手にしたアレステは口元に笑みを刻み笑い出した。


「ついに、三つ目の秘宝を手に入れた!コレで残すは後二つ!」


 感極まり両手を広げ、くるくる回る。サファイアの埋められた十字架は次第に光を失い、ゆっくりと落ちて、アレステの手に戻った。


「もう、いいか?サファイアは手に入れた」


 レオルドが嘆息し、ことが終わって帰還する気配を見せると、アレステは「待て!」と制止の声を上げた。


「まだ、帰るには早いよ、レオルド。そこの小娘の始末、忘れてない?」


 もう見つかったから、油断じていた。ハッと彼等を警戒したが、ゆっくりと伸びてきたアレステの騎士の剣が、私に迫っていた。


「…えっ!?きゃっ…!」


 回避する間もなく小さく悲鳴を上げた。剣は獲物を斬り刻み、私は血飛沫を浴びた。


「あ…っ?れ、レオルド!」


 ガクンと両膝をついた、レオルドの背が目の前に。私を庇い、血を流す。


「えっ?あ…!本当になんなの!?庇うなんて、おかしいんじゃない!?」


 斬りつけた本人も驚いたようだ。斬られたレオルドの姿に声を上げる。

 私は震えながら、庇ったレオルドの横に膝をついた。


「ど、どうしてこんな…!なんで、私を助けるの?」


 アレステの言う事は私も思っていた事だ。何故、レオルドが庇うのか全く理解できない。

 レオルドは口を拭い、左腹部を押さえ、痛みに耐えながらアレステを睨みつけていた。


「この娘は人質だ。アデルを前に殺しては…連れ去った意味がない」


 先程から私を人質と言うが、レオルドのそれは人質にしては態度が優しい。もっと残忍に、このアレステみたく扱うのがレオルドらしいと思った。


「は…!本気で、そう思ってるの?さっきから、レオルドさ、らしくないよ」


 渇いた笑いと嘲笑混じりの笑み。アレステは歪んだ表情で剣を振り、持ち直した。


「いいからさ、どきな。レオルド、人質なんかとっても意味がない」


 アレステの方が人質をとる犯人みたいだ。怒りで額に青筋立てて、笑顔で彼はまた剣を振るった。


私は今度こそ斬られる、と咄嗟にレオルドの腕にしがみつき、目を瞑った。


「そこまで、です!」


 次の瞬間、間髪入れずにユリウスの声がした。ハッと目を開ければ、ユリウスが剣を振り下ろしたアレステの剣を剣で受け止めている。


「…!?ユリウス?」


 レオルドが目を見開き、つぶやく。私はほっと息をついて、


「遅い!!もっと早く来て下さいよ!」


 涙目になって、ユリウスに向かって訴えた。

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