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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第二章 始祖の宝石
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五.夜遅くの訪問

 これは昨日の会合の後のこと…。


 夜遅く終わった会合で、この遊技場の屋敷に泊まることにした。

 

 夜はヴァンパイアが活発するからだ。

 

 それでみんなが寝静まって、私は寝るのを堪え、偽アデルに会いにいった。というより、偽アデルが何故か私に会いに来た。手間が省けたのだが、何故来たかわからない。泊まる事になった私が使う客室に現れたのだ。


「僕が来て、驚かないの?」


扉を開けようとする前に、扉がノックされた。開ければ偽アデルがいて、驚いたが、顔にださないようにした。


「驚いたわよ。でも、来てくれて手間が省けたわ。私に何か用があるんでしょ?」


 先を読んで告げると、彼はまた驚いたようだった。


「そうだけど…まぁ、いいや。中に入らせてもらう」


「は?えっ、ちょっ…勝手に!」


 廊下で立ち話するような話じゃないのは確かだ。でも、勝手に入る彼に思わず抵抗したが、あっさりかわされた。


「静かにした方がいいんじゃない?人間は寝てる時間だ」


 しまいに私の声で周りにいる仲間が気づくと脅され、口を閉じるしかなかった。

 顔を顰めて睨むと、偽アデルは面白そうにクスッと笑い、ベッドに座りくつろぐ。


「…あんたねぇ、こっちに座ってよ」


 一応、乙女の部屋なのに、いきなりベッドに座るとか、ありえない。


「え…?あぁ、ごめんごめん。そういうの気にすると思わなかったから」


 思わず「は?」と声を上げた。この男、何がいいたいんだ?


「いや、だって君…。僕には遠慮ないし、異性として意識してないからさ」


 当たり前だ。誰が前世の自分のそっくりな男を意識する?

 でも、改めて言われて見ると…やっぱり、イケメンだよな。それも超絶美形!!

 ……はっ。ダメダメ!今のナシ!


「あんたはタイプじゃないからっ。それより、ここに何をしに来たか早く言って!ないなら、私から言うけど?」


 話が進まないから焦れる私に、彼はおかしそうに笑みを浮かべながら、


「話しと言うか…昼間のこと。君がユリウスに助けられていたことで、ちょっと気になったから」


 夕方前には目を覚ました私は、この男とユリウスに甘いスイーツを作った。ユリウスならこれで思い出してくれるのではないか、と期待しながら。


「それがどうしたの?あれは、恩人のユリウス様に、私を思い出して欲しかったから作ったの」


 結局期待した反応を見せず、逆にスパイだと勘違いされた。

 

「いや、そうじゃないんだ。僕が知りたいのは、あの神父にユリウスが来ることを聞いていたのか、気になってね」


「来ること?…どういう意味?」


 話が見えない。神父はクリスさんだよね?


 訝しげに問いかけると、偽アデルは唐突に冷たい空気をまとい、目を細めてこちらを探るように見つめた。


「君のような子が、ここに来れた理由だよ。ユリウスがここに来る保証はなかったはず。クリスという神父に、君はユリウスに助けられた事を話していなかったみたいだからね。そうなると何故ここに連れて来てもらえたのか、そこがなーんか、引っかかるんだよね」


 偽アデルはユリウスに助けられた話が嘘ではないかと、疑っているようだ。

 

 勘が鋭い。


 確かに私はクリスさんに、その事を話してはいなかった。だって、その話は真っ赤な嘘で、この男とユリウスを騙すための芝居をしたから。それに助けられたという話しを持ち上げたのは、私が本物のアデルなのだとユリウスに伝えるため。その前に彼に近づくきっかけが欲しかったため、咄嗟に思いついたことを話したまでだ。クリスさんが知る由もない。


「…まさか、あなたもユリウスのように、私がどこかの国のスパイなのかと怪しんでいるの?」


 私は逃げ道を作った。ここで嘘だとバレると話がややこしくなるので、あの時ユリウスに怪しまれた事を、今度は私から偽アデルに聞いてみた。

 すると、彼は一瞬目を見開き、すぐに首を振って、小さく鼻で笑った。


「まさか、そこは疑っていない。だけど、僕やユリウスのことで何かを隠しているんじゃないかって、そこは疑っているね」


 どちらにせよ、彼は疑っている。

 本当のことなど話せないから、まいった。ここで嘘をついても、簡単にバレそうだな。彼の目つきはそれを物語っていた。

 冷たい視線と威圧感。それに、押し寄せる圧迫感。


「…怪しむのは当然と思うけど、話をするにはまだ心の準備できていないの。ユリウス様の事は本当よ。昔、私がピンチな時に彼に助けてもらった。そのときの恩は本物よ」


 詳しく話そうとすれば、この男は私をどうするだろう?

 自分が偽物だと言われれば怒って、最悪命を奪う。


「だから、ユリウス様の近くに、いたい。あんたが私を信用できなくても、私は彼から離れるつもりはないわ」


 今、確かな事は、ユリウスから離れず近くで見守ること。

 レオルドとのことは、私には詳しく思い出せないが、ユリウスにとって今のレオルドは、大変危険な人物なのは確かなようだ。それにアデルの、自分のことも気になる。私はあのあとどうなって、この目の前の偽アデルがアデルと名乗るきっかけになったのか…彼のことも含め、私はここに残りたい。


「それは、君はここに残って、ユリウスの近くにいると?」

 

 偽アデルが結論付けて、私が彼に言いたかったことを先に答えた。その問いに、私は頷いて引き攣った笑みを浮かべた。


「そういうこと。私はユリウスの近くにいたくて、あんたに許可をもらおうと思って起きていたの」


 その答えに、彼はベッドから立ち上がる。流れるように白銀髪が揺れて、スッと音もなく中央にいる私の前に移動した。

 ギョッとして、体をのけ反らせると、にっこりと妙に嬉しそうな笑みを浮かべた彼が私の腰に手を回し支えた。


「なら、僕と同じだ!本当は君を引き止める為に、ここに来たんだよ」


 逃がさない、と耳元で、偽アデルが囁いた。






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