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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第二章 始祖の宝石
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六.事故からなる誤解

早朝に人間側のルシャナが帰ると、ヴァンパイア達は仮眠を取る為、各部屋に戻って行った。だが、私の部屋に来た偽アデルは結局そのまま私の部屋に居座り、彼が妙な事をしないか、変な緊張感に包まれながら睡魔と格闘して、気づけばベッドに寝かされていた。


「やぁ、おはよう」


 目の前に奴の顔がある。隣に横になっていた。


「ぎゃっ!なんであんたが!」


 慌てて起き上がると、彼もゆっくりと上体を起こして、ふっふっふと、意味深に笑う。


「やだなぁ。昨日、君が僕を離さなかったんだよ?覚えていないの?」

  

「ハっ?何を言ってるのよ!離さなかったんじゃなく、あんたが私を寝かせてくれなかったんじゃないっ」


 カッと顔が赤くなり、妙な事を言う彼に怒鳴った。


 …私が覚えているのは、彼がこの部屋に居座り睡眠妨害したこと。寝るから出てけ、と追い出そうとしたが、力関係ではヴァンパイアの力には敵わなかった。


「えぇ〜?そうだったかな?眠たいと言う君に代わって、僕がユリウスに話しに行こうとしたら、君…なんて言った?」


 思い出せ。この男が言っていたことを…。


「…あんたが、ユリウスに話すからと言って、私はそれは自分で話しをするからと、あんたを止めた…?」


 あのとき限界で、とにかく早く寝たかったため、彼が勝手な事をしないように止めた。でもあれは、こいつを引き止めたのではなく、ただユリウスのことは自分で話したいから引き止めたまでで、そこに特別な感情などなかった。


「ほらっ、君が引き止めたんだよ!そしたら君、そのまま寝ちゃってさ。僕、出ていくのも気が引けて…。仕方なくベッドに寝かせてあげたんだ」


 恩着せがましい。

 この男が早く出て行けば、そんな事にはならなかった。


「あのねぇ!あんたが早く出て行かないから、私がっ、そうする羽目になったの!それよりもさぁっ、いい加減にベッドから離れなさいよ!」


 いつまで横にいるつもりだ。

 私が怒鳴りつけて、強引に彼をベッドから追い出そうと強く押した。


「あっ、待ってっ!そんな、急に…っ」


 一刻も早く、この男をベッドから引きずり降ろしたい。そればかりに気を取られて、彼を押したことで自分の体勢がもつれた。


「えっ?ちょ…っ!?」


 そのため、彼が頭から落ちると同時に、掛け布団の上についていた手が滑り、私もそのまま一緒に床へと落ちてしまった。


「う…っ。なんで、こんな…」


 最悪。受け身を取り損ねた。だが、幸いにも先に落ちた偽アデルがいたので、彼の胸に倒れ込み痛みはさほど感じない。


「く…っ、カノン。なんて無茶な事を」


 下から響く声と息付きに、ハッとした。


「あっ、ご、ごめん…!」


 慌てて床に両手をついて、起き上がった。目の前に押し倒した格好で仰向けになっている彼。至近距離に顔があり、また羞恥に顔が熱くなった。


「なっ、なっ、なにをしてるんですかぁっ!!?」


 次の瞬間、聞こえた大きな叫び声。

 

 ハッとしてそちらを振り向けば、扉の前にいつの間にかユリウスが立っていた。彼は青ざめたり赤らめたりと表情を変えて、私は見られた事に慌てて立ち上がった。


「ちっ、違うからユリウス!これは、そんなんじゃないから!」


 押し倒したように見えるが、故意じゃない。事故だ、事故!


「あ、あ、あなた…っ、やはり初めから、あ、アデル様の事を…っ!!」


 顔を真っ赤に、ユリウスがこちらに指を差して近づいてくる。

 ああ、一番誤解されたくない人に誤解されてしまった!


「あれ…?なんだ、ユリウス。来ていたの?」


 焦る私とは反対に、偽アデルは暢気にユリウスが来た事を不思議に感じているようだ。


 ユリウスは偽アデルに声をかけられ、更に顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を泳がす。


「わ、私は、あなたをさ,探しに来て…っ!」


 真っ赤になって吃りながら叫ぶ。

 

 何かなぁ、この雰囲気…。

 

 そこまで恥ずかしがるような場面ではないのに、ユリウスは生娘のように初々しい反応をする。これは、前世でも見たことがある。ユリウスは誰よりも純粋な心を持ち、恋愛面に関してはとことん初心である。

 そこは変わらず、前と同じほどの反応に、今回は少し苛立った。


「あの、ユリウス様。これは本当に誤解ですよ。私がただ蹴躓いて彼の上に落ちただけです!」


 彼は私を偽アデルを誘惑する女狐とでも思っていそうだ。釘を刺すように話せば、私を睨む目の冷たさが半端なく怖い。


「そんな言い逃れで私を誤魔化せると?大体初めから怪しいとは思っていました。あなたのような娘が私達に近づいてくるのを。あのスイーツのことも、何故知っていたのか…。アデル様を狙っていたからだ」


 言っても彼には通じない。余程衝撃的な光景だったのか。純情な彼には、刺激が強すぎたのだ。


「はぁー…やめなよ、ユリウス。彼女の言う事は本当さ。思いもよらぬ事があり動揺してね。寝ぼけて、倒れてしまったんだ」


 偽アデルがうんざりしたように告げると、


「それでも、気をつけるべきです。二人きりなど、なおさら…」


 拗ねたように不満を溢し、偽アデルにも冷たい視線を送った。そんな彼に再びため息をついて、偽アデルはユリウスの方に近づいて、


「それで?ここに来たのは、何かあったの?」


 これ以上言っても埒があかないと思ったのか、偽アデルは上手く話を逸らした。ユリウスはハッと我に返り、思い出したように慌てた表情を向けた。


「あ、そ、そうでした!あなたを探しに来たのは、朝方、あの『人形使い』の犠牲者が、この街の霊廟に現れたのです」


 霊廟は墓場と同じだが、その霊廟には昔から街のお偉い方が埋まっている場所。この街をアレステと呼ぶのだが、アレステと言う名前の由来は、昔、敵国と戦って功績を上げ貴族となり、街で初めての騎士となった人の名前からつけられた街名。

 そのアレステも霊廟に埋まっている。


「霊廟…?この街に?」


 偽アデルは知らないようだ。アレステはこの街の誰もが知っている。貴族に扮してヴァンパイアが遊技場として人間を襲っていた二百年前。それよりも前の話だと言う。

 結構古い歴史ある街らしいが、ヴェルド国の首都になる事なく、貴族達もその首都で暮らしてここにはいない。街にはまだ逸れヴァンパイアがいる危険な場所である。


「霊廟には、白騎士がいます。白騎士はこの街の英雄であり、我々は彼と一緒にエンジニアであのレオルドを追い詰めました」


 ユリウスは覚えていない偽アデルに説明をつけ、少し悲しげに目を伏せた。


「そのとき、あのスノウ様も、亡くなられた。白騎士もまた、ヴァンパイアを一掃して亡くなっています」


 その話はこの街にある情報とは違った。白騎士はアレステだが、彼はヴァンパイアを一掃したのではなく、敵国となるエンジニアとの戦いでできた怪我の後遺症で亡くなったと言われている。


「それで、その霊廟に現れたのは何故?まさか、そこにもあったのか?」


 今の自分たちが探しているあの宝石に関連しているのかと、気づいた偽アデルが真剣な表情になって問いかけると、ユリウスは緊迫した様子で頷いて、


「ええ。ですから、レオルドは前から狙ってこの付近に現れていたのです。宝石はサファイアでした」



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