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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第二章 始祖の宝石
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十.霊廟の白騎士

扉となるそれはすでに開かれ、レオルドが中に入る。壁にかけた燭台にポッと炎が灯り、暗かった霊廟内が明るくなった。


「わぁ…広い」


 初めて訪れた霊廟は思っていたより広く、奥には祭壇とその前に大きな棺があった。


「これが、白騎士の…ん?レオルド、そういえば体は大丈夫なの?」


 レオルドが私の方を変な目で見ている。先程まで苦しそうにして動けなかったのが嘘みたいに、顔の血色はよく、平気な様子で私を担いでいる。あんなふうに急に動いたからそちらに気が回らなかったが、私を担いで走ったのは相当負担がかかったはず。

 もう一度彼に「どう?」と目で訴えた。しかし、彼はため息をついただけで何も答えず、そのまま私をゆっくりと地面に降ろした。


「貴様は何を知っているんだ?」


そして、レオルドは前を向き、私に問いかけた。私はその問いに面食らう。


「なんのこと?知っているって、秘宝のこと?」


 こちらこそ知りたい。そう思い問いただすと、彼は再びため息をつくと、そのまま奥へと歩き出した。


「あ…!ちょっと!」


 慌てて追いかけて、レオルドが棺の前に立つ。その光景に一瞬脳裏に、黒いフードを着た男が立っているシーンが見えた。


「…何?今の…?」


 痛みを感じ頭を抑えながら、再びレオルドの背を、そこにいる光景を見つめた。レオルドは少し佇んでいたが、何を思ったのか、その棺の周りをウロウロしだした。


「レオルド?何をしているの?」


 尋ねると、レオルドは難しい表情で、棺の蓋の縁を撫で始めた。その行動にピンときた。彼は、仕掛けを探している。



「鍵が、あるはず。秘宝を隠すには、な」


 レオルドが呟くように答え、棺にある仕掛けを探す。だが、三分してもなかなか見つからず、暇を持て余す私は他に周りに何かないか、探すことにした。


 こういう場合、棺だけでなく、壁際も怪しい。


 少し離れた壁には遺体が入るように、一つ一つが棚になっていた。取っ手があり、そこに鍵がついている。


「あれ?これは…?」


 右と左と変わらない壁を確かめた後、不意に左の真ん中の下、床に近い一つの棚に、頑丈な鍵と見たことのない形の文字が刻まれてあった。


「レオルド!これ、見て!」


 まだ探している様子の彼の方に声をかけてみると、レオルドが私の方にやって来る。


「何をして…ん?これは…」


 レオルドが何かに気づき、その文字を見つめた。段々と険しい顔つきになり、大きな鍵をなぞり、棺の方に再び戻り出した。



「レオルド?何か見つけたの?」


 レオルドは棺の蓋の左端に立ち、懐から何かを取り出すと、それをその左端に差し込んだ。私は慌てて近づき、レオルドが何をしたか確認しようとした。すると、ガタガタと、突然棺が大きな音を立てて揺れ始めた。


「わっ!な、なに!?」


 揺れた棺の蓋が勝手に開き、中からある遺体が現れた。


「これ…白騎士の?でも、なんでこんなに綺麗なの?」


 まだ死んで間もない姿。今にも動き出しそうな、死体。あれから何百年と経っているのに、なぜ白骨化していないのか?


「腐敗が進んでいない…?しかし、秘宝が…っ、これは!」


 レオルドが何かを見つけた。腐敗していない綺麗な遺体の胸元。両手を組んだその手の中に、大きな十字架のネックレスが握られていた。


「ちょっとレオルド!?」


 レオルドは臆することなく遺体の腕を両側から掴み、そのまま左右に力を入れて握る手を広げる。その行動に驚いて声を上げたが、遺体が硬くなっていないことにも驚き、息を呑む。

 普通なら体全体が硬直して、簡単に指を広げることはできないはずだ。できたとしても、力任せにすれば、バキバキと折れたり、外れたりするはず。


「ちょっ、ちょっと〜…これ、本当にいいの?」


 死んだ人に罰当たりな、と言いたいところだが、レオルドは真剣な表情で、遺体の手元から奪い取った十字架を見つめている。


「おい、貴様も見てみろ。コレから秘宝の気が伝わってこないか?間違いなく、コレであっているはずだ」


 レオルドにはその十字架は普通のネックレスに見えないらしく、それが秘宝なのだと教えてくれるが、私には何の気も感じない。それよりも遺体が気になっている。

 レオルドのせいで開いた両手が微かに曲がっているような気がする。

…ん?あれ?今、指が動いた!?


「レオルド!!」


 その瞬間、私は叫んだ。レオルドがハッと棺の方を向いたが、遅かった。突然伸びた両腕が隣りの彼を掴み、引き摺り下ろしたのだ。


「きゃああああーーっ!レオルド!」


 遺体が、遺体が動いた!


「くっ…離せっ!なんで…貴様!」


 棺の中に引き摺られたかと思ったが、上半身を上げてなんとか棺から離れようと、左右の縁に手をついて踏ん張っている。


「いやぁあああ!な、な、なんで死体がぁっ!?」


 私はパニックになって、悲鳴を上げる。引きずっている遺体はレオルドの首にしがみつき上体を起こして、今にも噛みつきそうに、口を大きく開けていた。


「この…気色悪い…っ」


 ブチっ!とレオルドの堪忍袋の尾が切れた。踏ん張っていた彼は突然頭を引くと、思い切り、その遺体に向けて頭突きをしたのだ。


「ガブっ!?」


ガツン!と当たった遺体が頭から後方によろめき、レオルドの首から手を離す。その隙を狙い、再びレオルドは遺体に向けて右拳を振り下ろし、力一杯その顔を殴りつけた。


「ぐっ…!?な、な、何をする!!」


 私がギョッとし声を失う。


 死体が喋ったのだ!

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