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舞い戻ったあの子は大悪党を手懐けてみた  作者: 綺璃
第二章 始祖の宝石
12/32

一.会合の続き

 ずいぶん遅くなった。

 私は偽アデルとユリウスに案内されて、クリスさん達のいる部屋に向かっている。

 そこには、人間側の会合のリーダーとなるジェイクとハンター協会の代理で来たクリスさんとその仲間のキナリさんなどがいるらしい。また、偽アデル達ヴァンパイア側は軍服の男性と先程ユリウスが帰ってきた事を伝えに来た美女のジェニファーがいるとのこと。


 今回の会合はまだ話し合いが終わっていないようだ。


 秘密通路から入ったあの部屋でも話をしていたのだが、私があんなふうに倒れたことでちょっとした騒ぎになり、会合を一時中断したようだ。


 会合の話は夜からという事になり、会合場所を使われていない遊技場の屋敷に変えて、話を再開する事にした。


 それにはまず、私を人間側のリーダー、この街の用心棒であるジェイク達のいる場所に行って、心配している彼らの元に私を戻した方がいいと言う話になった。

 まだユリウスと話をしたかったが、あのままでは本当のことを言えない事に気づき、また後で話そうと、一旦引き下がる事にしたのだ。


 こうして二人に連れられてクリスさん達のいる部屋に戻って来たのだが…何やら、部屋の中がギスギスしてて、入りにくいぞ?


「失礼します」


 そこにユリウスが扉を叩き、注意を引きつけた。


 ハッとしたようにクリスさんやジェイクの仲間がこちらを振り向く。その前には軍服の男、偽アデルの仲間の一人がいた。


「ユリウス殿。戻ったのですか」


 初めに彼の姿を見て声を出したのは、その軍服の男。褐色の肌に短く刈り込んだ黒髪に黒い軍服帽子を被り、冷たい深緑の目がユリウスに向いている。


「トール。久しぶりですね。それより、この雰囲気はどうしたんですか?何か、ありましたか?」


 先に入ったユリウスが事情を尋ねると、トールはムスッとした顔をした。


「どうもこうもない!この分からず屋の人間どもが、我ら殿下の事を愚弄しているのだ!」


 目の前にいる人間側のクリスさん達に向かって叫ぶ。それを聞いた彼等も不機嫌な表情をして、


「分からず屋とは聞き捨てならない!あなた方が先に我々を侮辱したんだ!」


 大きな声を上げて反論した。


 何があったのか、彼等の間に誤解が生じてしまったようだ。


 ユリウスは困惑したようで、こちらに振り返り偽アデルに視線を送る。それを横で見ながら、私もどうすればいいかわからず動けずにいた。


「お互い頭に血が上っている。冷静に話し合いができないようだね。うーん…ちょっと、トール」


 そこに偽アデルがため息をついて、自分の仲間の軍服男を手招きした。

 トールと呼ばれた彼は、ユリウスの後ろに偽アデルがいることに、ここで初めて気がついたようだ。


「えっ?アデル様っ!い、いらしたのですか!?」


 ギョッとしたように後退り、声を上げた。


「あ〜…うん。まぁ、いたね。…それで?何があったのかな?」


 気づかれてなかった事に偽アデルは苦笑して、もう一度彼に向かって質問した。


「あ…は、はい。アデル様のいない間、我々だけでと話を進めていたのですが、コイツらがアデル様の事を愚弄し始めたんです。地下で話をしていた時、そこにいる娘を騙して補食しようとしているのではないかと、疑ってきたのです」


 そこまで言い終え、ジェイクの仲間達を冷たく睨みつけた。


「それは…!我々はその娘が倒れたのは、あなた達の強い気に当てられたのだと聞いたからですっ。強いといえばあのとき、この娘はあなたを見て、すぐに倒れた。おかしいと感じるのは普通のことだと思いますが…?」


 人の背で見えなかったが、奥から聞き覚えのある声がして、その人がゆっくりと前の方に姿を現す。


「神父様!」


 案の定、その声の主はクリスさんだった。彼は相手に負けて劣らず冷たく睨み返していた。


「変な勘ぐりはよせ!この方がそのような事をして何の得がある…っ?我々は人からの吸血を禁じているんだ!」


 クリスさんの言葉に、トールが顔を真っ赤にして怒鳴った。

 トールの言っていることは、本当のことだ。私も前世、人からの吸血を禁じていたからだ。


「なら、何故この娘だけを一人、連れ出したのですか?確かあの時、その方は神聖な場所に行くと申していた。だが、私がその後にその場に行っても二人は居なかった。今までどこに居たのでしょうか?」


 疑いの眼差しは偽アデルに向けられる。

 その質問に、私はドキッ!とした。


 初めはこの偽アデルに無理矢理連れて行かれたが、それも一階に降りた時の初めだけ。後は私がどうしてもユリウスに会いたくて、すぐにクリスさんの元に帰らなかった。

 偽アデルがアデルのフリをして周りを騙している事が腹正しかった。それを解決してくれるユリウスに会おうと思い、他のことなど考えらなかった。


「ああ…そういうことか。どうやらあなたは僕を誤解しているみたいだ。あのとき、僕はこの娘の魂魄が不安定だと感じて、新鮮な場所にこの娘を連れ出したんだ。神のいる礼拝堂ではなく、唯一綺麗な空気を持つ裏庭に連れて行ったんだよ」


 偽アデルは冷静な態度で、笑みを浮かべて答えた。


「裏庭…?裏庭は外ですよね?外は、危険なはずだ」


 クリスさんが眉を寄せ、冷たく言い返す。


「ああ、まぁ…そうだね。でも、裏庭には僕が張り巡らせた結界がある。あそこには逸れがいるが、襲ってこない。結界が守っているからね」


 だが、偽アデルはクリスさんの指摘に笑みを崩すことなく答えた。クリスさんは眉間に深いシワを寄せて、舌を鳴らした。


「ですが、そうだとしても、時間が経ちすぎている。あなたが連れて行ったのは、裏庭だけではないはずだ」


 クリスさんの強い口調で、ハッとした。多分、クリスさんはレストランにいた仲間に聞いたのだろう。私達がそこにいて、仲間と言い争いになった事、三人で厨房へと入っていったこと。


 彼等は私達がそこで何をしていたのか、詳しく知らないから、そのときに私が強引に吸血行為をされたのかもと、疑ったのだろう。


 まぁ、考えれば無理もないな。


 二人の吸血鬼と小娘一人…。普通に見れば私なんて、恰好の餌食だもん。それにクリスさんは、私をここに連れてきた責任を感じているので、余計に気になるのかもしれない。


 そう思ったら、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「あのっ、神父様!ごめんなさい…っ。私が、悪いんです。この人に寄り道をしようと頼んだのは、私なんです」


 私はクリスさんと偽アデルの前に出て、叫ぶように言った。偽アデルを庇うつもりはない。ユリウスに会いたいからとすぐに戻らなかったのは私の意思だ。


「え…?カノンさんが、自分で?」


すると、私の言葉が意外だったようで、クリスさんが驚いたようにこちらを見た。


「そ、そうです。私が、自分の意思で彼にお願いをしたんです。この方…ユリウス様に会いたいからと、無理を言って頼みました」


 嘘はついていない。偽アデルは私に巻き込まれた。

 だが、クリスさんは私の言っている意味が理解できないのか、混乱したように偽アデルを見ては私に視線を向ける。


「その、私…ユリウス様に助けてもらったことがあるんです。それで、彼もここに来ていることをアデルさんから聞いて居ても立っても居られなくて…!彼を探しに一階にあるレストランに寄り道をしたんです」


 簡単な説明と謝罪を入れて正直に話すと、クリスさんは難しい顔をして黙り込み、私から、この成り行きを見守っていたユリウスの方へと振り返った。


「カノンさんの…この娘が言った事は本当なのですか?」


 ユリウスに確認するように問いかける。ユリウスは偽アデルをチラッと見てから、深いため息とともに頷いた。


「まぁ…そういうこと、ですね。アデル様に頼まれ、私はこの娘と話をしました。そのとき、三人だけで厨房で話をしたので、きっとそれをあなた方は誤解したのでしょう」


ユリウスはユリウスで、これ以上ややこしくなる前に解決しようと、私の話しに合わせてきた。


「いや、待ってくれ!俺は見たぞ?その娘さんが嫌々ながらも厨房で料理させられていた!あれは、どういうことなんだ?」


 そこに、仲間の一人が口を挟んできた。

 彼は実際にレストランにいたのだろう。だが、話が…いや、見たわりには的外れなことを言っている。


「あなたの勘違いですよ。それは私とアデル様からではない。この娘が、自分から厨房に立ち、料理を振る舞ったのです。昔、私に助けられたからと、私の好物を作ってくださいました」


 そうですよね、と冷たい視線で、ユリウスが訴えてきた。


 私はうんうん頷いて、


「そうですそうです!私が自分から厨房に立ち、恩人の彼に少しでもあのときの恩を返そうと、料理を振る舞ったんです。あ、アデルさんは、私の手伝いをして下さったんです!」


 声を上げながら本当にあった出来事を彼等に伝えた。


 仲間の人は何か言い足りない様子だったが、それ以上のことは問わなかった。私はそれを確認してクリスさんに振り向き、


「そういうことで、私が勝手にした事ですから、神父様。どうかこの二人を悪く言わないでください。罰するなら、私にお願いします」


 自身が悪いのだと、両手を前に組み、潤んだ目を向けてはっきり伝えた。クリスさんの険しい顔が段々と緩くなって、頭を抱えるように深いため息をついた。


「…そうですか、よく分かりました。私達が、変に考え過ぎていました」


 そこで言葉を切って、彼はユリウス達に向き直った。


「ユリウス殿…それに、アデル様。此度の件で我々は貴方達に大変失礼な事をしました。憶測でものを言い、勝手に決めつけて…聖職者として恥じるべき事です」


 そう弱々しく告げて、深々と頭を下げる。


「どうか、そのあなたたちの深く寛大な御心で、我々の恥ずべきこの行為をお許しください。私も、仲間も、深く反省しております」


 最後に肩苦しくも心のこもった謝罪を告げて、クリスさんは申し訳ない表情で二人を見つめて、再び頭を下げた。


「クリス…」


「クリスさんがそう言うのなら…」


「俺も…申し訳なかったです」


 その後、次々にクリスさんのように仲間達が頭を下げ謝っていった。

 その謝罪をユリウスはため息をついて聴き、偽アデルに冷たい視線を向けた。これは偽アデルが私を連れて来たからだと、ユリウスは視線でそう訴えていた。


 偽アデルはやれやれと肩をすくめて、謝罪する仲間達に困ったような笑みを浮かべた。


「あなた方は、何も悪くないですよ。こちらこそ、無断でこの娘さんを連れ回した。あのレストランで会った時、仲間の人に先に言うべきでした」


 気持ちを込めて彼も微かに頭を下げ、謝る。


 勘違いからクリスさん達は偽アデル達に悪い印象を持ってしまった。だが、今の私の言葉で伝わったように、この偽アデルの謝罪に仲間達も彼が悪い人ではないとわかったはずだ。


仲間の中で、虚をつかれたように驚く者や、偽アデルのような貴族よりも高貴なヴァンパイアが謝る事に少し慌てたような、居心地悪い様子で見る者もいた。



「いや、俺たちは別に…!」


「あなた達は、悪くないだろ。これは、こっちが勝手にな…?」


「そうだ。よく考えれば、この娘が自分でやったんだから、あなたたちが謝る必要はないと思う!」


「そうだそうだ!」


 偽アデルのような人に謝罪をもらったことが意外だったのか、一人が慌てふためくと周りもそれにつられ、焦ったように謝り、偽アデルは悪くないと告げる。

 

 これは、これで解決に導くのか…?


 お互いが謝罪し合い、剣呑で嫌な雰囲気が和らいできた時だ。


 ドン!!と強く叩く音が響き、バキバキッ!と何かが折れて砕けるような音がした。


「こんな…こんな軽い謝罪だけでは、殿下を疑い侮辱した行為、俺は許さないぞ…!」


 その破壊と怒鳴り声に皆がハッとした。


 そちらを振り向くと、怒りで顔を真っ赤にした軍服の男トールが拳を握ったまま、真っ二つになったテーブルの横に立っていた。


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